第8話 三人目の弟子 4
トリーはテーブルの真ん中にパイを置いて、皿とワイングラス、ナイフにフォークと手早く並べていくと最後に、常備しているワインを自分の椅子の前に置いた。ウレイアのグラスにワインを注ぐためだ…
とは言え、彼女達はあまり食事を必要としない。喉も渇けばお腹も減る、しかし普通の人々に比べればその欲求ははるかに少ないものだった。
「いかがですか?ミートパイ」
「ん?美味しいわよ」
「ふふふ…良かった」
トリーは以前の習慣がまだ残っていると思えるところが多々あった。それはそれで悪いことでは無い、むしろつい忘れがちになっているウレイアはトリーを見習うべきとさえ思っている。
「ところで、警備詰所では誰かに会えたの?」
「んぐ、はい、ホープさんにお会いしました」
「あら、あの新人くん?なにか聞けた?」
「はい…でも結局は事件の詳細は分かっていないようで、彼等も戸惑っているようでした。何かを隠している様子も無かったし、もしくは彼までは伝わらない何かがあるのか……」
「そう」
「どうしますか?お姉様」
「ううむ…万が一もあるしねぇ。これ以上の騒ぎになった時に厄介な事になっても面倒だしねえ……」
「そうですよねぇ」
一緒に考えるフリをしながらトリーはウレイアの顔をじっと伺っている。
「仕方がないから調べるだけ調べてみましょうか?ただ……ひとりではカバーしきれないから、あなたにも手伝ってもらおうかしら?」
「もちろんです!あれ?まさかとは思いますが、おひとりでなさるおつもりだったんですかぁ?」
ぷくっと頬を膨らませるトリーを見つめてからウレイアはわざとらしく目を逸らした。
「ううむ……」
「ええっ?お姉様っひどい!」
「冗談よ、頼りにしているわ」
「っもう……」
ウレイアはワイングラスをもてあそんだ。
「冗談はともかく、明日の夜からにしましょう。ただ今回は、あなたには初めてのことを体験してもらうから、覚悟しておいてね?」
「え?ええー……修行モードですか?んん……っでも頑張ります!」
「くす……」
わりと自分のことにはだらしのないトリーもウレイアの為と思うと弱音を吐くことは無かった。かわいいトリーのそんな性格をウレイアは存分に利用している、利用して生きる術を覚えさせてきた。
「ところでお姉様、あとで……おやすみになる前にでも私が書き込んだ『マテリアル』を確かめて頂きたいのですが?」
「いいわよ」
「では…っ、あとでお姉様の部屋にお持ちします。ふふ……」
トリーは事あるごとにウレイアの部屋に入り込もうとする。
「分かったわ、けれどその後は、ちゃんと自分の部屋でお休みなさい?私は今夜もベッドに入るつもりは無いし」
そして隙あらばウレイアのベッドに潜り込もうとした。
「ええー?んん…分かりましたー、でも睡眠不足はお肌に悪いですよー?」
「ちゃんと休息を取っているから大丈夫よ。心配しなくても……」
食事同様に睡眠もあまり必要としなかった。はたしてそれがどのような理由によるものなのかは彼女達自身解らない。トリーは単に以前の習慣に従って眠っているに過ぎないのだ。
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