第1186話「賢者エルノック」


「あんた………って事は……この一件の黒幕って事じゃないか!!」



「こうせねばスゥはエルフ族と共に死に、国王陛下夫妻の死も無駄になる……」



「せめて国王とその妻くらい生き延びさせる方向に出来なかったのかい?」



「止めることが叶わない事だってあるのだ……奴等の企みはベンヌの宝寿……それが手に入らなかったならこの国は死体の群れが築かれた事だろう」



 僕は成程と思ってしまう。



 彼のいう死体の群れとは、霊廟にいた彼等エルフ市民の事を指していて間違いはない。


 実験はより悪い方に進み、死んだ市民だけではなく、生きていた市民にまでそれが及んだという事だろう。



 しかし問題は、今になって何故僕の元にやって来たのか?だ………



「聞きたいことが………何故今になって僕達に加勢を?」



「当然アヤセ様の思いの為で御座います。そして貴方様が来る事は既に面被りの同行を探ればわかる事。そもそも4人で行動を共にする異世界者など世の何処を探しても、早々には見つかりません」


 

「た……たしかに」



「ですから貴方様が消えた時は心の底から慌てましたぞ?面被り達を全方面へ旅立たせたものです……」



「それじゃあ………ハーフエルフ迫害は…………何故?」



「それはエルリウの素材集めが原因です。奴は既に元老院も約束の地にも興味は無かった。あるのは命を弄ぶ快感だけだったのです……」



 僕はエルフォイアーにまで手をかけた事を聴く………


 すると答えは簡単だった。



 彼もまた約束の地に興味はなかった。


 長老の座を手に入れた今、全員が約束の地に行けば自分が最長老の座に君臨できるのだ。


 

 その欲からの行動原理であり、やがて彼の思いは異世界にまで波及すると思い事に及んだそうである。



「今はベンヌの宝寿を元の位置に安置する方が得策かと………」



 僕はその意見に賛同して宝寿をエルノックから受け取る。



 エルノックは僕に宝寿を渡した後、ヘカテイアと話し込んでいた……



 ◆◇



「う………ううん………貴方は………スゥ!?………スゥなのね!!」



「お母上様………この様な体たらくな私をお許しください………」



 僕はベンヌの宝寿をスゥに渡した。


 何故なら僕がエルフ国に関わるのは間違っているからだ。



 ベンヌの宝寿と言うからには、国の宝である意味は大きい。


 悪魔になってしまった僕が関わって、万が一の事があってからでは遅いのだ。



「私が蘇ったという事は………あの悪魔が?本当に敵では………」



「ヒロは元人間です……それも異世界の………訳あって悪魔の姿にはなってますが敵ではなく味方です」



「悪魔が………味方?………俄に信じられませんが………たしかに苦しそうですね」



「できればここから1秒でも早く出たいですね……ここは神霊力が強すぎる」



 僕の申し出で、ベンヌ達の神殿から僕やチャタラーそしてマモンは出る……


 ベンヌ神殿は当初の力を取り戻したのか、僕達悪魔の身体から火の手が上がるくらい酷い場所なのだ。



 代わりに説明してくれているのはスゥと親衛隊長のエルフレアである。


 僕達が戦っている最中はエルフレアがスゥの護衛を買っていてくれた。



 モア達がいるとはいえ、今はエルフではなく始祖だ。


 民衆の目もあるのでエルフレアが適任だという事だったのだろう。



 問題の元老院はエルノックの離反で無力化されてしまった。


 なんとも奇妙な事が続くが、色々と繋がってきている。



 ポチが言っていた、太陽エルフ王都に関する異世界に繋がる情報や力は、ここに集約されているのだろう。


 戦闘こそ少ないが、情報量は既に多すぎてお腹がいっぱいだ。



 狭間で別れてから情報が薄かったヒステリックなアヤセさんに始まり、ヘカテイアの過去の一部を知った。



 そしてエルノックの情報によれば忽然と消えたアヤセさん。


 エルノックの事も踏まえると、アヤセさんが消えた理由を探る辺りから再検討する方が良さそうだ。




「エルノックさん………この王国は前の様な状況に戻す事は可能なんですか?」



「我らが盟主様ご安心を。もうこの太陽エルフの王国には『元老院』は御座いません。健全なるエルフの王国になるでしょう」


 その言葉に僕は『エルノック……付いてくる気が満々だぁ………』と思いつつ苦笑いで返す。



「ならよかった……一連の事が改善したらフェニックス神殿へ行かないとならなかったんで………」



 僕は歴代の王に怒られる覚悟を決めてフェニックスの神殿へ向かう。



 その足取りは重い……何故なら既に禁じられた力を使ってしまったからだが、事態の収集をするには致し方のないことでもある。



「来おったぞ………エルルス………あの大馬鹿者が………」



「エルリヒト様……しかしその………致し方ない事なのでは?あの元老院相手では……」



 そう言いつつもエルルスの眼は厳しい者の目つきである。



「ふむ……封印の一部は外れたものの全体は平気か………」



「あのエルリヒト様…‥申し訳ありませんでした……」



「此処から見ていたが……もはやエルフならざる者相手では仕方のない事。あれ程の相手に腕一本に封印だけで凌いだ事は誉めてやらん事もない……」



「本当ですか?ならお叱りは………」



 つい調子に乗ってそう言ってみる……



「お前にはこれからしっかりした試練を受けてもらう。この王国を救ってくれた事に対してのフェニックス神殿からの贈り物だ」



「試練を?っていうかエルフ族では無いんですが……」



「だから贈り物と言ったんだが?」



 そう言ったエルリヒトは槍を構える………



 そして『我に勝ってみせよ!』と言った。


 


 ◆◇



『水槍撃!!』



「特大の精霊魔法か!?やりおるな……だが……期を待たずして撃っても意味は無いぞ!大きなダメージこそ当てねば意味は無い!『リヒテクス・スピアー!』………」



「グハ………いてぇ………カウンターのタイミングが完璧すぎるんですよ!!広範囲魔法なら避けられませんよね!ゲヘナ・エクスプロージョン!」



 僕が作り出した暗闇の中を難なく移動するエルリヒト。



 広範囲の爆炎もなんのそのでよてしまう。


 流石に相手が初代フェニックスキングともあり、戦い慣れしている事はあった。


 何をどう繰り出しても綺麗に躱されダメージなどほぼ皆無。



 神殿の試練とは言え、相手を撃破するなど到底無謀とも思われる戦いであった。



 しかし時間を置けば置くほど、エルリヒトの神聖力は衰えていった。


 どうやら突破口は長期戦の様である。



 僕はひたすら攻撃を繰り出しての相手に近寄らせない戦法で戦う。


 何故なら回避行動が裏の裏まで読まれてしまうからだ。



 エルフの戦闘技術の高さは一般兵でさえ馬鹿に出来ない。


 エルリヒトクラスの猛者になると国を背負って戦う戦士になるので、一歩間違えれば即座に首を刎ねられかねない。



 今殺されないのは試練だからであって、悪魔VSエルフ族の戦争では無いからだ。



 そして僕が悪魔であるペナルティを背負って戦っているのは相手にはどうでもいい事であった。



 悪魔であるペナルティ………それは太陽神殿事フェニックス神殿の中では悪魔的な力が一切発揮できない。



 それは試練の間だけではあるが、悪魔が攻め込んできた時の安全なる場所………所謂、避難所として定められた場所であるからだ。



 本来ならこの場に入った悪魔は一方的にボコられて消滅する筈なのだが、今は何故か僕が試練を受けている。



「ふははははは!我が弱点が看破されるとはな………とんだ誤算だ……」



「神聖な力が薄らいでいるのに目をつけたまでです………でももうガス欠ですね僕も………」



「ならば若者に免じてここは引き分けとしておこう。我はまだ今少し戦えるからな!」




「ず………狡い…………」



 エルリヒトは『駆け引きも勝負の内ぞ?』と言って大笑いをした。

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