捜査9日目~新聞記者

 マイヤーとクラクスは馬車を降り再び新聞社にやって来た。

 マイヤーは新聞社の扉を開けた。中に入ると、また先日話をした人物が話しかけてきた。

「今日は何の御用ですか?」

「今日もマルティン・ヴェールテさんに会いに来ました」。

「彼は今日も取材で不在です」。

「戻りは?」

「わかりません」。


 そのやり取りを見ていた別の人物が話しかけてきた。

「こんにちは。どうかしましたか?」

「我々はマルティン・ヴェールテさんに会いに来ました。彼の家で家族が二名、召使いが一名殺されています。そこで、彼にも話を聞きたいと思っています」。

「もし、マルティンを疑っているのであれば、彼は犯人ではありませんよ。この数日ずっと取材で政府関係者と会ったりしていて、アリバイがあります」。

「彼が犯人と言っているわけではありませんが、もし何か知っていることがあれば、話を伺いたいと思っています」。

「なるほど。それは、わかりましたが、彼がここに戻ってくるのは、明後日の朝になると思います、記事の締め切りがありますので。内務局の長官が失踪したとのことで、彼もその件で取材をしています」。

「内務局の長官の件を知っているのですね」。

「はい。私達は元々、政府内の汚職を調べていました。帝国軍と内務局とヴェールテ家の関係です」。

「えっ?」 マイヤーは驚いた。「マルティンさんは、自分の一族の話でしょう?」

「元々、彼は家族とは距離を置いていました、物理的にも心理的にもね。家族がモルデンに居たころから、彼はここで働いていました。父親はやっている事業の一部をマルティンに継いでほしかったようですが、彼は全く興味がなかったみたいです。父親に逆らって、ここに就職したことで家族との関係はさらに悪化したようでした。父親とは特に仲が悪かったようです。ですので、ヴェールテ家が政界に深く関与しているとは、最初、マルティン自身は詳しく知らなかったようです。ある程度は影響力があるのは知っていましたが、結構深く関わっていると知ったのは、戦後、エストゥス・ヴェールテが副市長に就任したことからです。調べたところ、彼の父親も共和国の頃から政界にかなりの影響力があったようです。今では旧共和国だけでなく帝国の内部にも手を伸ばしているようです」。

「手を伸ばすと言うと、どうやって?」

「金を使って買収しているのです。彼らがモルデンを脱出した時も帝国軍の士官を買収したので、比較的安全に脱出できたようです」。

「そんなことが?」

 それを聞いてクラクスは声を上げた。自分達が命懸けで戦っているときに、ヴェールテ家は噂通り、金の力で逃げ出したのか。それで彼らが少人数でもモルデンを脱出できた理由が分かった。元々、ヴェールテ家は好きではなかったが、さらに印象は悪くなった。


「それで」。マイヤーは質問する。「ヴェールテ家と政府の汚職と内務局の長官の失踪は関係あると?」

「それは、わかりません。しかし、彼の兄弟が殺害されて、その捜査の中止命令が出ました。中止命令を出したのは長官です。その長官も失踪した。これらにヴェールテ家の者が関与している可能性は高いと考えられます。マルティンはそう考えているようです」。

「事件を調べているマルティンが違うとなると、疑われるのはクリスティアーネですか?」

 クラクスが口を挟んだ。

「継母のスザンネもまだわからんぞ。彼女にも、もう一度話を聞いてみた方が良いな」。

 マイヤーが念を押す。

「お話、ありがとうございました」。

 マイヤーとクラクスは礼を言った。

「申し遅れました、私も記者でレオン・ディンガーと言います」。

 マルティンの記者仲間という人物は自己紹介をする。

「私は傭兵部隊の副隊長のエーベル・マイヤー。こちらは隊員のオットー・クラクスです」。

「今後ともよろしくお願いいたします」。


 マイヤーとクラクスは新聞社を出ると、ヴェールテ家の馬車が既に待ち構えていた。

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