第89話 …reunion 2
エルセーの部屋でトリィアはようやく驚きから回復して、ひとり胸を撫で下ろしていた。
(あー巻き込まれて死ぬかと思いました。そうかなーと思ってはいたけど、あそこまで凄い方だったなんて…まあ怖いわけじゃ無いですけど……あっ!)
「あら、トリィアちゃん、待たせたわねえ」
今更偽りの仮面をかぶって見せても、もはやトリィアの中のエルセーは猛獣の如き存在に更新されていた。
「い、いえ…大お姉様、お邪魔してます。あの……お姉様は?」
「レイもすぐに来ますよ……まったくあの子ったらもうっ…姿を戻したらベッドで泣かしてあげるわっ!」
(あーん、なんかまだ続いてるー)
エルセーはトリィアの顔を見つめると、目を細めて悪だくみに口元を持ち上げた。
「え?やだ…助けてお姉様…」
「いっそのこと、あなたを私のものにしてしまえば、2人揃って私の懐中に、ねえ、トリィア…?」
「ええ?ほ、本気では無いですよねぇ?」
その瞬間にノックも無しにドアが開いた。
「からかわれているのよトリィア。それに、既に似た様なものじゃないですか?エルセー」
もちろんウレイアが入ってくるタイミングまで計算されているのは言うまでも無い。
「そうじゃなくてっ、もっとあなた達にすり寄られたり…甘えたりして欲しいなあーなんて?」
「ふう、先ほどは口が過ぎました、お許しください。私をいたぶるなり、楽しむなり好きになさって下さい」
「あらそお?それじゃあほら、2人ともこっち来てっ」
2人はソファーに座らせられると、間に潜り込んできたエルセーに撫でられたり、ひざ枕に寝かされたり寝られたり、そしてトリィアは悟った。
(この人、めんどくさくてわがままだぁー)
「あのーなぜ私まで…?」
「なぜ?あなたもレイも私のものだものー!何をわけの分からないことを言っているのっ?」
「…………」
そのまま小一時間、たっぷりといじり回された後にはテーブルいっぱいの料理と共に3人だけの食事が始まった。あ、あとリードも端に控えていた。
「さあ、食べて飲みましょう、酔わないけど」
「今日もご主人はいらっしゃらないのですか?」
「んー?いつものことよ」
ウレイアは部屋のまわりにひと気が無いことを確認すると、トリィアと目を見合わせてから話しをきりだした。
「エルセー…」
「今はやめましょう、レイ。ひと気を見てからする話なんて…」
「いいえ、私達はあなたに決心をさせる為に来たわけではありません。このような……」
その言葉にエルセーは表情を固くすると、その場の空気を震わせるような声でウレイアの言葉を切り捨てた。
「やめなさい……」
「いやです。この様な最後の晩餐にはご一緒できません。あなたは私達を置いて行くおつもりですね?かつてのオネイロのように」
「……!」
「私はあなたを止めに来たのです、とりあえずっ。それに、私も手ぶらで来たわけではありません。あなたの持つ情報と合わせれば…」
パキッ!
エルセーがつまんでいたワイングラスの脚を指でへし折ると、グラスの頭はそのままテーブルに激突して幾つかの破片となった。
彼女の怒りは炎の熱波のような圧力となって、そばにいる者の心を焼き尽くそうとする。その威風はどんな覚悟も粉々に吹き飛ばす激しさを持っていた。
「ひっ!」
トリィアは息を飲んでおののき、リードは冷たい汗を拭うこともできず硬直していた。それほどのエルセーに対等に向かい合えるのはウレイアだけである。
「とりあえず……?もしもテーミスが天使であるならば一刻の猶予も無いのです。すぐにでも確かめて排除しなければ私達にとってどれほどの災厄となるのか…」
「だとしても……どれほどの力を持っていたとしても、力を合わせた私達3人を凌ぐと思いますか?」
「それは…」
「3人ならば作戦を練れます。作戦を練れば1の力を10にも20にもできます。私はどのような相手にでも勝てると思います!」
ウレイアはエルセーの目を見ながら微笑んだ。
「それにエルセー様?ずっと私達を愛でていたくはありませんか?私は…ずっとあなたに見守っていて欲しい」
ウレイアの心からの嘆願に肩を落として熱のこもった息を吐き出してしまうとエルセーはうつむいた。
「それは…ずるいわ、レイ……せっかく覚悟をしていたというのに」
「欲を出して下さいエルセー、もし戦うのならば今まで羽虫のようにはたき潰してやればいい。それが今までの私達ではないですか?」
「羽虫のように?ぷっ…おほほほほっ、やっぱり私の娘ねぇ。涙が出てくるわ……」
エルセーは握っていた折れたグラスの脚をテーブルにそっと置くと、
「そう…分かったわ、飛び回る虫は叩き落とさないとねぇ?リード、割れたグラスの代わりをっ」
リードは素早く割れたグラスを片付けると、サイドテーブルに用意された予備のグラスをエルセーの前に置いた。そして
「エルセー様、お許しを…」
「ん?ふふ…いいわ、許します」
「ウレイア様、ありがとうございます……」
リードはテーブルに頭をぶつける程深く、ウレイアに頭を下げた。
「エルセー様の決意に私はせいぜい盾としてこの命を使うつもりでおりました。ですから、もしも私でもお役に立つ事がございましたら…この命を作戦の一角にお使い頂きたく、お願い申し上げます」
「リード、あなたまで…これで負けたら愚将の誹りは免れないわねえ?」
「そうですね。そして貴女は教えてくれました。名将はまず、情報の収集と分析から、ですよね?」
エルセーは呆れたように息を吐きウレイアに微笑むと、軽くうつむいた。
「そう…では一からやり直しましょう、あなた達と共にね。その前に、折角だから食事を楽しみましょう。トリィア、怖がらせてごめんなさいねえ?気をとりなおして楽しんでくれると嬉しいわ」
「は、はい……」
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