7日間の恋人


 付き合って7日、初めて彼を家に呼んだ日。


「もう、終わりにしよう」


 言ったのは私だった。


 1か月前にチョコを渡し、付き合って欲しいと言ったのも私だった。


 彼は3週間も答えを曖昧なままにして、1週間前にOKの返事をくれた。


 正直、それを聞いた時にはもう、彼を本当に好きなのか分からなくなっていた。


 いや、好きだと言葉にしたあの瞬間から、心の中の自分が「違う」と必死に訴えていた。


 しかし、自分から告白しておいて断る勇気は持ち合わせておらず、すぐそこに見えていた曖昧な気持ちの答えを先延ばしにして、私は笑顔で首を縦に振った。


 あれから1週間。


 また彼を好きになろうと頑張ってみたけれど、元々恋に恋をしていただけで、彼のことが好きだったわけではないことに気がついてしまった。


 近くにいるはずなのに、心はどこか遠い気がしていた。


 結局、恋をしている自分に酔って、片想いを楽しんでいただけだったのだ。


 そんな私の遊びに、彼をこれ以上付き合わせる訳にはいかなかった。


「え、なんで……?」


 当たり前だが、彼は驚いている。


「……ごめん、もう好きじゃないの」


 彼の顔は見れなかった。


 彼が辛そうな、泣きそうな顔をしていたら、申し訳なくなって決心が揺らいでしまうから。


 全てを受け入れて微笑んでいたら、自分の身勝手さに耐えられなくなってしまうから。


 もういっそ、怒って殴りかかってきて欲しいくらいだった。


「そっか」


 彼は感情も声量も震えも押し殺したような声でつぶやく。


 押し殺された感情の正体は悲しみなのか怒りなのか、それとももっと別のものなのか、たかが7日間の付き合いしかない私には分からなかった。


「うん……もう、好きじゃない」


 私はもう一度同じ言葉を繰り返した。


「好きじゃないの」


 分かってよ、分かるでしょう?


「好きじゃないんだよ」


 私がどれだけ最低な人間か。


「もう好きじゃない……」


 だから早く次の人を探してよ。


「何度も言わないで。もう分かったから」


 彼が私の肩に手を置いて言った。


「今までありがとね……たった1週間だったけど、すっごく楽しかった」


 分かっていた。


 彼がずっと私を好きだったこと。


 告白されて、私を幸せにする方法を3週間も考えていたこと。


 今日、ホワイトデーのお返しを渡そうとカバンに何か潜ませていること。


 ……私の「好きじゃない」が嘘だって、見抜いていること。


「じゃあね……俺好きだったよ」


 彼が出ていった部屋に、玄関の扉が閉まる音がやけに大きく響いた。


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虚愛 星夜 かなで @Kanade_kurage

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