捜査13日目~遺産
マイヤーとタウゼントシュタインは馬屋に向かう。二人は馬にまたがるとゆっくり進む。
タウゼントシュタインは少しうつむいている。考えを巡らせているようだ。
「ヴェールテ家のお金の動きを知りたいですね。内務局の長官に賄賂を贈っていたのであれば、それなりの額のお金を使っていたのでは?」
「お金の管理は家族がそれぞれ管理しているのでないのか?」マイヤーはうつむいて考えた。「もしくは執事がやっているとか?」
「遺産の相続は行われたのでしょうか?」
「きょうだいが訴える準備をしているといっていたので、ひょっとしたらまだ配分されていないのでは?」
「配分されていないとすると、遺産はどうなっているのだろう?」
「遺産の管理をしている者がいるのでは?」
それは誰だ? マイヤーは再び考え込んだ。執事? 彼がそんなことをしているのだろうか? マイヤーはもう少し考えて、思い出した。
「そうだ。弁護士がいて遺言書を預かっていたな。ひょっとしたら彼が遺産を管理しているのかもしれん」。
「では、その弁護士に合わせてください。話を聞いてみたいです」。
「いいだろう。付いて来てくれ」。
マイヤーはそういって手綱を打った。タウゼントシュタインのその後に続く。
時間は午後早く、馬をしばらく走らせて二人は弁護士事務所の前に到着した。 “ハルトマン弁護士事務所” だ。マイヤーが前にここへ来たのは、もう十日程前になるだろうか。馬の手綱を柱に括り付けたあと、マイヤーとタウゼントシュタインは弁護士事務所の扉をノックして開けると、弁護士のリヒャルト・ハルトマンと別の老夫婦が居た。彼らは執務机を挟んで座っている。ちょうど相談を受けているところのようだ。
ハルトマンは、マイヤーたちに気が付いて、手で「後で」と合図した。マイヤーたちは一旦扉を閉めた。
しばらく待って、老夫婦が扉を開けて出ていくと、代わってマイヤーとタウゼントシュタインは事務所の中に入った。
「こんにちは。お待たせして申し訳ございません」。
ハルトマンは立ち上がって挨拶をした。タウゼントシュタインを見ると続けて言った。
「今日は先日の方とは違うんですね」。
「ええ、事情があって担当を変えました。彼女はソフィア・タウゼントシュタインと言います」。
「初めまして」。
タウゼントシュタインは軽く会釈した。
「よろしくお願いします」。とハルトマンは挨拶を返した。「どうぞ、おかけください」。
二人に椅子に座るように促すと、マイヤーとタウゼントシュタインは椅子に座る。
少し落ち着いたら、マイヤーが話を切り出した。
「実は、ヴェールテ家の誰かが、内務局の長官に賄賂を贈っていた可能性があります。そうなると大金をどこかから調達しなければなりません。そこで、財産や遺産の管理を弁護士であるあなたなら、知っているのではないかと思い今日は来ました」。
「確かに私が遺産の一部は管理しています。屋敷の権利書は私の手元に、現金のほとんどは銀行に預けてありますが、貴金属や美術品の類は屋敷の中にありますが。その管理は執事のベットリッヒさんがやっていますね」。
「そういえば、以前、執事が美術品を処分すると言っていて、三日ほど前に行ったらほとんどが無くなっていました」。
「そうなんですか?」
弁護士は少々驚いたようだった。
「美術品は高価なものなんですよね?」
タウゼントシュタインが尋ねた。
「もちろんです。屋敷内にあった美術品で、あの屋敷と同じような物件がいくつも買えるでしょう」。
「ではそれを処分して、賄賂に使ったのでは?」
「そんな、まさか」。
弁護士は驚いて身を起こした。
「状況からして、そうとしか思えません」。マイヤーが落ち着いた口調で話す。「執事が勝手に美術品を処分するとは考えられません、そうすると、スザンネかマルティンが指示した可能性が考えられます」。
「屋敷に行ってみましょう」。
弁護士は立ち上がって、洋服掛けにかけてあった帽子を手に取った。マイヤーとタウゼントシュタインも立ち上がった。
マイヤーは弁護士に馬の自分の後ろに乗るように言った。タウゼントシュタインもマイヤーの後に続く。弁護士事務所からヴェールテ家の屋敷はすぐ近くだ。ほどなくして、ヴェールテ家の屋敷に到着した。
マイヤーが門扉に近づくと門扉に鎖がかけられているのに気が付いた。屋敷の方を見てみたが、中には人がいる気配がなかった。
「不在のようだ」。
マイヤーが小さく言った。
「どこかに出かけているということは?」
タウゼントシュタインが尋ねた。
「本来なら、執事か召使いのどちらかは残っているのでは?」。
弁護士がそれに応える。
「なんとも言えませんが、また出直しましょう」。
マイヤーはそう言って、馬を返す。
マイヤーとタウゼントシュタインは弁護士を事務所へ送り、次は新聞社に向かう。
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