第10話 何か始まった
アパートの部屋に帰ってスマホの電源を切る。モニターに映る鏡の国カガミスタン城内広間の長椅子に腰掛けているミラちゃん。相変わらずノースリーブワンピース姿。画面が小さくて見辛い。風呂場の鏡の前に移動。彼女の姿が大きくなった。なんだか落ち込んでいるような。
「ミラちゃん?」
手を振ってみると目線が合った。声も聞こえているようだ。
「イチヤさーん」
ぱっと顔を輝かせて寄ってきた小柄細身推定Cカップの彼女。
「そちら側に行くにはどうすればいいの?」
「普通にくぐって入れますよ」
靴下をはいたまま絨毯を踏む。そういえばここは靴で上がるところなのかな。ミラちゃんは、ああ裸足だ。
「今日バイト先にお父さんが来たんだけど僕のこと話したの?」
「彼氏作らない同盟の王女様がルールを破ったんだから俺も入っていいだろうとパパに言われたけどここには入れないし見れません。父娘でキスはしませんから」
「僕のことはどう伝わったのか不安で」
彼女の隣に腰掛けながら話す。ん?通販の届け物の箱?まあいいや。
「面接合格だってメールが来ました。即座に高利貸しと氷菓子で韻を踏むとは頭がいい、社員にならないかって」
ラップバトルが面接になっていたとは気が付かなかった。きらめき金融CEOのご令嬢の彼氏にふさわしいかどうかも見られていたんだ。
「社員か。そうだよな、25歳で正規採用経験無しだと心配されて当然かもね」
「それは今すぐ決めるのは無理でしょうけど、VIP国民から王子様に登録し直しちゃいました」
僕が王子様。あんまりピンと来ない。でもミラちゃんの王子様って意味なのかな。
「レイミさんは王女のご学友レイミ様のままです」
レイミ様。あの天然過ぎる妹が?痛い。J-Rapとどっちが痛いのかな。口に出せないけど。
「僕、彼女に麻薬をやってるんじゃないかと疑われて困ってるんだ」
「問い詰められたんですか?」
「うん……」
風呂場でお互い裸のまま身体検査されたとミラちゃんに知られたくない。その上漏れてしまったとは。妹は怒ってなかったけど恥ずかしかったのかな?
「お兄ちゃん、こんにちは」
右側から声。レイミだ。普通のブラウスにジーンズ姿。ミラちゃんと同じく裸足。
「いつから聞いてた?」
「麻薬使用疑惑のあたりから。でも、ここに入れたということは。いつの間にミラちゃんとキスしたのよ?」
「あたしからキスしたの。先輩、イチヤさんと仲が良すぎて心配で」
ミラちゃんが助け舟を出してくれた。だが妹はまだ誤解していた。
「え、そうなんだ。栗の花の匂いがしなかった?」
「先輩、それってアレの匂いじゃないですか」
「そうなの、麻薬混じりのおしっこは栗の花の匂いがするのよ、お兄ちゃんはもうやらないって言うから信用してるけど、まだ体内に残留してる可能性があるって。ネットで調べたら」
「レイミ、ごめん。真相を話すとミラちゃんにキスされて興奮してたところにお前が裸で入って来ていじくるから」
「多分イチヤさんも困ってたんだと思うんですが、あたしも先輩にいじくられたら何か出ちゃうかな、なんて」
あくまでも僕を擁護してくれるミラちゃん。しかし妹の反応は。
「やっぱりまだアレは体内から抜けきってないのね?」
「レイミ、どこまで兄を疑うんだ」
「ミラちゃんにも見せてあげないとご学友失格になるわ。始めましょ」
「だから、先輩……見ていいのなら見たいです」
ミラちゃん陥落僕愕然。
何が始まるんだと見ていたらミラちゃんは通販の箱を開け、妹と一緒に何か衣装を取り出した。
「これがSサイズで、こっちは先輩用のMサイズ」
「着替えるなら出る」
「まだ出しちゃダメ」
妹よ。この部屋から出るという意味なのに。仕方なく彼女達に背中を向けた。
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