片手間の恋人
彼はいつも、私じゃなくて画面を見てる。
一緒にいる時、知らない誰かとのメールの片手間に頭を撫でる。SNSチェックの片手間にキスをする。ゲームの片手間に愛を囁く。
甘えてすり寄った時、テレビを見る片手間に「どうしたの」と私を抱き寄せる。
体調を崩して寝込んでいた時、ニュース記事を見る片手間に「大丈夫?」と背中をさする。
食事を作ってあげた時、動画を見る片手間に「美味しいよ」とよく見もしないで口に運ぶ。
ただ一時だけ、彼は画面ではなく私を見ることがある。
それは暗い部屋で、私の服の中に手を入れる時だ。その時だけ彼は私を、いや、私の身体を見ている。
しかし朝になればまた、ベッドの中でスマホの画面を見ているのだった。
追いかけなくてもずっと隣にいるから、いつも手の届く範囲にいるから、いつも忙しい彼は、何かをするついでに私を愛しているようだった。
「一緒にいるのは私なんだよ」
「たまには私だけを見ててよ」
そんな風に言えたら、もう少し楽だったのかもしれない。もう少しマシな恋愛ができたのかもしれない。
でも私にはそれが言えなかった。
怒りもせず、泣きもせずに、まるで人形のように、ただ微笑んでいた。
実際、私は人形だったのだろう。
彼にとって都合のいい愛玩人形。
彼は私の顔を、覚えているのだろうか。そのうち背格好の似た女の人を隣に置いても気づかないのではないか……?
正直私も彼の真正面から見た顔を、覚えている自信がなかった。彼と一緒にいても、見えるのは画面を見る横顔だけだから。
日に日に摩耗していく心には、気づかないフリをしていた。
何かの片手間であっても、私を愛してくれる。それで十分ではないか。
いつの日かこの恋を呪いのようだと感じ始めた。
私は彼を、呪いのように愛し続けている。
彼もまた私を、まるで呪いのように離そうとしない。
そんな歪な関係にも、そろそろ限界が来ていると感じ始めたのは最近のことだった。
このままじゃダメだ。
このままでは、私も彼もおかしくなってしまう。
怖いけど、変わらなきゃ……。
そんな思いで、私は今ここにいる。
……ねぇ、聞いてる?
別れようって言ってるの。
こんな時くらい、画面じゃなくて私を見てよ。
「……なんで?」
彼はやっぱり画面を見たままだった。
画面の中には『GAME OVER』の文字が並んでいる。
その「なんで?」は私に対する「なんで?」なのかゲームで負けたことに対する「なんで?」なのか、私には分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます