第1176話「フェニックス神殿と試練の扉」
『アンバー聞こえる?悪いけどこっちに至急来て欲しいんだ』
僕は小さく作った黒穴に向けて念話を投げかける
相手はアンバーアイズ事アンバークイーンだ。
『相手が面被りである以上無益な戦いは避けられる』と言う判断からの妙案である。
「主様何か問題でも?」
「実は待ち伏せにあったんだけど、相手が面被りだからアンバーにお願いした方が早いと思ったんだ」
僕はそう言って、黒い蔦に絡め取られている面被り達を指差す……
「成程。ならば金面のエルメーディアも呼んだ方が話が早そうですね」
そう言ってアンバーは黒穴を作りエルメーディアを呼び出す……
「アンバーにエルメーディア……此処は君達任せる」
僕はそう言った後にある指示を付け足しておく。
「彼等を仲間に加えた後、膠着状態の現場を挟み撃ちする形にしてくれるかな?そしたら霊廟まで捕縛したエルフ戦士団を連れて行ってくれるかい?」
そう話すと、僕は『事情は後で話すけど少し状況が変わったんだ!エルフ戦士団とこの王都民衆は僕らの側につくはずだから!』と、簡潔に指示を出す。
現時点でユキの僕のスレイブ達は彼等を守りつつ、日の当たらない霊廟でヴァンパイアとしての生き方のノウハウを教えているはずだ。
その彼等から元老院が起こした問題を聞きつければ、戦士団や現状街にいる市民達は敵にはならないはずだ。
少なくとも離反者が出て現場が混乱すればするほど、僕達の目的は果たしやすい。
「分かりました!では此処はエルメーディアと共に我が主人の為に面被り達を回復措置させましょう!」
「エルメーディア……説得と協力を頼みます!」
「はい!このエルメーディア、両主人様の為にも命にかえましても成功させて見せましょう!精霊女王様!」
そんなやり取りを素早く終わらせると、僕達はフェニックス神殿までの石階段を一気に駆け上がる。
◆◇
到着した場所は神殿から少し離れた場所にある巨大な門だった。
エルフレアが扉に手をかけると『ガチャリ』と『解錠』されたような音があたるに響く。
しかし2枚扉なのか、巨大門の内側にはエルフ文字がビッシリ描かれた門がある。
太陽神殿ともあり仕掛けが多いのか、エルフレアが開けたことがキッカケになりみるみるうちに炎が吹き上がり、本来の姿を取り戻すフェニックス・ゲート……
エルフレアの説明では、『閉ざされた門の開閉』には最低でも『騎士団長』の力がいるそうだが、エルフレア自身がその騎士団長であるそうなので問題はないようだ。
今はスゥの両親により親衛隊隊長の任務を受けているので、そもそも人口が少ないエルフ族では兼務しているとの事だった。
「漸く神殿の前に……これでスゥ様が!!」
「エルフレアまだ門の前に着いただけだ!いいかヒロ……此処からが正念場だ……俺等がエルフの姫さんを死守するだから精霊核を得てくる役目はお前がやるんだ」
「分かってるよ!ボーさんでも行く前に下準備を………」
僕はそう言ってからすぐに連絡用の黒穴を用意する。
「チャタラー聞こえる?今からスゥ救出作戦に移る。核絡みの問題だからチャタラーとカサンドラには来てもらいたいんだけど?」
そういうと、門の前まで直通の黒穴を作りチャタラーが来れるようにする。
「寄り道がなげぇよ……皆殺しにして進めば早いんだ!!」
「まぁチャタラーそれができないのが心優しい我が子なの!とりあえず早く精霊核かっぱらって来なさい。精霊核移植ならお母さんだけでどうにでもできちゃうのよ!?チャタラーが居なくても!!」
チャタラーは現れた瞬間文句から始まり、カサンドラは親バカ感を120%で表現する。
どうやら知らぬ間に使い魔を忍ばされていたようだ。
しかし文句は言えない……おそらく危険を察知したら否応無く参加してくる気だったのだろう。
そして、そもそもスゥの回復措置において、このベストパートナーが必要不可欠だ。
失った体力面でポーションエキスパートのチャタラーに、擬似核のスペシャリストのカサンドラ……
そして蘇生経験を持った僕が最低限必要だ。
「じゃあ……スゥの事を頼むね?モア……精霊核はなんとしてでも手に入れる……だから核を戻す為の肉体は絶対死守で!」
「大丈夫よ!私だけじゃなく、私なんかより遥かに強いボーもユキも居てるくれる。それに回復と擬似核の専門家が追加でいるんだもの!失敗なんかしないわ!」
「じゃあ行ってくる!!」
僕はそう言うと、フェニックス神殿へ続く巨大門に手をかける。
『ゴゥ……ジュワァァァ!!』
手をかけると当然エルフでない僕は、全身が一瞬で燃え上がる。
何故なら悪しきものを排除する為のエルフ文字の『悪魔種排除の魔法文字』がびっしりと書かれているからだ。
本来ならばこの国の王フェニックスキングになる者は『炎耐性』や『火炎無効』もしくは『炎熱耐性』を持っていると言うが、僕の場合はそれを持っていても意味がないようだ。
エルフ文字の『邪悪なる者』を遠ざける効果に焼かれているからなのだ。
この情報はエルフレアが読んでくれたもので、既に試練の第一歩だと言う。
「く……超速再生を繰り返してもダメージがすごいな………」
「ヒロ殿!!………」
「くるな!!エルフレア……此処から既に試練だろ?これ位は覚悟してたさ!……」
エルフレアは僕に『これが試練?』と疑問を投げかけるが、現状僕の頭の中には『力を示せ!門を開け、試練の間へ進むが良い』と念話が連呼されている。
心配するエルフレアに説明をしたいが、一瞬でも気を抜くと炎症速度が再生速度を上回り、ホムンクルス核が破壊され絶命するだろう。
やり直すのに悪魔として復活した後になる
数百年先では話にならない……今日此処で成功させる必要が120%必要なのだ。
「ゴ………ゴゴゴゴ」
半分まで炎吹き荒れる内扉を開けると、今まで燃えていた炎がピッタリと収まるが、代わりに扉棒の重さが倍くらいになった。
『次の試練なり……弛まぬ志を示すがいい……道はそれで示される……』と念話が僕の頭の中に訴えかける……
僕は『次のやっぱり試練か……なかなか面倒な事になった』と思ってしまう。
『エルフでなくとも受けられる仕組みは如何なる物か……』とも思いつつ腕に力を込める。
正直、悪魔の力を使えば苦もなく開けられるのだが、場所が場所だけに僕自身に何が起きるかわからない。
ホムンクルスの力のみに頼るが、構成素材にした魔物部位が上質な事もあろ純粋な力もなかなかだった。
「開いたな!あとは神殿の中に向かうだけだろうが………俺達は念の為此処で待機しているぞ?余計な事に首を突っ込まず早く帰ってこい」
「分かってるよチャタラー……。僕の悪い癖は出さずにすぐに帰ってくる!スゥの身体にもしもの事があってからじゃ遅いし!」
僕はそう言って奥に進む決意を見せる。
エルフレアと僕が開いた二重構造の扉を抜けて、先へ進むとそこからは炎の壁が両端に聳え立つ危険な空間となっていた。
両端から狭まってくるような罠は無い。
あくまでフェニックスが生まれる地という表現なのかもしれない。
しかしその表現であれば幻術か何かでやってほしい物だ。
巨大な炎に虫が寄ると、あっという間に翅に火がつき翅諸共燃え尽きるので幻影でない事は確実なようだ。
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