捜査8日目
捜査8日目~クリーガーの復帰
クリーガーは一週間ぶりにルツコイの執務室にやって来た。扉を開けると中に居るルツコイに敬礼をする。
「おはようございます」。
いつもの様に執務机の向こう側に座っているルツコイが顔を上げて答える。
「おはよう。よく休めたか?」
「ええ、おかげさまで」。
「まあ、座りたまえ」。
ルツコイが椅子を指すと、クリーガーは執務机の手前の椅子に座った。ルツコイはクリーガーが座るのを見てから話し出した。
「早速だが、マイヤーとクラクスがやっている捜査の件。どうやら苦戦しているようだ」。
「そうなんですか?」
「どうせ、休暇中も事件のことを考えていたんだろう」。
「まあ、そんなところです」。
「この案件は続けても良いのでしょうか?」
「構わんよ。ちょっと大事になりそうだが」。
「大事?」
「内務局の長官の関与が疑われるので、今日の午後、彼を呼びつけてある。マイヤーとクラクスの二人では捜査が手一杯になりそうなので、君も同席してくれ。彼らはもうじきここへ来ると思う。捜査の状況を説明させよう」。
「わかりました」。
しばらく待つと、マイヤーとクラクスが執務室にやって来た。
「おはようございます」。
マイヤーとクラクスは敬礼する。
「おはよう。早速だが、クリーガー君にも捜査に参加してもらう。これまでの捜査状況を話してくれ」。
「はい」。
マイヤーは咳払いを一つしてから話し出す。
「ヴェールテ家の長男が旧貴族の集まるパーティーで毒殺されました。はじめ警察が捜査をしておりましたが、内務局から圧力がかかり捜査が中止に。それで、警察長官がルツコイ司令官に捜査の続行を依頼、我々がそれを引き継ぎました。その後、隊長殿に相談しましたね」。
「覚えているよ」。
「父親が一か月前に病死しており、隊長の提案で相続の状況を調べました。すると遺言状があるとのことでそれを持っている弁護士に内容を確認しました。一番財産を分配されたのは妻です。長男、長女にはそれぞれ貿易会社の経営権を。次男、三男にはほとんど財産分与はありませんでした。それで、財産を分配されなかった次男すなわち副市長による財産目当ての殺人の線も検討しました。しかし、副市長も毒殺されました」。
「ここでな」。
ルツコイが不機嫌そうに付け加えた。
「それで次に疑いがあったのは、長男、次男に毒を盛る機会のある者が召使いのヴェーベルンだろうということでしたが、彼女も港で遺体で見つかりました」。
「港? それはいつのことだ?」
クリーガーが話に割り込んだ。
「三日前です」。
「そうすると、港で見た遺体のことか?」
「あの場に居たんですか?」
マイヤーが驚いてクリーガーに尋ねた。
「遺体を海から引き上げるのを手伝ったよ。遺体を診たザービンコワによると死後一、二日は経っていたと」。
「彼女もその場にいたのか?」
ルツコイが驚いたように言う。
「はい。彼女が街を案内してほしいと言うので、一緒におりました」。
一同は納得したように一度黙った。すぐに、マイヤーは話を続ける。
「その召使いが何者かの命令で長男、次男を毒殺し、その口封じで殺されたとみています」。
「おそらくそうだろう」。
そう言うと、クリーガーは腕組をしてため息をつく。
「それで」。マイヤーが話を続ける。「この事件の捜査中止命令を出した内務局の長官に話を聞いて、誰からの依頼で中止命令を出したのか聞くところです。それで犯人につながる情報が聞きだせるかもしれません」。
そこまで聞いたところで、ルツコイが話を引き継いだ。
「長官には今日の午後四時にここに来るように言ってある。君も同席してくれ。内務局の長官が絡んでいるとなると普通の殺人事件ではなくなる」。
「なるほど、それで大事と」。
「そうだ。思いのほか面倒なことになりそうだ」。
ルツコイはそう言うって、椅子に深くもたれかかった。そして言った。
「では、午後四時に集まってくれ」。
「わかりました」。
クリーガー、マイヤー、クラクスは敬礼して執務室を後にした。
クリーガーは城の廊下を歩きながら言った。
「私は一度、隊を見て来るよ。このところ隊を見ているプロブストにも話をしておきたい」。
「私も行きます」。
マイヤーとクラクスも同時に言った。
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