07

 佳乃はなぜだか、愛の気持ちがわかった。いつも夜慧にくっついて行動してて、夜慧のすごさを、目の当たりにして、自分が使用人か何かのような気がしてくる。佳乃が暗い顔をしていると、愛がハッとした表情をして、明るい声を出す。

「ごめんごめん、暗くさせちゃったね」

「? 暗くなりました?」

 夜慧が、とぼけた声でそう聞く。それを見て愛は、意味ありげな笑いを浮かべて、「それでも友達だもんね」と佳乃に呟いた。夜慧は相変わらず、わからない様子。

「参考になるかわからないけど、来夏の運動神経の悪さと、天然ボケを、同時に発揮した話があって、これだけは忘れられないんだ」

 愛は思い出したしたように、クスクスと笑い始める。

「体育でね、走り幅跳びしてて、あの子、助走が全く活かせずジャンプしたんだけど、砂場に届かず、硬いとこで、尻もちついちゃって」

「それは……相当ですね」

 夜慧が、信じられないという表情で、そう漏らす。愛はお腹を抑えながら続けた。

「それで終わらず、私の所にやってきて、ブルマと下着降ろして、お尻丸出しにして、アザになってないか、見せてきたんだよ、その時はさすがに焦った」

「え? 周りに人がいる中で?」

 口に手を当てて、驚いた様子で佳乃が聞き返す。

「そうそう、女子しかいなかったけどね、それに、すぐに気づいて、自分でお尻をしまったし」

 すごい天然ボケだと佳乃は思う。そんな事しちゃうんだ。

「あっ、そろそろ、帰らないと」

「そうですか、ありがとうございました……参考になりました」

 夜慧が、席から立ち上がって、そう言うと、佳乃もそれに倣って立ち上がり、頭を下げる。

「ううん、いいよ、いいよ、参考になったなら……帰ってご飯作らないと」

「偉いですね」

「そんな……家族のみんな、私がやって当たり前って、思ってるし……たまには、お礼言われたいけどね」

 大変だな。そう佳乃が思っていると、愛がいそいそと外へ出て行った。

「それで、参考になったって?」

 佳乃は夜慧を、伺うように見る。さっきの話、佳乃には、ほとんど無駄話に思えた。

「大いに参考になったわ……やっぱりって感じ、いいわ、いいわ、情報が集まってきた」

 楽しそうに、夜慧が佳乃の背中を叩く。どこをどうしたら、参考になるのか、佳乃にはサッパリ。

「最後の詰めに、関連の知識を調べて、それでピースがそろうわ、そしたら、組み立てて終わり、明日には考えがまとまるわ」

 心底、楽しそうに夜慧が笑う。そして、すでに自分の世界に入っているのか、足早に生徒会室を出て行ってしまった。残される佳乃。

「えー……わかんないんだけど、どうすればいいの、私」

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