第9話 三人目の弟子 5
翌朝、陽が登ると同時にウレイアが書斎で紅茶を楽しんでいると、寝起き顔をこすりながらトリーが2階から下りて来た。
「おはようトリー」
「んん……おはようございますー、お姉様……」
ウレイアは用意してあったティーカップに温かい紅茶を注いだ。トリーはウレイアの隣に腰を掛けるとまだ眠そうにウレイアにもたれかかる。
「お姉様のベッドは寝心地最高です」
「何言ってるの、あなたのベッドと同じものよ」
「いいえ、ちがうんですーっ」
トリーは力強く主張した。
「満ち満ちていているお姉様のお力が私の身体にも沁みわたって、その上やさしいお姉様の香りに穏やかに眠ることが出来る。私だけの究極のパワースポットなのです」
「?……そ、そう…」
「更にお姉様といちゃいちゃ…ではなくて、ご一緒に眠ることが出来れば私もますます成長すると思いますのに……昨晩は何をされていたのですか?」
「今夜の準備、あとの仕上げはこれよ…」
トリーの前に手に握りこめるほどのガラスの玉が置かれた。
「これ?」
「私の眼が届くのは街の6割ほど…」
「ろっ、6割もっ?凄いです」
粗く『視る』ならば全てをカバーするのは簡単であった。しかしここは……
「残りの4割をあなたが受け持つのよ」
「そ、そんな、私にはそんな…」
「ええ、だから…これを上手に使います」
ウレイアが指差したガラスの玉を睨みながらトリーは摘み上げる。
「う……触れただけで分かります、私が書き込んだものとは密度が違う……もうパンパンです」
「今回はあらかじめ私が隠して置いてある石に干渉しなければいけないから、あなたは私が言う通り正確に、このガラスにイメージを書き込むのよ?」
「え?これに更に?壊れてしまいそうですよ?」
「大丈夫、余裕は残してあるから。まあ、あまり雑念を入れられると割れてしまうかもしれないけれど?」
「ええー?」
急な緊張がトリーに降りかかる、もう眠気も吹っ飛んでいた。
「そんなに心配しなくてもいいわよ?予備もあるから……」
そう言うと同じようなガラスの玉をゴロゴロと出して見せた。
「うえぇー?こ、これはまた…………ううむ分かりましたっ、一回で決めます!」
「そう、あなたなら大丈夫よ。まあ少し落ち着いてから始めましょうか?取り敢えずはお茶を楽しみましょう、一緒にね」
ウレイアの期待通り一発クリアを決めて、トリーは気分上々のまま夜を迎えた。暗闇と共に静まりかえっていく街とは対称的に警備詰所は騒がしくなる、今夜も詰所の指揮を預かる下士官の檄が飛ぶのであった。
「いいかっ、今夜も特別警戒だ!3人ずつ3組みに分かれてそれぞれ、見回り、詰所、仮眠をローテーションで行うっ。事件が片付くまで特別警戒は終わることは無い、全員集中を切らさず我々の義務を心掛けて任務に当たるように。先ずは
ホープ、トリストンにキャボットが見回りだ、何かあったら警笛を吹けっ、もし…もしも魔女と思われる女を見かけたら……手を出さずに逃げて来い、これは全警備兵に許されている。いいな……っ?」
「はいっ」
「はっ」
「はい」
命じられた3人はランタンを手に詰所を出た。
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