四着目
…今日は、一体何が待っているんだろう。
ごくりと喉を鳴らし、私_阿尾眞昼は、部室のドアを恐る恐る開けた。
そこにはなんと_
「ようこそいらっしゃいました。阿尾眞昼様」
_タキシードを着て、丁寧に45度のお辞儀をする小夜が居た。
「…一応聞くけど、何してんの」
小夜の奇行には、もう大分慣れてきた。
私の対応も冷静になってきたものだ。
「こちら、ホテル『ヒストリーケンキュー』でございます」
「名前の捻り無さすぎだろ」
一応ここは歴史研究部だけど、『ヒストリーケンキュー』て。
ネーミングセンスをお母さんのお腹に忘れてきてしまったのだろうか。
「さぁ、こちらにどうぞ」
「は、はぁ…」
小夜にうやうやしく促され、私はソファに座った。
いつもはこのソファでダラダラお菓子を食べているけれど、今日は何だか落ち着かない。
「では、私はこちらで失礼します」
「どうも…」
小夜は、そう言っていそいそと部室を出て行った。
…どういうこと?
ホテルマンごっこが突然したくなったのだろうか?
「…まーいっか」
少ししたらまた戻ってくるでしょ。
それまでゆっくりお菓子でも食べ_
「せんぱああああい!!!」
「戻ってくんの早っ」
勢いよく部室の扉を開けた小夜が、すごい形相でこちらを見た。
「失念していました…!」
「何を?自分が変態ってことを?」
「自分がホテルマンになってしまったら、先輩とホテルに行けないことをです!!」
は?????
「とりあえず何かしらの理由を付けてホテルに入りさえすれば【自主規制】は勝ち確だとネットで見たので、ホテルを再現しようと思ったのですが…」
「そこで何で再現しようとすんの??」
普通は既にあるホテルに入ろうとするんじゃないの??
「何言ってるんですか!先輩に納得のいくサービスをするには、私がホテルを作り上げるしかないんですよ!!」
「謎の意識の高さ見せんな!!」
さっき「【自主規制】は勝ち確」つってただろ!!
何サービス精神の高さアピってんだ!!
「自分がホテルマンになってしまったら、先輩と同じ部屋で一夜を明かせない…!くっ、私としたことが…」
「あんた部室で一夜を明かす気だったの!?」
絶対に嫌だ!!!!
「大丈夫ですよ先輩!うちの部室には寝袋もありますし」
「それ非常用のやつ!!」
てか寝袋で何かのラブイベントが起こると思ってるんかコイツ!?
「先輩、部室で一夜を明かすなんて非常事態ですから。非常用の物品を使っても何ら問題ありません」
「非常事態を恣意的に起こそうとすんな」
非常事態ですから。じゃねーよ!!
「大丈夫です、先輩!私に身を任せてください!!!」
「この世で一番任せたくない!」
そのままギャアギャアと言い合いを重ね_
_結局その日は、小夜が用意したお菓子をソファでゴロゴロしながら食べる会となった。
◆◆◆◆
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