第15話 九回裏でやっと昇Ten

「我は鏡の国のカガミスタン王子MCイチヤ。うちの上級国民になにをする」

 レイミが僕の事を話していたので「妹になにしてやがる」と言えなくなった。仕方なくカガミスタン王子と名乗ることに。


「レイミ様、私の後ろにお隠れ下さい」

 別に強そうでもないので様にならないが仕方ない。ステージで空のペットボトルを投げつけられながらもラップした気合で乗り切るしかない。


「音楽家に心霊現象はつきもの。今更驚く私ではない」

 腰を抜かして逃げ惑うかと思いきや動じず股間丸出しの幸田先生。さすが場数を踏んでいるだけのことはある。


「心霊現象なんかじゃない、教師面した変質者、詭弁弄してパンツ巻き上げ、渡しちゃいけない紐バック」


「うん、影があるから人間のようだが。日本人なのかね」

「カガミスタン王子MCイチヤだ。幸田先生、ミラ王女のパンツも巻き上げたよね?実は現場をチラっと見てたんだよ。変な指導を止めてくれます?」


 幸田先生はしばらく考え込んでいたが口を開いた。

「あなたが王子で手鏡ミラさんが王女ということは兄と妹の関係ということね。それは分かったけどレイミ様はなんなのかね」


「ミラ王女のご学友。つまり幸田先生は我が国の高貴な女性に無礼を働いたわけ」

「僕は封建的社会制度に反対です。音楽に奇跡はあっても貴賤はありません。レイミ様は僕の話に納得したんだからパンツを置いて帰ってもらう」


 何かが欠落した人だなと思いつつ反論。

「九回裏にやっと笑点、座布団全部取り上げて、教師失格懲戒免職、詭弁じゃ世の中通れねえ」


「貴殿のお話誰もが納得、世間様ではその通り、ところがテンションアゲアゲの、観客席には届かない。要するに、あなたはレイミ様の彼氏だからしゃしゃり出て来たんだろう。でもね、芸能は『これ』が原点なんだよ」


 幸田先生はむき出しのそそり立った股間を突き出し胸を張った。

「浜矢レイミくん、プロになりたいのなら私にパンツを渡しなさい」

 

「どこまでパンツにこだわるんだ」

「千枚パンツを揃えたら大願成就。別れた妻によりを戻して貰いに会いに行くんだ」

「僕のパンツも脱がしたいんですか?」

「いや、男のパンツは要らない」

「難しいこと言って、先生単なるスケベじゃないの?」


 幸田先生が返事に詰まったところにレイミが追い討ちをかけた。

「あたし、今パンツ穿いてないんですけど。始球式ならノーパンは当然ですよね?」

「あれはノーバンであってノーパンではない。バとパの違いは大きいよ」

「神聖なるマウンドに上がるならノーパンなのは必然です」


 妹の謎理論にはっとした面持ちの幸田先生。

「確かに天女はパンツ穿いてない。私はこの目で見たことがあるんだ」


「とにかく、カガミスタン国民の安全はこれからも監視してゆく。幸田先生、王子の言うことを聞かないということは一国を敵に回すということだ」

 僕はレイミの肩を抱き寄せ鏡の中に戻ろうとした。


「王子様。何の修行を積まれたらあなたのようになれるのですか」

 幸田先生の追いすがるような目付き。

「イタい思いを重ねたら私のようになれることもある」

 自分でもそこまで言うかと思いつつ鏡の国のカガミスタンに帰国した。

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