三着目
私_阿尾眞昼と、後輩の赤月小夜は、ウサギ小屋の前で2人しゃがんでいた。
「ほんとに可愛いな〜」
檻の向こうにいる白兎は、先日小夜が謎の召喚魔術で呼び出した兎である。
召喚魔術…?と首を傾げた方が大半だろう。私もその内の1人だ。安心して欲しい。
「ただの白い獣じゃないですか」
隣のシレッとした顔でデリカシー0発言をする奴の頭が、ヤバいだけなのだ。
「兎に獣って言い放つとか、サイテー」
「えっ…先輩!嫌わないで下さい!!」
「嫌われるとかいう発想あるんだ」
その発想あるなら行動を改めろや。
傍から見れば私が超塩対応に見えるかもしれない。違うんだ。
この、美形で無表情がち故にクール美人とか言われてる女は_
「何言ってるんですかっ!先輩と【自主規制】するまでは、嫌われたら困るんですよ!」
_私の貞操を狙ってくる、超絶サイコパスなのだ。
「デカい声で【自主規制】とか言うな!!」
「あだっ!!」
パコーンと私がはたくと、小夜は頭を抱え込んだ。
「何するんですか!パワハラですよ!」
「オメーはセクハラだよ」
執拗に私を脱がせようとしてくる奴がハラスメント訴えんな。
パワハラどころか、先輩として扱われてる感0だわ!!!
ギャーギャー言い合いをしていると、兎が「エサくれ」と言わんばかりに檻をカシャカシャしだした。
「あぁ、ごめんね。すぐご飯あげるからね」
細く切った人参を、檻の隙間からそーっと入れる。
人参に飛びついた兎が、ポリポリと勢いよく頬張る姿を見て、私の頬は緩んだ。
「可愛い…可愛いなぁ…」
「私も可愛いですよ?」
「兎と張り合うな」
何ムッとした表情してんだ。
「でも何で兎ってこんなに可愛いんだろ〜、自然の神秘感じちゃう」
「可愛さなんて主観ですし。自然の神秘っていうのはもっと普遍的なモノに使われるべき言葉でこんな毛玉に」
「ゴチャゴチャうるさい」
あしらわれたのが不満なのか、小夜がぶつくさ文句を言う。
地面に転がった枝を拾って落書きもし始めた。怒られた小学生男子かお前は。
「まったくアンタは…嫌われたくないとか言う癖に憎まれ口ばっか叩くんだから」
呆れたようにため息を吐くと、小夜がバッとこちらを勢いよく見た。
「先輩はっ!私と兎…どっちが可愛いんですか?!」
「兎だけど?」
即答すると、小夜は地面に崩れ落ちた。
「そんな…そんなことって…」
「そんなショック受ける?」
この世の終わりのような表情をしていた小夜が、キッと兎を睨みつけた。
「この…っ!草食獣が!!覚悟しとけよ!!」
「兎に凄むな」
デカい声出すな。兎が驚いちゃうだろ。
「くっ…」
「兎にメンチ切るな」
大声を出すなということは理解したのか、小夜は兎に無言でメンチを切り始めた。
…ほんとアホだな、コイツ。
小夜のことを「ミステリアスビューティー」と言ってキャッキャしてる人が、この情けない姿を見たら泣き出すんじゃないだろうか。
◻️◻️◻️
ウサギ小屋の掃除も終え、ふぅと一息吐いた。
「じゃあ、私は掃除道具片付けてから部室行くから」
「わかりました。ありがとうございます」
「ほいほい」
ペコリとお辞儀をして去っていった小夜の背中を見ながら、私はもう1つため息を吐いた。
普通にしてれば、素直でいい子なんだけどなー…。
◻️◻️◻️
「小夜、戻ったよ…って、うわ?!」
部室の扉を開けると、そこには_
_ウサ耳を付けた小夜が、正座していた。
「何…してんの…?」
ついにガチの方でイカれたか…?
恐る恐る私が聞くと、小夜は渾身のキメ顔で言った。
「兎になろうと思って!!」
…は?
「ほら!存分に愛でていいですよ!先輩!」
…。
「可愛いって言っていいんですよ!」
…これはガチの方だわ。マジでイッちゃってるわ。主に頭が。
後輩にこんなことを言うのは躊躇われるけど、言おう。それが小夜のためだ。
「小夜。…病院行こ?頭の」
「何で哀れんだ目で見るんですか?!」
「鏡見てこい!!」
ウサ耳着けて兎と張り合おうとする奴、哀れ以外の何ものでもないだろ!!
「わかりました、先輩。愛らしい私が羨ましくなっちゃったんですよね」
「あ゛ぁ゛?」
やべ。ヤンキーみたいな凄み声出ちゃった。
ヤレヤレといった仕草をする小夜に、自然と殺意が湧いてくる。
「大丈夫ですよ!先輩の分もありますから!安心してくださ」
「要らねーーーーーーよ!!!」
食い気味に言っちゃったよ。
世界一要らない。そのウサ耳。
「なっ…嘘でしょう?!」
「いや普通要らんでしょ!?」
何ショック受けてんの?!
現代日本でウサ耳使う奴、ガールズバーと夢の国にしかいねーよ。恐らく。
「凝り固まった思考しか出来ない先輩は知らないかもしれませんけど」
「殴るぞ」
「兎って動物界で1番性欲が強いっていわれてるんですよ」
あぁ、なんかそれ聞いたことある。
「だから先輩も兎になれば!!性欲カーニバルで脱いでくれると思ったのに!!」
「兎に謝れ!!!」
「あだっ!!」
スパコオオオオオン!!!と、小夜の頭をはたいた軽快な音が部室に響いた。
ったくもう…。
パワハラだパワハラだと叫ぶ小夜から、ウサ耳をひっぺ剥がした。
「…こんなの着けなくても、ちゃんと小夜は私の大事な後輩だよ」
「せ、先輩…!!!」
「だから兎に妬くな…って重い重い重い!」
勢いよく抱きついてきた小夜を受け止めながら叫ぶ。
身長150cmの私が、170cmの小夜を支えるのは厳しいものがある。
「もうコレは、合意ってことでいいですよね?!」
「よくねーーーーーーーーよ!!!!!」
今度は私の魂の叫びが、部室に鳴り響いたのだった_
◆◆◆◆
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