共和国派達
大陸歴1658年3月11日・旧共和国モルデン
宵の口、辺りはだいぶ暗くなっていた。
オットー・クラクスは、制服から私服に着替えた後、遊撃部隊の野営地を離れ、馬でモルデンへ向かっていた。
モルデンは旧共和国では第三の都市であった。街は、南西側に大きな穀倉地帯が広がり、歴史的には最初は農業で栄え、数十年前から対帝国の為の軍事設備が増えたため武器製造の職人や技術者、また魔石の取引などの貿易でも人が集まり賑わうようになった。そして、この街は三年前の“ブラウロット戦争”で戦場となり、街の大部分が破壊され焼け野原となった。戦後から三年たつが、さほど復旧が進んでいない。
オットーは、街壁の門の衛兵に挨拶し、私が渡しておいた命令書を見せた。衛兵はそれを見ると、手で通るように合図をした。問題なく通過することができた。
街の中央部には新しく建てられた建物が目立つ、周辺部は空き地がまだまだ多い。街壁はようやく修復が完了したようだ。
戦争中に避難した住民はしばらく移動が禁止されていたが、街の復興が人手不足のため進みが遅いので、モルデンに居た者に限って街に戻ることが解禁されていた。そのせいもあって各地から幾分か住民が戻ってきているようだ。一年前に来た時より街がにぎわっているように見えた。そして、その住民たちを通りで監視している帝国軍の兵士の姿も見える。
そして、暴動の跡だろうか、大通りに面したところに壁が焼け焦げた家が何軒も目立つ。今日のところは、街は落ち着いているようだが、最近のモルデンは暴動が多発しているらしい。
オットーは、この街の出身で、“ブラウロット戦争”では義勇兵として参加していた。今日は、その時の義勇兵の仲間だった、リーヌス・シュローダーに会いに来たのだ。
リーヌス・シュローダーは、モルデンでの旧共和国派として暴動の主導をしているグループの一員となっていた。共和国派は旧国境沿いに隠れ住んでいる元共和国軍のダニエル・ホルツの指示のもと散発的に暴動を起こしている。
今日は極秘でグループの指導者に面会をしにきた。事前にリーヌスと伝令で待ち合わせの時間と場所を決めてあった。
まずは、以前リーヌスと行った、“パーレンバーレン”という酒場に向かう。
店の前で馬をつなぎ、中に入る。
中はかなりの賑わいだ。以前来た時は帝国の関係者が多かった。それは“チューリン事件”に関係した調査団のせいだったが、事件が解決した今、そういった人物は見当たらない。
この中からリーヌスを探すのは骨だな、と思った。まずは、カウンターに向かい、マスターに酒を注文した。
しばらく待つと、オットーの背中を叩く者がいた。オットーが後ろを振り返るとリーヌスが居た。
「久しぶり」。
一年ぶりの感動の再会であるが、今日は目立つような再会を喜ぶ挨拶はできない。感情を押さえてお互いが静かに挨拶した。これから、オットーはリーヌスに連れられ旧共和国派の会合場所に案内される。
「では行こうか」。
リーヌスが言うと酒場の奥の方に向かった。オットーは酒を一口だけ飲んで、金を置いてリーヌスについて行く。
酒場の人だかりを分けて、酒場の奥へ。人気のない裏口まで行くと扉を開け、裏道に出た。二人はしばらく狭い裏道を進み。ある建物の裏口のようなところに着くと、リーヌスは扉をあけて中に入っていった。オットーはそれについて行く。
建物の中の地下に通じる階段を降り、そこにある扉を開いて中に入った。
ランプに明かりが灯る薄暗い部屋だ。中には三人の人物が待っていた。
「こんなところで申し訳ない」。リーヌスはオットーに向き直って言った。「こういう秘密の会合は、地下室でやるというのが相場なのさ」。と笑って見せた。
中にいた一人が口を開いた。
「ご足労いただき、ありがとう。私はモルデンでの責任者の一人、エリアス・コフ。こちらは、ルイーザ・ハートマンとリアム・クーラです」。
オットーは、三人とそれぞれ握手を交わした。
「今日は顔合わせ程度ですが、よろしく」
「君はここの出身だそうですね」。
「はい」。
「“ブラウロット戦争”の時は、どこの所属でしたか?」
「義勇兵として参加していました」。
「そうか、我々は正規の兵士だったから、接点はなかったようですね」。
「あの戦いの時、脱出したのはいつですか?」
「城に帝国軍が突入した時です。その時、義勇軍は既にバラバラとなっていて、何とか闇に紛れて街を出ました」。
「そうか、我々も似たようなものだった」。コフはため息をついた。「犠牲の多い戦いだった」。
昔話はこの辺にして、話を本題に移す。
「帝国軍の現状を教えてください」。
コフは尋ねた。
「いま、ここの駐留軍の一部が北の国境線まで移動していて、数が減っています。ズーデハーフェンシュタット、オストハーフェンシュタットの各都市でも同様に軍の一部を移動しています。これは公国軍が国境線に集結しており、帝国へ侵攻する兆候だということで、それに対応するための措置です」。
「なるほど。ここの軍の兵士の数は減ってはいても、我々の勢力では街や城を占拠できるほどの力量はない。ここは静観したい」。
「私の師のクリーガーも、その方が良いと言っておりました」。
「いつも君の師からの情報は参考になる。ありがとう、と言っておいてくれ」。
「言っておきます」。
「ホルツとも緊密に連絡を取っています」。
「彼らは、何故モルデンに住まず、あんな洞窟のアジトで生活しているんでしょうか?」
「街の外にいて隠れている方が帝国の監視の目が無いので各都市との連絡も取りやすい。それに、武器などを隠しておくのは、モルデン内より外の洞窟の方が良い。また、地の利は我々にあるしね。それに、ホルツ達は洞窟生活はさほど苦にしていないようだ。もちろん、モルデンで蜂起する時は、事前に武器はこちらに移動する予定だ」。
「なるほど」。
コフは少し間をおいてから続けた。
「君らの部隊や帝国軍はいつ戻ってくるのだろうか?」
「それは全くわかりません。おそらくは公国軍の出方次第だと思います」。
「それにしても、軍事力に劣る公国が侵攻準備しているとは、公国は一体どういうつもりなのだろうか?」
「それについては、師や他の者もわからず謎です」。
「共和国派が手引きしたと疑っている者もいるようです」。
「我々には公国とはつながりはない。しかし、共和国復興の手助けとなるのであれば、是非手を結びたい相手ではある」。
その後、オットー達は様々な情報交換を二時間ばかり行った。
「今日は、ご苦労だった。陣に戻る必要はあるのかね?」
「いえ。戻るのは、明日の早朝でも良いと言われております」。
おそらく師が気を使って旧友との再会を懐かしむ時間をくれたのだと思う。
「では、うちで休んでくれ」。
リーヌスは声を掛けた。
「では、今後もよろしく頼む」。
コフは敬礼した。オットーも敬礼を返す。
そして、オットーとリーヌスは地下室を出た。
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