第1185話「ヒステリックな異世界人とその行方」
「これが私の知る元老院の全てと私たちに関わった最初の異世界人アヤセの話よ………おそらく魂が崩壊してこの世界で最も酷い状態で死んだのね」
「あの人…………そんな前に飛ばされたのか……なんか凄く申し訳ないな………」
「知ってるの?」
「同じ部屋にいた犬好きの女性だよ……ヒステリックに僕達に先に行けって怒鳴ってた声が懐かしい………」
ヘカテイアはビックリして僕を見る。
何故ならヘカテイアのアヤセの印象とは真逆だと言う。
「犬好きだったの………通りで………首輪を何個も持っていたわけね……」
「首輪を?」
「捨てるに棄てられない物で困ってるって……全部で11個あったのよ……元老院全員が1個ずつ持っているわ……アヤセは卒業祝いと言って犬を飼うように勧めたわ。最長老の分はもうなくなったけどね」
僕は通りでヘカテイアの管理する城の中庭で、あんな化け物をウジャウジャ飼っていたのだと理解できた。
「あの中庭のも?」
「うふふふ……そうよ?師匠の指示は絶対だもの」
そう言ったヘカテイアは『キッ』とした表情で僕の方を睨む………
「現れたわね………火の賢者エルフォイアーに生命の賢者エルリウそれに空の賢者エルノック」
「ふぉっふぉっふぉ。私達を知っている者‥‥ヘカテイア懐かしいな。死の賢者エルモルテ………いやエルフを忌み嫌ったから人間の名前でモルテと言ったべきか?」
「それを言うなエルリウ……かつての仲間じゃないか。それにモルテとは『死』という意味でつけられた奴隷の時の名だろう?」
「その奴隷があんた達より強くなったのはお笑い草だね……。まだこんなくだらない事をやっているのかい?エルフォイアー」
エルフォイアーは『ムッ』としつつもその言葉にしっかりと言葉を返す……
「約束の地………そこに行く事を悪とするか?モルテ……」
「悪だとは言わないよ……だがエルフ族の宝珠を持ってしても『渡れない』という方が正しいからね!」
エルフォイアーもエルリウもその言葉に目を見開く………
「そこまで知っていて何故協力しない……何が足りないのか我々には未だに分からんのだ!!」
「簡単な話だよ!変質しない魂それがアヤセ様の持っていた物だ。だがねヒロ曰く残念だが戦争もない時期はごく僅かだって話だよ?だよねヒロ」
「僕達異世界人の世界では度重なる戦いの末『戦争を放棄した』国の働きかけがあったんです。だから戦争がなく、争いも少ない。でも決してゼロではない」
「だが魔物はいないんだろう?食べ物とて……苦しみとてないと……此処とは比べようもないと聞いたぞ!」
「あのアヤセさんという人は僕と同じ同郷の人です。ですが苦しみの意味はここにいるからという意味が大きいです。誰だって自分の家に帰りたい……そう思うでしょう?」
エルリウもエルフォイアーも『そんな馬鹿げた話信じられるか!』と暴言を吐くが、もう一人の賢者空の賢者・エルノックは何も言わない。
「エルノック……あんたはおかしいと感じていたはずだ。何故何も言わない………」
「向こうから来るのを待ってたからだ………」
「向こうから?」
僕はそう聴くと、ヘカテイアはすぐにエルノックに魔法を仕掛ける。
「案外仲間思いなんだな?モルテ……」
「あんた……知っててたな!?」
「ああ………恐らくはと思っていたさ……だが同じ魂を持つ輩には逢えなんだ。お前が連れてくるまではな!!」
「エルフォイアーにエルリウ………」
「なんだ?エルノック加勢が必要か?空の賢者ともあろう者が地に落ち………ゲフゥ………………」
「何………簡単な話だよ………俺の邪魔をするなら死んでくれ!」
そう言ってエルノックはエルフォイアーとエルリウの首を刎ねる。
「お前達は変質を拒み続けた……もはや最長老の様に化け物にしかなれん……これがかつて仲間だったワシからの手向けだ。すまんな……」
「ば……馬鹿な………エルノック………貴様何故裏切りを………変質を止める手段を向こうに行って…………」
「そうだ………この宝寿が………あれば………ゲフゥ……ゴハ………」
「方法ならもう見つけたさ!変質なんかとっくに克服した。ヘカテイアの姿を見れば一目瞭然だろうが?馬鹿どもめ……」
そう言ったエルノックは僕の側まで来ると足元にひざまづく。
「主様………申し遅れました我、空の賢者エルノックなるものです。アヤセ様より話を聞いておりました……貴方様は共に旅立たれた4名の若者、そのお一人で間違いないかと………」
「え?………聞いていた?………」
「私は賢者としてアヤセ様を慕っておりました。あの方の魂と想いをご家族へ返す日を心待ちにしておりました故……この様な無様な手段をとった事お詫び申し上げます……」
「エルノック………あ………あんた………アヤセ様を慕ってただと?」
「それのどこが悪い………相手はワシより遥かに年上だが、優しきあの目……恋焦がれて何が問題だ?」
驚くことにエルノックはエルフォイアーとエルリウを始末して、ベンヌの宝寿を手土産に持ってきた。
そしてエルノックは変質をもにともせず受け入れていたのだ。
「エルモルテお前にも借りがある。お前はヘカテイアを受け入れて見事に俺の希望になった……変質を受け入れ、人やエルフを捨てる事それが全ての始まりだったのだ!」
「ちょっと待ちな!!どういう事だか意味がわからないよ!わかるように説明しな……エルノック」
エルノックは僕の前で堂々とアヤセに恋焦がれていると言って退けた。
そんなエルノックはどうやれば彼女にまた会えるかだけを考えて行動したそうだ。
彼女が飛ぶその前に自分が救出に行く……そうすれば問題は解決すると考えたそうだ。
しかしその場合、今のエルノックは存在しなくなる。
何故ならアヤセがこの世界に来たからこそ、その可能性に行き着いたのだから……
その事を話すも『あの方の為なら問題ない』の一言であった。
元々エルノックは元老院から離脱したエルモルテ事ヘカテイアを見張っていた。
初めはアヤセ絡みだと思ったがそうでないと理解する日は早かった……何故ならヘカテイアの力を受け入れて転化したからだ。
彼女は何故魂を穢したのか………それが気になったエルノックはその行為の深層心理から全てを計算した。
彼女にもそうしなければならない事情があったと考えるべきだと考えが至った時、アヤセの事を思い出したそうだ。
変質した魂………
生まれ変われない代わりに消えゆくだけの魂になったアヤセは、人やエルフより『穢れ側に近い魂ではないか?』と考えに至ったそうだ。
結果エルリウの実験を観察し続けて実証を得た彼は、自分でもそれを実行した………
彼は意識をエルノックで持ち続けつつ、魔人の資質を手に入れたのだ。
魔人エルノックそれが今の彼であり、元老院鳥の賢者エルノックもまた彼であった。
穢れ界に来なかった理由はアヤセの事があった為である。
穢れ界に行っている事は考えずらい……だから文字通り消滅したと考えるべきだと考えに至った。
ならば彼女を救う方法は、転移前に救う以外方法がないと考えたそうなのだ。
そこから膨大な時間を要して彼の策略は花開く……
仲間に申し出てみたりもしたが、聴く耳を持たず自分の敵にしかならないと考えた彼は、スパイの様な役を買って出たのだという。
人知れず暗躍し、元エルフの王エルルスにスゥの助力を耳打ちしたのも彼だという。
当然エルルスは敵である元老院エルノックに言葉を鵜呑みにはしない。
その事もあり、途中で僕と出会う様に面被り達を利用したというのだ。
スゥの国を出た一件、戻ってから追放された一件、そして今回の蘇生まで全てはエルノックの掌の上だった……というのだから驚く他ない訳だ。
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