捜査7日目
捜査7日目~盗賊討伐
盗賊退治のため帝国軍と傭兵部隊の集合の時間の朝五時、空はまだ少し暗い。ここからは城壁が邪魔で見えないが地平線はだいぶ白みがかっているのだろう。あと三十分もすれば日の出の時間だ。
城の兵舎近くの中庭、松明の明かりの中に帝国軍二百名、傭兵部隊五十名が整列した。帝国軍は全員歩兵だ。傭兵部隊も歩兵が基本だ、隊長のクリーガー以外は作戦での馬の使用は、ほぼない。
ルツコイは、帝国軍の前に立っている。マイヤーは、傭兵部隊の先頭に立つ。
ルツコイは、重装騎士団の厚い鎧を纏っていた。皆が、ルツコイの鎧姿を見るのは三か月ぶりだった。
ルツコイは大声で改めて命令を伝える。
「これより進軍し、盗賊を征伐する。敵は西の街壁からの南西に四時間の場所にあるアジトだ。周りは深い森でほとんど人が通らない。偵察のための先遣隊が昨日のうちにアジト付近で待機している。それに合流した後、攻撃を開始する」。
ルツコイは馬に乗り進み始めた。帝国軍、傭兵部隊もそれに続く。
街の大通りを進み、街壁の門を抜ける。
門を抜けたところで、マイヤーの後ろを歩いていた、レオン・ホフマンが話しかけてきた。
「マイヤー副隊長。久しぶりの盗賊討伐で血が騒ぎます」。
彼は賞金稼ぎ出身なので、戦前は盗賊退治を散々やってきたクチだ。傭兵部隊になってからは盗賊退治は初めてなので、正直嬉しいのだろう。
「あまり、張り切りすぎないようにな」。
マイヤーはそう言ってたしなめた。
ルツコイたちが進軍して四時間近く、あたりは深い森になってきた。
斥候の兵士が二人と合流した。
「敵はこの先に、潜伏しております。約三十名」。
斥候はルツコイに報告する。
「わかった」。ルツコイは自分の部下に命令する。「敵を取り囲むように展開せよ」。
次にマイヤーに向かっていう。
「我々が取り囲んだら、傭兵部隊で突撃せよ」。
「我々だけでですか?」
「そうだ、君らの実力が知りたい。敵は三十名ほど、傭兵部隊は五十名。楽勝だろう?」。
「わかりました」。
マイヤーはそう言って少し下がり、部隊を待機させた。
選抜した五十名は、旧共和国軍と元賞金稼ぎで、戦闘に慣れている者ばかりだ。大きな問題はなく盗賊を征伐できるだろう。
しばらく待つと、敵を取り囲んだ合図の口笛が聞こえたので、マイヤーは大声で命令を出した。
「突撃だ!」
傭兵部隊の全員が剣を抜いて、鬨の声を上げて突撃する。ホフマンが先頭を切って駆け込んでいく。彼の特徴的な大剣と大盾は遠くからでも目立つので、居る場所がよくわかる。
ホフマンは部隊の先頭を突進する。盗賊が数名待ち構えているのが見えた。不意を突かれてかなり慌てているようだ。ホフマンは大剣を振り下ろし一名倒した。他の隊員が残りの数名を切り倒す。
さらに茂みを進むと、二十数名近い盗賊が待ち構えている。そのうちの数名が弓を引いているのが見えた。ホフマンは大盾を構えて、そのまま突進する。盾に矢が数本、当る音が聞こえたが、彼は気にもかけない。
ホフマンは盾でそのまま体当たりをする。弓の射手はそのまま大きく突き飛ばされて後ろに倒れ込んだ。続いて剣を抜いて、近くに居る盗賊に切りかかり倒していく。
他の隊員もホフマンに遅れまいと次々に盗賊たちに切りかかっていく。
戦闘が終わるまで、さほど時間はかからなかった。ほとんどを切り倒し、数名逃げたが、取り囲んでいる帝国軍兵士に捕らえられた。
思ったより、あっけない幕切れとなった。
傭兵部隊に負傷者は数名出たが応急処置で対応できるほどの軽傷、死者はゼロ。帝国軍兵士は負傷者もゼロ。盗賊二十八名を討ち、四名を捕らえた。満足できる成果だった。
帝国軍はあたりを捜索し、駅馬から強奪されたと思われる装備品の入った箱をいくつも発見し押収した。
マイヤーは傭兵部隊を整列させる。
ルツコイは、マイヤーのそばに近づいて言った。
「今日は、良くやった」。
「ありがとうございます。隊員達が良くやってくれました」。
「あのホフマンという男は、さすが戦い慣れているな」。
「そうですね。私も彼の戦いぶりを初めて見ました」。
「これで傭兵部隊に討伐任務を任せても安心できるとわかったよ」。
「いつでも、ご命令ください」。
「クリーガーの戦いぶりも見てみたかったが、休暇中なら仕方ない」。
「彼はもっとすごいですよ」。
マイヤーはクリーガーを持ち上げておいた。実は、マイヤー自身もクリーガーの戦いっぷりを良くは知らかったが。戦争中は実際に戦闘には参加しなかったし、終戦直後の反乱騒ぎの時も彼の兄弟子との対決を見ることは出来なかった。
「そうなのか。近いうちに同じような任務はあるだろう」。
ルツコイはそう言って馬に乗った。一部の兵士に盗賊の遺体の処理を任せ、城に撤収する命令を出した。
軍と傭兵部隊は夕方には城に戻った。
マイヤーが部屋に戻ってしばらくすると、ルツコイが尋ねてきた。
マイヤーはあわてて敬礼をする。
「お呼び下されば参りましたのに」。
「構わんよ」。彼はそう言って手で楽にするように合図した。「内務長官の件だが、明後日の十六時に私の部屋に来ることになった」。
「わかりました」。
「明後日だとクリーガー君も休暇が終わっているだろう。同席してもらおう」。
「隊長にも捜査に参加してもらいますか?」
「そうだな。彼のこういう変わった任務での働きぶりも見てみたいと思っている」。
「わかりました」。
「ではよろしく頼む」。
そう言うとルツコイは部屋を出て行った。
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