捜査13日目~屋敷

 マルティンは門扉の南京錠のカギを開ける。マルティンに続いてマイヤーとタウゼントシュタインも敷地の中に入った。

 屋敷の扉の鍵もマルティンが開け、中に入る。

 入ってすぐ、玄関にあった美術品がほとんどなくなっていた。やはり処分したのだろうか。マイヤーはそれが気になってマルティンに尋ねた。

「美術品を処分する件はご存知ですか?」

「いえ、全く」。

 マルティンは美術品にまったく興味が無い様子だ。


「執事の部屋を見てみましょう」。

 マルティンは少々早足で一階奥の執事の部屋に向かう。執事の部屋の扉の前に立つとノックをする。案の定反応はない。

 取っ手を回して開けようとするも、鍵がかかっている。

「さすがに彼の部屋のカギは持っていません」。

 マイヤーは扉に耳を当てて中の様子を伺うが、誰かがいる気配はない。

「扉を壊してもよろしいですか?」

「構いませんよ」。

 マルティンは承諾した。

 マイヤーは少し後ろに下がり、思いっきり扉を蹴った。三、四度蹴ると鍵が壊れ扉は開いた。

 マルティンはすぐさま中に入る。マルティン、タウゼントシュタインもその後に続く。

 中には誰も居ない。部屋の中をくまなく調べると、クローゼットの服が少なくなっている、日用品もほとんど残っていない。この様子から荷物をまとめて、どこかに遠出したようだ。

 続いて、継母のスザンネ、召使いのヒュフナーの部屋も扉を壊して開けた。


 スザンネの部屋も荷物をまとめて出ていったような形跡があった。しかし、ヒュフナーの部屋はその形跡がない。

 スザンネと執事は遠出の準備をしていたが、召使いはそうでなかったということか。どういうことだ? マイヤーは首を傾げた。

「通りで監視している帝国軍の兵士に屋敷から誰か出なかったか聞くのはどうでしょう?」

 タウゼントシュタインが提案する。

「そうだな、それはルツコイにお願いしよう」。

「私は屋敷の中をもう少し探ってみます」。

 マルティンはヒュフナーの部屋を見まわしながら言った。

「わかりました。我々は一旦城に戻ります」。

 マイヤーはそういうと、敬礼してタウゼントシュタインと一緒に部屋を出て、屋敷を後にした。


 城に戻る馬上でマイヤーとタウゼントシュタインはこの件について話をする。

 マイヤーは考えを巡らせてから言った。

「こうなると、逃亡したという線が濃くなるね。おそらく、連続殺人の首謀者はスザンネか。それとも執事か召使い。もしくは全員かもしれん」。

「しかし、動機は何でしょうか? 何もなければほとんどの遺産を手にできたスザンネとは考えにくいです」。

「遺産が動機ではないのかもしれんな」。

「となると怨恨?」

「考えられる」。

「家族同士が怨恨を抱とは、どういうことでしょう?」

「スザンネは後妻で、他の家族とは仲が悪かったようだから、その辺とかかわりがあるのかもしれん」。


 タウゼントシュタインはスザンネついて、ほとんど知識がないはずなので、マイヤーは少し説明する。

「スザンネはモルデンで看護師をしていた時に、殺されたきょうだいの父親ブルクハルト・ヴェールテと知り合った。父親は心臓に持病があったらしい。戦争中にズーデハーフェンシュタットに逃げ延びてきて、戦後すぐに結婚した」。

 マイヤーは少しうつむいて色々考えるが、これまでの情報ではスザンネが他のきょうだいに恨みを持つような事案が思い当たらなかった。我々が知らない何かがあるのだろうか?

「それに犯人は内務局や帝国軍に手を回して捜査の妨害ができる。スザンネはそういったことは他の家族がやっていたといっていたが、嘘なのかもしれん」。

「スザンネからもっと事情を聴くべきですね」。

「そうだ。しかし、姿をくらませてしまった。いったいどこに行ったのだろう?」

「行く当てはあるのでしょうか?」

「全く見当もつかないね」。マイヤーは軽くため息ついた。「いずれにしても帝国軍の監視が何かを見ているかもしれん。城へ急ごう」。


 城に到着する頃には辺りはだいぶ薄暗くなっていた。

 ルツコイはまだ執務室にいるだろうか?

 マイヤーとタウゼントシュタインは執務室に向かう。

 ちょうど途中の廊下でルツコイと彼の部下数名と出会った。

「やあ、エーベル」。

 マイヤーとタウゼントシュタインは敬礼する。

「司令官。ご相談があります」。

「なんだ?」

「ヴェールテ家の屋敷の住人が消えました。おそらくは逃亡したものと思われますが、足取りがわかりません。そこで、帝国軍の兵士で通りを監視している者が彼らを見なかったかを伺いたいのです」。

「その件とかかわりがあると思うが、先日、内務局の長官の失踪の件があっただろう」。

「はい」。

「我々で監視の兵士が何か見ていないか確認したら、当時の担当の者十数名は最初、見てないといっていたのだが、実は見ていたらしい。兵士達は買収されて口止めをされていた。これは軍の規律に関わる重大問題だ。ほかにも金で買収されている者がいなかったか、現在、軍の内部で大規模な実態調査を始めた」。

「そうなのですか?!」

 マイヤーは驚いた。ヴェールテ家の金が帝国軍を汚染していたとは。

「内務局の長官の件は、その買収された兵士たちを尋問し、情報を警察に連絡した。内務局の長官の行方は彼らが追跡している」。

「そうでしたか」。

「今回の君らの依頼についても調べておく」

「よろしくお願いいたします」。

 ルツコイは部下たちをその場を去っていった。

 マイヤーとタウゼントシュタインも今日のところは解散とした。

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