第947話「戦闘開始!2次職冒険者の実力と戦闘技」


 僕は魔法の準備をするも、射撃系魔法の射線上にマーオとフロップが入り込み、魔物のカバーになってしまう。



「マーオ!いいか……」



「ああ!フロップお前は盾がない……ヤツの出す溶解液に気をつけろ!」



「「うおぉぉぉぉぉ!!」」



 鋭く薙ぎ払ったフロップのポールアックスは、ダンジョンでは不向きな筈だ。


 しかしフロップは、戦士系の上位職であるアクスラーだ。


 その巧みな武器捌きは見事なもので、地上に比べて上下左右の有効範囲が狭いにも関わらず、うっかり獲物を壁や天井にぶつける様な真似はしない。



『ズバン!!』



『キシュゥ!!クルルル……チュミミ……チュミーン』



 戦斧の動きを感じ取ったデスカルゴは触覚を引っ込めて、フロップの攻撃を交わしたかの様にみえた。


 しかしフロップの作戦は、一振りでその触覚を斬り落とそうとは考えていなかった……



 フロップは言葉とは裏腹に、計算高く一振り目を遠心力の強化に使ったのだ。


 その斧はフルスイングの勢いに回転力を加えた事で更に威力を増し、より深く踏み込んだ事で触覚では無くデスカルゴの頭部を見事に切断した。



 殻の人面瘡は苦悶の表情を浮かべているが、軟体部を斬られても絶命しないので、体躯の大小に関わらず相変わらずふざけた生態のようだ。



 しかし今度は、レスティの射掛けた矢が人の顔をした殻に撃ち込まれた。


 その数本が眼球に突き刺さると、デスカルゴはのたうちまわる……どうやら何か仕掛けのある特殊矢の様だ。



『グイィィ!?……ギエェェ!!』



 切断された軟体動物の様な体躯をくねらせて、気色悪くビチビチと痙攣すると急に『ぐでぇっ』としたデスカルゴのステータスゲージには『猛毒矢・死亡』の文字が浮かぶ……



「どうだ!デスカルゴ……このフロップの攻撃を受けた感想は!!」



 どうやらフロップは自分の手柄と勘違いしている様だが、功労者は猛毒の矢を放ったレスティだ。


 それに感想と言われても、もはや死んでいる……しかし今は、そんな事を言っている場合では無い。



 僕がフロップ達に追い付いた頃には、通路の曲がり角には新手が来ていたからだ……



『チュミーン……』



『クルクル……チュミミ』



 その禍々しい体躯に似合わず、気持ち悪い鳴き声をあげる新手のデスカルゴは通路に二匹も連なっている……



「ベルフ馬鹿なこと言ってないで!!次が来るよ」



「上の9階層に居るスワンプ・タートルと同じ数のデスカルゴなんぞ……冗談じゃねぇ……」



「ベルフさんにレスティさん……残念ながら、敵はデスカルゴだけじゃない様です」



 僕がそう言ったのには、しっかりとした理由がある。



 僕の感知にはデスカルゴの後ろに隠れる、小さい敵性反応が出ているからだ。


 デスカルゴの大型敵性反応と違い、大きさからして情報を貰っていたノール系の魔物だろう。



「何だと!?くそ……ノールまで来やがったか。レスティ階段の部屋に戻ってノールから仕留めよう!デスカルゴは大きさ的に部屋には入れねぇ!」



「マーオにフロップ!アンタ達が殿だ。アンタ達が大好きなアタイの妹のメスティのケツに、あのハイエナ野郎共が噛みつかない様にしっかり牽制頼むよ!!」



「「任せときな!」」



 二人はそう声を揃えていうが、僕はこんな場所でのんびりと過ごす暇はない……



 動きが鈍いデスカルゴが細い通路に二匹もいるせいで、巨大な体躯が邪魔をしてノールは前衛まで来れない。


 戦略で言えば、疲弊した冒険者にトドメのノールなのだろう……



 相手が近接オンリーの冒険者だけであれば、レベル次第では誰かを瀕死くらいには出来ただろう……相手が魔導師でなければだ。



『ウォーター・バレット!!』



『グギィィ!?』



『ギエェェ!?』



 殿準備をしているマーオとフロップには申し訳ないが、通行の妨げになっている巨大な人面マイマイを手早く処理をする。



 既に3メートルサイズのデスカルゴと対峙した後だ……


 気持ち悪い人面瘡の殻持ちカタツムリが、若干小さくなったくらいにしか感じない。



 デスカルゴの人面瘡の様な殻を狙い、確実に破壊する。


 中には間違い無く重要器官が詰まっている……破裂する魔法はその器官を破壊するにはもってこいだ。



「な!?……一撃!?」



「ま……魔法!?だと?」



「「坊主……お前……魔導師だったのか!」」



 どれだけ仲良しなのだろう……セリフが丸かぶりだ。



「得意なのは魔法ですね……。あと帝都の魔導師ギルドで取得したので、国営ギルドには所属してます……」



「アンタ……その腕からして銅級資格じゃ無いだろう!?若い坊やだと思ったのに……。って!ちょっと……メスティまだノールが!!」



 レスティが話している最中なのに、メスティという少女が僕に駆け寄ってくる……


 しかし悲しい事に、興味があるのは僕では無く『デスカルゴの遺骸』の方だった。



 彼女は『素材剥ぎ取りしないと……大型種はすぐに消えちゃうわ!』と言いつつ、大ぶりのナイフを背負い鞄から取り出している……


 そして更に一言付け加えた……



「レスティお姉ちゃん……それにもう問題は無い筈よ?後ろのノールはデスカルゴが倒れた時に、間違いなく下敷きだもの……」



 メスティは戦闘感があるのか、はたまた状況把握がずば抜けているのか……僕が狙っていた事を言い当てる。



「マーオさんにレスティさん、今なら楽にノールは始末できます。近接担当さんはトドメをお願いしますね?」



「「「……………」」」



 メスティ達は冷ややかな目で僕を見るが、そもそもこの中層域の魔物レベルは最大で20だという話だ。


 そして10層であるこの階層では、そのレベルに達する魔物などいない。



 結果からすると、レベル差があり過ぎて僕の敵では無い……そういう事だ。



 低レベルの敵が僕を殺すには、各種耐性を掻い潜り唯一ダメージが期待出来る特殊スキルの『毒か猛毒』を用いなければならない。


 それを持たないデスカルゴの個体であれば、大量の溶解液に僕を沈めなければ倒すことは出来ない。



 それも回復無しという条件付きだ。



 今デスカルゴに押し潰されて動けないノール系であれば、僕を囲み続ける為に数百匹の大群が必要だろう。



「マーオにフロップ!ノールを早く始末してくれないかしら?そっちの殻の部分を採取したいから……」



「お……おう……メスティは相変わらずブレないな……」



 フロップは『マーオ……そっちの三匹を頼むぜ』と仲間に指示をして、近くにいるノールにトドメを刺す。



 僕はそれを横目で見つつ、気色の悪いデスカルゴの体躯によじ登り反対側へ降りる。


 二匹を同時に倒したせいで、通路を塞ぐ形になったのだ。



 しかし結果オーライだ。


 レスティ達は素材の剥ぎ取りに忙しい様で、コッソリ逃げるには丁度いい……



 僕はレスティ達をその場に残して先を急ぐ。


 マジッククロークから魔法の地図を取り出し、階層のチェックをする。



 2ブロック先には安全部屋、そしてその向いには転送陣がある……



 今はその場所へ急ぎ、転送陣を起動して『ロープ』を買ってこなければならない。


 また同じトラップが無いとは言いきれないからだ。



 運がいいのはこの階層の通路にはトラップが無いという事だ。


 既に起動している形跡があり、先行組が解除しているか罠を作動させた証拠だ。

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