第10話 三人目の弟子 6
時計の文字盤で12時を港にすると大通りは12時から6時を貫きウレイア達の自宅は4時方向の端に位置している。トリーは既に2時方向、中心近くの住宅街に身を潜めていた。彼女は10時から2時の海側を受け持ち、残りは全てウレイアが見張ることにしたようだ。
たったひとりの深夜、トリーは目を閉じて小さく深呼吸をすると丹精込めて書き込んだガラス玉を握りしめた。
その瞬間、玉は手の中でヒビが入り砂の様になって手の隙間からサラサラと流れて落ちていく。それと同時にトリーの頭の中では周囲に存在するすべての物を手で撫ぜているような感覚が徐々に拡がって、やがてウレイアが隠した石と繋がるのを感じた。
次々と他の石とも連鎖的に繋がっていくと、色の無い灰色の世界が光が当たるように一気に拡がっていく。
思わずトリーは手を当てて自分の口を塞いだ。立体的に全ての物を認識していくと、あまりの情報量に頭は痛く熱くなり、気分も悪く不安とパニックに襲われた。
それでもトリーは気を張り、つらい負荷に耐え、懸命に平静を保つ。
「う…つっ、おねえさま、お姉様……っ」
そして一人の不安を振り払うようにただウレイアを呼び続け、苦しんでいる間もずっとウレイアに言われたことを思い返して耐えていた。
「ごめんなさいねトリー、初めてのあなたには辛い経験になるでしょう。でも大丈夫よ、今のあなたならば十分耐えられるし、使いこなす事が出来るから…………………………………………使い方は、あまりにも感覚的で説明することはできないけれど、その時になれば自然に理解できるし、使えるはずよ…………………………………………………………それと、もしそちらに犯人が現れても相手を確認するだけよ?そしてこの木の板を折って私を待ちなさい、いいですね?大丈夫、ちゃんとあなたを見ているから安心なさい」
そして、優しく手を握られた。
初めての経験に徐々に慣れて、喘いでいた辛さも落ち着いてきたトリーは、握られた手の感触を思い出して微笑んだ。
「お姉様はマテリアルも使わずにこれ以上の力を使えるのですね?やっぱり凄いです」
その頃トリーと同じようにウレイアは路地の端に目を閉じて立っていた。
すぐ側を見まわりの警備兵が通り過ぎて行くが、今の2人を人として認識することは出来ない。視界には入るが建物の壁や石ころと同じことで、つまりは姿を消していることと何も変わらないのだ。
これを彼女は古い言葉を使って『wendan』と言っている。しかしその意味は『消える』『見えなくなる』『変わる』『歩く』『出発する』などあまりにも広く、それ故に使われなくなったのかもしれないが、ここは相応しい言葉を探して『隠伏』としたい。
そしてもうひとつ、トリーが今夜初めて経験した俯瞰視とは違う表面走査の様な技、ウレイアが日常的に使用している『触れる』という意味の『ahrepian』これはその目的を表して『監視』とする。大概彼女達が使っている『監視』の技は俯瞰で見下ろす正に千里眼である。しかし俯瞰には不便なことも多く、その欠点を補うためにウレイアは視触とでも言うべき技を自ら編み出した。両方を使い分けることで彼女は幾つもの眼を持っていた。
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