作られた初恋
数日前に届いたメールが、私の頭をぐるぐるしている。
『僕のいる会社に来ない?スカウトするけど』
送り主は従兄の秀斗だ。彼は今アメリカにいて、私が持つスマートフォンのOSを作っている。――分かりやすく言えば、世界一有名なIT企業にいる。
その会社でゲームを作るプロジェクトが立ち上がるそうで、私にメンバーとして参加しないかと誘ってきたのである。なんでも作るんだな、あの会社は。
いやそうじゃなくて。
どうして私を誘ったんだよ。
普通に無理だろ、全然関係のない大学を出た、無資格の人間になんて。
秀斗には、私の夢も悩みも全部話していた。
同じ田舎に育ち、家もそこそこ近かった私と彼は、とても仲が良かった。
私の両親も秀斗の両親も、「お似合いだから、二人は大きくなったら結婚しなさいね」なんて微笑んでいた。
何度も言われるうちに、私も将来そうなるんだと信じるようになった。3つ年上の秀斗にくっついて回り、秀斗の友達と遊んでいた。
パソコンやプログラミングを教えてくれたのも秀斗だ。秀斗が1から作ったブロック崩しに、私は目を輝かせた。『周りにあるたくさんのゲームも、こうやって人が作ったんだよ』という秀斗の言葉に、私は凄いね、凄いね、と飛び跳ねて喜んだ。
そんな蜜月は、秀斗の一言で終わった。
「僕は、親のために美春と結婚するつもりはないから」
言われたのはまだ小6の時だったから、私にはいまいち意味が分からなかった。ただ、秀斗に拒否された事は分かった。それはそれでショックだったけど、言われた事をどうにも両親に話せず、そっちの方に苦しんだ。
秀斗はその後全寮制の中学校に行き、大学も県外に進み、途中からアメリカに留学して例の会社に入った。大学に進んでから先は、一切帰省もしなかった。
叔父と叔母、両親の仲は険悪になった。彼らは互いに祖父の遺産が欲しくて、私と秀斗をくっつけようとしていたらしい。
長男である父の後継ぎに、賢い秀斗を迎え入れる。
秀斗が家長となる事で、叔父や叔母にも遺産を使う権利が手に入る。
そういう企みがあった事実を、私は大学に進んでから秀斗に聞いた。両親が許してくれた大学が、秀斗がいる県の大学だけだったのだが、それも全てが私と秀斗をくっつけるためだという事も、既成事実を作れという命令が『私の親から』来ている事も、私は秀斗の口から聞いた。
秀斗に遅れる事6年で、私は両親と故郷に絶望した。同時に生きる気力も失った。
大学に通う事すら困難になった私に、秀斗はできる限りのケアをしてくれた。たった1年だったけれど、その間に私の歪んでいた思想はかなり改善された。途中で秀斗の彼女も加わって、私はオシャレだとかカフェ巡りだとか、似合わないと諦めていた女の子の楽しみも覚えた。
私が2年生になったのちに、秀斗と彼女は渡米した。その頃には私はすっかり立ち直り、二人を泣きながらも心から見送れるくらいに自立していた。
あの2人は、愛を知っている。
このお誘いだって、秀斗と彼女――今は秀斗の奥さん――から届いた愛だ。変な話、私の事情で断っても怒ったりはしない。私の選択を尊重してくれる。
だからこそ悩むのだ。自信がないなんて理由で諦めたくないし、だけど実際私のレベルは低いだろうし。
(でもっ! この会社が作るゲームとか、超気になる!!)
ああ、悩むわぁ。
そんなこんなで悶々としていた、ここ数日であったが。
秀斗から、またメールが来た。
『色々悩んでるんだろうけど、入社試験もあるし面接だってあるから、能力がなければ人事が落としてくれるよ。安心しろwww』
私は速攻でメールを返信した。
『なら受ける。よろ』
『早wwおkww』
それを先に言えってんだよ。いやあ、入ってから「あなた、使えない子ねぇ」って言われる方が相当辛いんから。いやそれ、前の会社の課長ですけどね。
とりあえず、英語勉強しとこ。
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