モルデン
大陸歴1658年3月11日・モルデン郊外
早朝、私はマリアが居たテントを訪れて中を確認した。中に誰もおらず、彼女がすでにホルツの元へ出発しているのを確認した。難しい依頼ではない。彼女であれば、うまくやってのけるだろう。
しばらくして、部隊の出発の時間になり、部隊は野営地をたたみ出発する。
部隊は次の目的地モルデンに向かう。順調に進軍を続け、夜のとばりが降りたころ、予定のモルデン郊外の草原に到着し、その場に野営地を設置した。
しばらくすると、モルデン駐留軍である第四旅団の副司令官ブルガコフが、城からやって来た。彼は私のテントに入ると敬礼した。
第四旅団の司令官は、ミハイル・イェブツシェンコであるが、彼は昨日のうちに出撃して不在だという。彼の目的地も我々同様、首都だ。テレ・ダ・ズール公国の侵攻に備えるため、モルデン駐留の八千の軍の内三千五百を引き連れて、今日の午前中に出発し、五日後には首都付近で野営地を展開する予定だという。
イェブツシェンコも、ルツコイ同様に帝国軍内の主流派ではない。主流派でない彼は、中央から遠ざけられて旧共和国領内の都市に駐留させられていた。
一年前、私がモルデンに訪問した際は、イェブツシェンコは軍や市民と共に熱狂的歓迎をしてくれた。その時、城で開催された宴に、ブルガコフも参加していたので、彼とは顔見知りだ。
ブルガコフは、「部隊を城内で休ませてください」。と提案した。
私が率いる遊撃部隊二百名程度であれば、城内に収容も可能だろう。
しかし、私は固辞した。
帝国の指揮官の多くは、いまだに私を“英雄”として特別扱いしたがる。
私は特別扱いが好ましいと思っていないし、隊員には実戦に慣れてもらいたいので、このまま野営地にとどまることにした。
ブルガコフと話を続ける。彼もルツコイ同様、街の兵力が減ることで、大規模な暴動が発生した場合、十分に抑え込むことができないかもしれないと言う懸念を持っていた。
最近、モルデンでは、暴動が多発していることはホルツからの手紙で知っていた。
ホルツはモルデンの近くに潜伏しているので、暴動は彼の指導によるものもあるという。しかし、それは少ないと聞いている。自然発生的に起こっている暴動が多いようだ。
そして、ブルガコフも今回の出撃命令に疑問を感じていた。
出撃命令は、すべての旅団に出ている。その命令では、第二、第三、第六旅団が最前線へ布陣し、我々と残りの旅団は首都付近に展開するという命令になっている。ということは、公国軍が最前線を突破して首都まで迫る可能性があり、その対応のために我々を展開させたということだと考えられる。しかし、公国軍がそんなに強力とは聞いたことがない。それとも万が一に備えてのことだろうか。
皇帝イリアは、ここまで用心深い性格のだろうか。私は以前首都に滞在していた時、彼女と何度か話をしたことはあるが、彼女のことをさほど良く知らない。
オレガなら、召使として皇帝が皇女の時、仕えていたはずだから、彼女の性格も知っているかもしれない。私は、明日、そのことについてオレガに尋ねることにすることにした。
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