第1177話「フェニックス神殿と巧みな罠」


 僕は炎の壁に近ず寄らないように通路の中央を進む……


 炎はうねりながら形を変えるが僕へ襲いかかることは無い……僕はそう確信して道の果てにあるフェニックスの神殿に歩を進める。



 どれ位歩いただろうか……曲がりくねる通路を進み、漸く神殿の入る口が見える橋までくることが出来た。



道は長く非常に危険であったと感じたが、ふと振り返ると歩んだ道の半分ほどしか距離がない……



 そこで僕は道の真ん中に鑑定をかける……


 

 『幻影の壁……この場所を通る者は幻に気づかず左右に往復を繰り返す。往復する際レジストに成功し場合のみ通路を前に進める』



「くそ……真ん中に幻影かよ!してやられた……心理効果を巧みに使った罠か!」



 僕は独り言を言う……


 左右の炎は実在し、真ん中には魔法がかけてある……

 

 当然炎の熱や脅威を避けるためには真ん中を選ぶだろう。


 通路両端から立ち昇る炎が幻影の炎でないからには、誰しもがそうするに決まっている。



 そんな心理を逆手に取った罠だった。


 もし真ん中に落とし穴でもあったならば……間違いなくかかっていた事に僕は焦り恐怖する。


 

 『殺意がない罠だけに助かったけど……冗談じゃないな………』と、僕はそう思いつつ、フェニックス宮殿の入り口に前に立つ。


 漸く念願であるフェニックス神殿に着いたのだった。

 

 僕は注意深くフェニックス神殿の中に入る……


『元老院の長老でさえ近寄らぬ場所に悪魔とはな……ここまで来たからにはこの国の命運も潰えたか……』



 神殿の中央でそう語りかけられた僕は咄嗟に『スゥ』の事を話した。



「知り合いのエルフの娘さんが元老院の悪事で精霊核を破壊してしまいました……ここにくれば精霊核の半分が手に入ると聞いたので……」



『元老院の手によってと言ったな……精霊核が?………と言う事は精霊核が破壊された主の知り合いの相手はスゥという事だな?』



「スゥをご存知なのですか?」



『よもや………父の想像を遥かに上回る娘だ……悪魔の使いを寄越すとは……』



 僕はそう言ったフェニックスキングに一連の事情を話す。


 スゥと出会った頃から旅をした理由。


 彼女の志と別れた理由、そして僕の悪魔化の理由を掻い摘んで話し、再開した場所とその時の状況。


 面被り達の悲劇に元老院の存在価値が皆無になっている事。



 そしてスゥが死んだ事と、都の中まで連れてきている事を……



『そう語りかけられたならばお前が悪魔とて言葉を信じてしまうな……悪魔は所詮悪魔……』



 そう言ったスゥの父は『もし本当にその言葉が真実であれば我を倒し精霊核を持ち帰り助けてくれると祈っておる!』と言って武器を構える。



『参るぞ!』



「た……戦わずして済む方法は………」



『無い!我が力が込められた精霊核を渡すには我より強い後継者に出会わねばならん!それが悪魔とて我等が国を救うハグレ悪魔なら……一考の余地はある!』



「悪魔に国を任せたらおかしいでしょう!?ここは由緒正しき太陽エルフの首都エルフィーナでしょう?人間か悪魔かも分からない僕はダメに決まってます」



『そんなことが心配か?ならば己がスゥの夫になればよし!剣を抜け小僧!!』



 そう言って国王は剣を大振りに振るう。


 大剣を振るうその様は素晴らしいの一言だ。



 フェニックスキングの斬り掛かった動作は次の動作につながり、僕には斬りかかるチャンスがあっても有効に活かせない。



 迂闊に手を出せばやられるのは自分だとわかってしまう。



 本来大剣を扱う者の場合、相手のチャンスを窺わねば振るうことさえ叶わない筈なのに……だ。



「くそ………あれが噂のエルフに伝わる剣技か……」



『そうだとも!これがスローンの技、どんな大きな大剣とて相手の攻撃より先に振るう事が可能なる<閃光の間合い>なり!』



「なんとかしないと時間ばかり……あの間合いを潰せれば………」



 僕はスゥに父親の剣戟を見ていてとある事に気がついた……特殊な呼吸を使っている癖なのか一定のリズムで動いているのだ。


 昔エルオリアスにも習ったそのリズムは当時は難しかった。



 しかし、さまざまな経験が僕を強くしたのか、そのステップや剣の軌道が少しは読める様になった様だ。



 僕はあえてそのリズムと同じようにステップを踏み、剣を繰り出してみる……



『ぬ!?……お主何処でその剣技を?………』




「あなたの特殊なステップには穴があります。『単調なリズムと呼吸』による斬り返しです……。それに月エルフ族のエルオリアスに習った事がありましてね!今それが役に立ちました」



『ギィキィィィン!!』



 僕は試しに相手の剣戟より強い力で鍔迫り合いをすると、悪魔の力関係で優っている僕はあっという間にその優位性を奪い取る。



 瞬歩で撹乱しつつ相手の背後に回り、一閃を放ち首筋に剣の切っ先を当てる……当然『勝負あった!』と言っても過言では無い。

 

 相手が本気で無い試練だったにせよ、勝ちは勝ちである。



「これは試練というより………」



『何故か知らんが……悪魔相手に第44代フェニックスキングのエルルスは親心を出している様だな……』



 突然化現したもう一人のフェニックスキングはそう言うと、『理由があるにせよお前はこの太陽エルフ族の名前に泥を塗った。わかっておるのか?』と激怒する。


 いつの間にやら、周囲の彫像から歴代の王達が姿を表していた様だ。



『悪魔相手に何をしておるか!エルルス……自分が如何に愚かかわかっての事か?』



『初代フェニックスキング・エルリヒト様………おいででしたか……エルーメン様……申し訳ありません。馬鹿な親心で御座います………』




 スゥの父親がそういうと、周りから更に続々と先代のフェニックスキング達が現れる。



 装いが同じなので分身でもしているかのように思えるが、どうやら間違いなく歴代のフェニックスキング達の様である。


 何故なら手に持つ武器が違うからだ。



 しかし今はそんな事を気にしている場合では無い。


 フェニックスキング達の注目は、スゥの父親であるエルルスに向いている。



 その会話の殆どは『手を抜いた試練』についてであり、精霊核を渡す為の茶番だと言う。



 奴等はこの神殿とやらで踏ん反り返り、威厳を盾に何もしない厄介者だ。


 スゥはこの国を救う為に命をかけた……そして元老院の罠に嵌り大変な状況なのだ。



 

 自分達が持つ精霊核とスキル問題が気になるなら、エルルス以外の他のフェニックスキング達は僕やスゥなど相手などせねばいい。



 この国なんか正直個人的には滅びようがどうなろうが興味はない。


 身分や生まれた貴族の名前が関係するなら、人間の抱えるどうしようもない問題と同じなのだから……



 だからこそ彼等の言い分には怒りで口が開いてしまう……



「馬鹿を言うな!!フェニックスキングども……国も救わず何もしない輩が後から出てきて文句を垂れるな!!傲慢にも程ががある!だからエルフ達は滅亡の道しか進めてない。全て貴様等、歴代の王の責任だ!」



 僕は『馬鹿な親心』と言う言葉でつい堪忍袋の尾が切れてしまった………

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