捜査8日目~長官の失踪

 クリーガー達は時間まで部隊の修練に立ち会っていた。マイヤーやクラクスも一週間ぶりに修練に参加した。

 副隊長のマイヤーも不在の間、プロブストは良く部隊を見てくれていた。ヴェールテ家の事件が終わるまで、まだしばらくは彼に任せることになりそうだ。


 夕方四時、クリーガー、マイヤー、クラクスの三人はルツコイの執務室へ向かった。三人は部屋に入ると敬礼した。

 それを見るとルツコイは立ち上がって話を始めた。

「長官は来ない」。

 三人が驚きの声を上げると、ルツコイ続けた。

「昨日から城に来ていないそうだ。今日も重要な会議もあったそうだが、それにも出席しなかったので、問題になっているそうだ。彼は公邸に住んでいる。そこに内務局の者が行ったそうだが、不在だったそうだ」。

「ということは、行方不明?」

「そう言うことだ。先ほど警察にも連絡したと内務局の者は言っていた」。


 長官の失踪もヴェールテ家の事件に関係しているのだろうか?その場にいる四人全員が思った。

「タイミングが良すぎます。これもヴェールテ家の事件と関連があるとみても良いでしょう」。クリーガーが口を開いた。「我々もこの件の捜査に協力します」。

「いいだろう。私からの命令だと言えばいい。警察の方と上手くやってくれ」。

「わかりました。今回の状況を確認したいので、まずは、警察の方へ行こうと思います」。

「わかった。よろしく頼む」。

 ルツコイはそう言うのを確認して、クリーガーは敬礼して部屋を出る。マイヤーとクラクスも敬礼し、それに続いた。


 三人は警察本部までやって来た。

 アーレンス警部が今日も対応する。

 クリーガーは警察本部に来るのは初めてなので、敬礼し警部に自己紹介をする。

「私はユルゲン・クリーガーです。傭兵部隊の隊長を務めております」。

「私は警部のカール・アーレンスです」。

「今日は内務局の長官が行方不明になった件でお話を伺いたく来ました」。

「そうですか。早速ですが、長官の件はこれから彼の住んでいる公邸の中に入って様子を見ようと思っています。同行しますか?」

「是非お願いします」。


 内務局の長官など、政府高官の公邸は城に隣接しているので、また同じ道を戻ることになった。

 クリーガー達三人は馬で、警部は他の警官と一緒に馬車で向かう。

 一行は、一旦、城の中に行き内務局の職員たちを連れて公邸を訪れた。


 職員が鍵を開けて、公邸の中を調べるも、誰も居なかった。

 それぞれの部屋は綺麗に整頓され、争った形跡などなかった。しかし、いくら調べても長官がいつここを出たかはわからなかった。

 警部は立ち合っている職員達に話を聞いて、その内容を教えてくれた。

「最後に長官を見たのは内務局の職員達が二日前、長官が職場を去った時です」。

「その日、内務局から公邸に向かったのであれば、通りで監視をしている兵士が見ているかもしれませんね」。クリーガーが言う。「それを当たってみましょう」。

 まず、公邸から一番近い軍の詰所に向かい、監視に立っていた兵士達を確認した。

 この二日間で内務局の近くで監視をしていた兵士達は、二十名弱。彼らの聴取はルツコイ司令官にもお願いし、早く兵士達を何か見なかったかの聞き取りを協力してもらうことになった。


 もうすっかり夜遅くなったので、クリーガー達三人は今日のところは捜査を終了し、城に戻ることにした。三人はその道中、今後の捜査の方向性を決めた。

 兵士達の聴取はルツコイに、内務局の長官の件は警察に任せ、クリーガー達はヴェールテ家の三男マルティンと長女クリスティアーネに事情を聴くことにした。ヴェールテ家の長男ハーラルトと次男エストゥスの殺害の疑いは、まだ他のきょうだいにもある。彼らを捜査する必要があると三人で話し合って合意した。三男はマイヤーとクラクスが、長女はクリーガーが会って話をすることにした。


 長女はオストハーフェンシュタットにいるため、そこまで移動する必要がある。傭兵部隊といえども都市間の移動は許可されていない。そこでクリーガーはルツコイに会い、移動の許可を特別にもらうことにする。

 ズーデハーフェンシュタットからオストハーフェンシュタットまでの移動は、船を使って丸一日掛かって向かうか、二日掛かって陸路を行くかの二つ。クリーガーは可能な限り急ぎで捜査を進めたいため、船で行こうと考えている。しかし、今は客船は運行されていないため、貨物船に便乗させてもらうことになる。そのあては今はないが、クリーガーにはアイデアがあった。ヴェールテ貿易の船に乗せてもらうのだ。

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