第1191話「アヤセの選んだ手段」
アヤセは自分の魂を細分化した時、消えた本人については『愛情と魂』を結びつけてそれに関わる情報へ行き着くようにしたと言っていたそうだ。
そして残る3人にも同じ様な感情を元に魂を結びつけたと………
しかしエルノックはその詳細は聞くに至らなかったそうだ。
本人がそれを望まなかったらしく『いずれ時が来たら分化した彼等は間違いなく自分を探しに戻ってきます』と言ったそうなのである。
「ならば……愛情と魂ならその逆の感情も?」
「恐らく……だから口を濁したのかと………」
その会話からたどり着くとすれば『憎悪と魂』に他ならないだろう………片方が愛だけに想像はしやすい。
しかしそうなると色々問題が出てくる。
何故ならば『平和』を紐付ければ反対は『破壊』になるだろうし『優しさ』を紐付ければ『差別や侮蔑』になっておかしくない。
結果的に愛情を選んだアヤセの分体は消えた………
僕と同じような状況下であれば自分の誰かに吸収された……と言うのは大方間違いではない。
そして『試練』たるものが何か分かっていなかったアヤセであれば、消える事は必然だった事になる。
何故ならば『帰る事』を望んだのだから………である。
◆◇
試練話でかなりの時間を要したが、太陽エルフ国での試練は大方理解ができた。
今まで自分に関わりが薄かった異世界人のアヤセの存在が明らかになった。
彼女もホリカワ同様この世界に来ていたことは間違いがない………それは消える前に録画された動画からも間違いなく言える事なのだ。
問題は元老院がエルフになる前に来ていたと言う事実であり、それから尚生きている可能性も見えてきたと言う事なのだ。
何故ならホリカワの事例もあり、試練絡みなのであれば『消えると言うより必然だった』と捉える方がそれらしく思えるからだ。
そして現時点で問題になってる商店に事については、一度店を出すと1週間は同じ場所に出続ける……
そういう意味では、面被り達やハーフエルフ達の様な迫害されている者達の側に、この様な特殊な店の出店をする事が得策だろう。
王都や帝都で実験するには危険だと言えることだけは間違いがない。
僕はポチに促されるままモノリスプレートで操作をする………店の出店期間設定である。
「ポチ…………」
「なんでっしゃろ?旦那様!」
「ポチさんや?」
「な………なんでっしゃろ?旦那様…………」
「店の利益………儲けすぎじゃない?」
僕はポチに何を幾らで売っているのか尋ねると、この世界の日用品こそ安いものの異世界品……特にカップラーメンが約2倍の値段、衣類などは桁外れな値段になっていた。
異世界ではどう見ても売れ残りの1枚数百円の品に、人気商品のポップがついて飛ぶ様に売れている実績があった。
「こ……これは異世界品って珍しい物効果がありますやろ?異世界ステータスも追加されてますがな!だからですがな!!」
しどろもどろのポチだったが、確かに異世界の品である………罷り間違っても製品が悪いはずも無い。
寧ろこの世界の製品と見比べれば品質性能どれもが一級品である………
その上、ポチの能力で持ってきて売っているのだから文句を言うのは筋違いであり、間違いなく売れ行きは右肩上がり間違いない。
目と鼻が効く仕入担当をしているのだから、凄腕販売員を褒めるのが普通だ。
「まぁ………良くやってくれてるよ。でも出来れば皆のために良心価格で頑張ってくれるかな?」
「勿論でんがな!」
そう言っていそいそと倉庫の奥に姿を消すポチ………
僕はその後をそっと追いかけそっと覗くと、天井まで積み上がったお菓子やラーメン、飲み物に混じってキャットフードまで入荷されていた。
「ポ………ポチさんや?この山はなんでしょうか?」
「ち……違うねん!これは桁押し間違えて………」
「桁………間違えた………にしては品目が多すぎるでしょう!!成程これはちゃんと皆に還元する品になっていい訳だ………ふむ………」
僕はイーザを呼んですぐにポップを書かせる……
内容は……『異世界食品特売品!仕入れ担当が桁を間違えて発注しました!24個頼むところを24ケース頼んだ馬鹿猫を救ってやってください!』と………
価格は仕入れ値に少し上乗せした金額……その日エルノックはアヤセの事を思い耽りながら有金全部をはたいて買い勤しんでいた………
◆◇
僕は店舗設定を35日間延長して設定をする。
2週間程度では帝国を超えては帰ってこれない。
黒穴を使って戻って来れるが、その都度で毎回戻るには大変であるし、命令指示系統など販売経験がない僕には無理な話だ。
という事で店周りは全てポチとイーザにおんぶに抱っこさせて貰う。
まずは往来許可が降りて無い王都と帝都の国境を避け、帝国北部に行くために小国郡国家を目指さなければならない。
太陽エルフの国の一件依頼、帝国はより一層防備を強くした。
当然手を組んで帝国に攻めてくると考えるのは間違いない事だろうが、実際はそうでは無い。
兎にも角にも今はゼフィの一件もあるので砂漠の国小国郡国家にいくしか無いのである。
ゼフィランサスの件とは簡単に言うと、ゼフィランサスがサラマンドラの跡地という場所に降り着いたという報告が入ったのだ。
昔周辺部族をまとめ上げた都があった土地で、今は焼け落ちて以来草の一本も生えない土地とされている。
周りに人はいなく集落も無いのだが、何故かゼフィランサスはそこに長居をしているそうだ。
僕は行く前に精霊核の素核の件もあるので氷穴に方へ単身で向かう。
黒穴経由なので時間はかからないのだが…………理由は大きくして2つ。
自分の蘇生と、今はサイキとシリカに渡してしまった精霊核と龍核についてだ。
◆◇
「母さん………カサンドラ母さん………あれ?居ない………って言うか僕の遺体とフローゲルの頑固爺さんの霊体も?」
「はいはいなーに?今実験してたのよ?」
そう言って氷穴の奥の部屋から出てきたのは、カサンドラに加えてホムンクルスの身体になったフローゲル師匠だった。
「え!?………フローゲル師匠………何故ホムンクルスに?」
「い………いやこれには訳があってじゃな………」
そう言って困り顔のフローゲルを差しおいてカサンドラが話をする。
サイキの持って行った血族の結晶を元にフローゲルの封印を完全に解除したのは良かったのだが、聖なる加護の拠り所を失ったフローゲルの魂は悪霊になりかけた。
そこでカサンドラは急いでホムンクルスの中にフローゲルの魂を封じて蘇生処置をしたそうだ。
当然その理由はサイキやシリカと敵対しない事が大まかな理由だが、それ以上に僕の存在が大きく関与していたと言う。
その理由とは当然フローゲルは今は残存数がほぼ居ない、錬金術師の一人なのだ。
僕の師匠としてもだが、それ以上に彼がこの世界にとって貴重な存在である事に変わりはない。
結果、フローゲルとカサンドラは事情を話し合うきっかけを得たそうだ。
一方的にカサンドラを悪と思い込んでいたフローゲルにも問題があり、貴族の騙し討ちにあった事を理解した。
その結果サイキ達が戻るであろうこの場所に『居候』する結果となったようだ。
ホムンクルスの肉体を得たフローゲルは、直接魂に受ける穢れもなくなり今はカサンドラの調節も入るので、それとなく暮らしているようだ。
「それでどうしたんじゃ?慌ててきた様じゃが………」
「実は蘇生の方法ってどうなったか知りたくてさ………」
そう切り出した僕の言葉にカサンドラは『ニヤリ』と笑い奥の部屋に行く様に指示を出す。
そこには今の僕と殆ど変わらない僕が横たわっていた…………。
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