第1184話「11人の賢者」
彼等は自分を変質させてまで世界を渡ろうとした………
しかしヘカテイアはこの世界に残ることを選んだ。
その記憶は火の賢者エルフォイアーと生命の賢者エルリウの記憶からも明らかだ。
そしてヘカテイアは死の女神であり、彼等と同じ賢者であり元を辿れば死の賢者だった。
僕が思案に暮れていると、マモンから注意が促される………
周りの事を見れば当然のお叱りである。
「おい!ヘカテイアにヒロ念話で何か話してるのはバレバレだぜ?だが今はやめておけや……やる事が山積みだろうが!」
「マモンそんな事はわかっちゃいるよ!先に念話を仕掛けて来たのはヒロの方さ。アイツに言いな!!」
僕は勘ぐりが上手いマモンの言葉を無視して元老院の方角を指差す………
「この方角に元老院がある。ヘカテイア手伝ってくれるかい?」
「チィ………仕方ねぇな。行ってこいやヘカテイア………何か理由があってのお誘いだろうしな!ここはもう戦場じゃねぇ。周りは全部俺達の仲間になっちまったんだからな!」
そう言われて僕は周りをみる………
確かに倒れてまで戦い続けた僕に対して、羨望の眼差しが多い。
そんな光景を見てヘカテイアは観念する………
「仕方ないね。わーったよ……行くよ!いきゃぁいいんだろう!?あたしゃ『場所を』知らないんだ……案内しなヒロ!」
そう言ってヘカテイアは僕にケチをつけつつも行く気を見せた。
◆◇
「チィ……何の因果か……今になってめんどくさい奴等に会う羽目になるとはねぇ……」
「でも……なんでなの?」
「『なんでなの!?』だって!?決まってんだろう………自分達がエルフになって満足せずに擬似生命からエルフなんか作って王様気取りだよ?そんな奴等が別の世界に渡ったらどうなるか……その意味は言わなくても把握は簡単だろう?」
そう言ったヘカテイアは『お前の世界に魔法を持ち込んだら……全てが崩壊するだろう?』と言う。
現にカサンドラが行った秘術で何人もこの世界に呼び込まれた。
その件でさえ『手違いでした』では済まない問題なのだ……
何故なら『帰る方法』が確立していない以上、向こうから戻ってくる方法もない。
僕の父と母が元魔王と元聖女であっても、向こうでは魔法を使っていない………
使っていないのではなく『使えない』と言うのが実情だろう。
ヘカテイアは更に当時の情報を教える。
元人間だったヘカテイアを含めた賢者達は、ダンジョンから産出される秘薬を持って延命し続けて来た。
そして最長老がまだ健在だったその頃例のヒステリックな女性と出会ったそうだ……
名前はアヤセと名乗ったそうだ。
薄汚れていたものの自分達とは比べ物にならない高い魔力と知識を持っていた。
11人の賢者はアヤセに教えを説いてもらおうと、彼女を師事したそうだ。
とは言え賢者と呼ばれる彼女達11人は既に100歳を優に超えていた。
その彼女達がアヤセに年齢を聴くと『1000までは覚えているが、その先はわからない。祝ってくれる人も居なければ祝う相手は先に死んでしまう』と嘆き泣き崩れたのでその詳細は聞けずじまいだったそうだ。
しかしある時アヤセは『異世界の事』を話したと言う。
それが『約束の地』である。
彼女は『何があっても戻る』と言い、彼等は彼女を帰すために必死になって方法を探し求めた。
その頃『異世界人』については記録も残っておらず、知識としても現地人は持ち合わせていなかった。
稀に『そう言う人』を見かけても現世で言う『頭がイカれた奴・頭のネジが飛んだ人』として扱われてしまっていたそうだ。
ヘカテイアが『今からしてみれば、もっと沢山の情報が集められた……後悔しかない』と語る。
そのアヤセと共にいる事数百年が過ぎた………アヤセは不思議な術を使いダンジョンからしか手に入らない『秘薬』を精製したそうだ。
それが『錬金術師』の技であり、やがてチャタラーが行き着く境地だったのは言うまでもない。
アヤセは僕と同じ『錬金術師』のスキルを獲得していた。
この世界に飛ばされた際に持っていたのか、努力の末手に入れたのかまでは分からない。
何故ならヘカテイア達でさえ、その事はタブーとされて聞き出さなかったそうなのだ。
当時師事をする相手の事を詮索して破門に遭う生徒は少なくない。
当然今でもそうかもしれないが、賢者たる彼等は錬金術師の事だって詳しく知っているのは言うまでもない。
秘匿とされるその極意を、自分自身の目の前で見れるだけでも、彼等にしてみればまたとない機会なのだ。
彼等は、アヤセの持つ境地に近づこうと、こぞって錬金術師達とのコンタクトに出る。
自分を弟子にしてほしいと言う元老院の賢者からの申し出ともなれば、相手にも理がある。
そうして元老院はさまざまな力を身につける。
結果………擬似生命体『エルフ』の製造に没頭するようになったのだ。
師であるアヤセは遥かに高い魔力を持ち知識も多い。
その上、彼女は酒を飲むと間違いなく『約束の地』について語る。
魔物が1匹もおらず、戦闘魔法など使わずとも生活できる環境、そして食べ物が豊富で平和な生活。
彼女が持つ素材全てがこの世界にはないもの………
それを垣間見た彼等は、今の年老いた肉体ではその地に行けないと考えたそうだ。
そこで自分の魂を移し替える技術『反魂の秘術』を元に、魔法生物・ホムンクルスとは別の方法を編み出した。
それが擬似生命体である。
人間を培養し心臓の代わりに精霊核を仕込んだ『擬似生命』である。
人間より機敏に動き、長命かつ魔力量は人族から見てその10倍に設定。
長い耳は生まれ持ってのセンサーの役目を果たす。
結果その聴力から感知スキルを種族的に得ることになったのだが………
元老院は自分の身体を捨てエルフになった後、アヤセを返すために彼女の元に集まった。
しかしアヤセは皆を見ると『その身体では渡れない……魂と肉体がチグハグで消滅するのがオチよ?』と言ったそうだ。
そこから元老院に狂気が生まれた………
魂の質……魂の馴染み方………破壊されない魂の作り方……と言うふうにおかしな理論にすり替わっていった。
この時既にエルフの実験で1国家分ものエルフ達を生み出していた。
培養しては野に放ち、それを意図的に出合せる。
野生で出会った擬似カップルとして家庭を持ち、やがて集落ができ村へと至る。
知識が豊富なエルフ達はあっという間に元老院の目論見通り国家を築いた。
そこに現れたのが11人の長老だ。
しかし事はうまく運ばない……最長老が変質し化け物になってしまったからだ。
その理由は至って簡単……
アヤセが忽然と姿を消したからだった………
最長老はこう思った『奴は帰り方を知っていて俺たちを騙した』と……ヘカテイアはそう言っていた事を語る。
しかし彼女の足取りは掴めない……目の前で一言『帰りたかった』と言って消えてしまったそうだ。
ヘカテイアは今から思えば、言動が怪しく残される自分達に憐れみを向けていたと感じたと言う。
既に変質した魂の限界をも超えてしまったのだ………とも言うヘカテイアだったが、実の所その現象に説明は今でもつかないと言う。
師事した師匠だけに『元の世界に帰った』と思いたいと言っていた。
しかし残りの9人の元老院の考えはそうではなかった……『約束の地に行く手段を見つけること』それが師事する重要さより上回ってしまっていた。
彼等はエルフの頂点に君臨しつつ、実験を繰り返した………
そんな矢先、ヘカテイアは現状に嫌気がさして離反したそうだ………
元9人体制の元老院に誕生である。
それと共に全てが間違えた方向に進んだのであった………
ヘカテイアの記憶はここまでである………何故なら彼女は別の意味で堕落し『死の女神・ヘカテイア』の力を取り込んだのだから……
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