第13話 一線超え発熱

 音大の講師にそんな破廉恥な奴がいるとは。小柄細身なミラちゃんになんてことをと愕然。

「その幸田先生とやらは女生徒の個人指導の前にマイカマクラか何かをいつも飲むわけ?」


「マイカマクラ。お米の銘柄みたいなそんなおクスリがあるのね。お兄ちゃん、それって合法なものなの?」


「本来は処方箋が必要だけど実際にはネット通販で買えると思う。所持は合法だからそこから攻めるのは難しい。レイミ、お前は大丈夫だろうな」


「学科が違うから顔は知ってる程度。ママが幸田先生の後輩だったはず。ミラちゃん、お父さんにいいつけ……られたらあたし達に言わないか」


「楽器を演奏してる時に現場を撮影というのも両手がふさがっているから不可能だし、プロになったら業界の大先輩だから告発というのも難しいです」

 彼女が悪い訳でもないのに目を伏せて話すミラちゃん。


「殴ってやりたいけどそんなことしてもミラちゃんやレイミの評判が悪くなるだけだよね。話だけ聞いても潔白を断固主張しそうな人だし。カガミスタンからだとスマホで撮影も出来ない」


 女の子がセクハラやパワハラ被害に遭う話は僕もネットで断片的には知っていた。だがその被害者が目の前で悩んでいるとなると対応の難しさを実感。


「あたしが付き添いで行ったら幸田先生も何もしないかもしれないけど、ミラちゃん運転手さん付きのロールスロイスで送り迎えされてるから同乗することになるし、毎回は無理だし」

 天然過ぎるレイミも後輩の悩みを真剣に受け止めていた。よかった。普通の一面があったんだ。


「お兄ちゃんはミラちゃんと一緒の時だけしかあたしを鏡から見れないし、あたしが居るところに来ることも出来ないのよね」

「僕とレイミを同時にここに呼べるのはミラちゃんだけか……」

「キスしたらお互い鏡越しに行き来出来るようにもなるわ」

 妹よ。なんてこと言うんだ。ミラちゃんがより寂しそうな顔になったぞ。


「兄妹でそれは止めておこうよ」

「あたしが一人で幸田先生にお話しをしに行くから、それを見ていて欲しいの。危なくなったら助けに来て」


「この世界ではイチヤさんは王子様、先輩はあたしのご学友だから兄妹ではないんですよね。この鏡の国カガミスタンでは。先輩、イチヤさんとキスしたいの?」

 ミラちゃん。暗い眼差しを投げかけないでくれ。

「お兄ちゃんとならミラちゃんも安心でしょ?」

 だーかーらー、ミラちゃんは俺とお前の関係を心配してるんだよって。


「レイミ、将来的に他の男とキスすることもあるだろ?その男達と俺は間接キスすることになり、結果的に鏡を通して俺を見ることが出来るんじゃないの?」

「王女のミラちゃんが承認しないと何も見えないはず。それに今は彼女を助けるのが優先よ」

 ああそういうことね。なら安心だ、ともならない。


「妹をおとりに幸田先生を誘い出し、僕が話をつける。その後も裏切るようなことはしないから」

「悩みを打ち明けたのはあたしからだし、イチヤさんに任せます」

 ミラちゃん、他にやり方思いつかなくてゴメンな。


 妹を立ち上がらせ儀式的にキス。あれ、別にドキドキしなかったな。こんなものか。

「お兄ちゃん、マイカマクラってお高いクスリなの?合法なら幸田先生に飲ませるだけ飲ませてみたいのよ」

 妹よ。熱に浮かされたような目で僕を見ないで。悪い予感しかしないよ。

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