第1181話「ベンヌ神殿での異変」


「ボーにチャタラー………今からちょっと戦ってくる!」



「ああ!任せとけお前に何があっても知らんが、俺が責任を持ってこの娘だけは守ってやるよ」



「チャタラーも随分丸い性格になったな?向こうで見かけた時は出会い頭に誰かを殺す奴だったのにな?」



「お前こそそうだろう?俺もお前も同類だ。ヒロは因みにだが同じ派閥のいわば後輩だ。先輩がケツを持つのは仕方がねぇ」



 二人がそう話している間に僕は一気に、神殿の入り口まで走り抜ける……


 敵が潜んでいる様子は見られないので、少しでも早くベンヌの元へ精霊核を受け取りに行く為だ。


 そして門をくぐった瞬間、頸がゾワゾワするくらいの凄い殺気を感じる。



「来ましたね……人にして堕落した悪魔になった者………」



 そう言ったベンヌは『火の賢者エルフォイアーこの者ですね?我が国を陥れている者とは。我が娘の仇………此処で死んでもらいます!』と言う。



 どうやら先回りして居たのはこの為だった様だ。



「僕はヒロ………貴方に娘のスゥを助けに来た者です!」



「黙りなさい!そもそも人間が立ち入っていい場所ではない。その上この国の騒乱に乗じて此処に来ているではありませんか!」



 ベンヌに言葉に僕は『話す手段があればそうしました。ですが既にこの国の元老院は人間を含め他種族に宣戦布告を行ったのですよ?それでどう対処しろと?』と既に会話にも至らない状況になっている話をする。



「な!?どういう事ですか?元老院火の長老エルフォイアー……貴方に与えた役目は他種族との交流…………」



「くははははは!そんな世迷言私たちが本気でやるとでも?今の元老院の目的はこの神殿の制御を止めることだ!」



 質問された火の長老は、そう言いつつ高笑いすると何やら黒いオーブを出す。



「そ……それは此処のベンヌの卵………蘇りのオーブ?」



「ええその通り!元老院として迷惑なんですよ。交流会も他種族救済もベンヌの蘇りも!!」



「な!?エルフォイアー正気ですか?エルフは精霊の加護を必要としているのに……交流し多種族を助けなき我々には精霊の加護など貰えません!」



「精霊加護など糞食らえだ!我々は漸く辿り着いたのです………不老と再生……ようやくこのオーブで駒が揃う!」



「な!?という事は僕をどうにかする為に此処に来たのではなく……ベンヌを?」



「そもそもこのベンヌ神殿に試練でもなく入る方法は、今回のような事以外には他にない。でもお前が来てくれたおかげで漸く上手く入り込むことができました!」



 そういうと火の長老エルフォイアーは姿を眩ませる。



 元から僕などどうでも良かったのだろう………目的はベンヌ達の棲家に入り込むための嘘………


 それを信じてしまったスゥの母はまんまと罠に嵌ったようだ。



「く………私としたことが……先代様に申し訳が………」



「取り返してきますから平気です!あんな奴を野放しはできませんから。まぁ………生きて連れてはきませんけど……」



「構いません!本来火の長老は生きとし生けるものに幸を与える役割なのです……それを自分だけ得ようなど………」



 僕は消えかかっているスゥの母に簡潔にスゥの救済方法を話す。



「では……これをお持ちください。コレは精霊核の素核の半分。貴方が既に持つ物と対になるものです」



「ところでさっきのオーブですが………持ち帰れば全員元に?」



「はい……あれはベンヌの卵と呼ばれるオーブです。あれがあるおかげでベンヌの役目を果たすが為に夜明けと共に我々は生き返る」



 僕はすぐにチャタラーに念話を送る………『火の長老を八つ裂きにしてオーブを持ち帰れと』



「大丈夫です……今仲間に念話を送りました………やり方は悪魔らしくなりますが、明日の夜明けまでには取り返しますから」



「エルルスが精霊核の素核を渡した理由がよくわかるわ………貴方は人とエルフを繋ぐ者………お願い…………します…………」



 そう言ってベンヌは目をつぶって一羽のベンヌになる。



 名前の由来はこの鳥なのだろう……エジプト神話に出るベンヌ……別名火の鳥である。


 太陽エルフは火と太陽に密接に関係があるのだろう。


 王はフェニックスで、王妃はベンヌ……物は違えど同じ意味なのだ……



 僕は横たわるベンヌをその場に残し神殿を後にする。



「おい………ヒロ。チャタラーのやつがスゥを見てろって………」



「実は…………」



 僕は起きた事をボーに説明をする。


 元老院の長老がいて、狙いは僕ではなくベンヌであった事、そして何かの企みを持ってベンヌ神殿へ来たということを。



「なら今ならベンヌ神殿で蘇生させてても誰も来ないって事だよな?」



「…………た………確かに!」



 僕はボーの言う通りよく考えてみる。



 敵は用事を済ませて逃げたし、その居場所はチャタラーが追いかけた………


 ベンヌ達は宝寿が無くなったため、眠りの最中であり敵対する者は居ない。



「確かに今しかこんなチャンスは無い。神殿に行って精霊核を作りましょう!」



 僕はボーにそういうと、ちょうどモアとユキが一仕事終えて戻ってきた。



 ◆◇



「貴方って本当に出鱈目よね………」



「仕方ないだろう?今しかこの神殿を自由には使えない」



 外でやるには危険が多いが、此処の神殿内部であれば敵の気配は感知しやすい。



 チャタラーと落ち合うにも、この場所なら手っ取り早いのは言うまでもない。


 擬似核のスペシャリストチャタラーがいない為、もう一人のスペシャリストに頼むしか無いが精霊核を扱う為、念の為にアンバーにもきてもらう必要がある。


 カサンドラとアンバーにアイコンタクトを送ってから準備を始め、僕はボーとユキが寄り添うスゥに手を寄せる。


 そして左手にフェニックスの素核そして右手にベンヌの素核を持ち、核の融合を試みる。



 予めチャタラーから預かっておいたホムンクルス核に混ぜ合わせた素核を入れ、アンバーの力で穢れた精霊核にした後、穢れ部分を僕とモアが吸収する。


 それが僕に考えた精霊核の製造案だ。



「な!?こ………これは?」


「それは力の分配だな………」


 そう言ったボーは『おそらくフェニックスの力とベンヌの力の融合時にお前を主人と認めた素核がおいて行ったんだろう』と言う。


 僕が処理した素核は当然他のフェニックスキング達が行う儀式だった。


 それを行えば、スキルが生成されてもおかしくは無い。



 そしてその素核をホムンクルス擬似核に収めて穢れた精霊核にしたあとスゥに入れたのだが、スゥは精霊核を手に入れてもスキル達の主人とは認められない。


 その為、スキルが入った穢れた精霊核が別個に仕上がり、二つに分かれたのだと言う。



 僕の中には2つの核ソケットがあるが、悪魔核と魔王核は虚無化した時点で融合してしまっているために、一つ空きができたようなのだ。


 困ったことにそこに穢れた精霊核がスッポリ収まってしまった。


 スゥはといえば、当初の目論見通り精霊核が収まり正常に作動していた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る