第946話「選ぶべき道と踏み外す奴」


 相手の説明では六人のパーティーだが、どう見ても一人足らない……


 僕が気が付かずに、使用順序を無視して階段を降りた可能性がある。



「すいません……もしかしたら僕が階段の順序を無視したかも……」



「ああ……違う違う。実は……何度注意しても言う事聞かない仲間がいてね……。奴はロープを身体に巻かずに降りたもんで、そのまま暗闇に真っ逆さまって事なんだよね!」



「それって……滅茶苦茶大変なことになってるじゃないですか!?」



 僕がそういうと、彼等は『でもね……仕方が無いんだ。言っても聞かない奴は、どっかで死ぬ運命さ……それが偶々罠付きの階段だったってだけの話さ!』とレスティは冷たくあしらう。



 どうやら落下したのは、彼女達のパーティーに最近新人として登録をした冒険者のようだ。


 その新人は問題児で、協調性に欠けるせいで仲間のウケも良くない。



 そのせいでレスティの愚痴も止まらない。



「レスティの言う通り態度はデカいしチームワークも乱す。その上財宝には人一倍執着しててな……それがまさかのこのグループの新人だぜ?正直迷惑してたんだ」



「ベルフ……よく考えるとアンタ以上の問題児は奴が初めてだったよ!あのブーチって奴は過去イチ酷かった……どっかのパーティーの前リーダーだって話だったけど……」



 そう頷いたレスティは『中層リーダーを俺にやらせろ!って言うから任せたのに。指示も何もしないうちに階段から真っ逆さまって!!危うくアタイ達も巻き添え食らうところだったよ……初見階層だったらそれを先に言えよ!素人が!!』と頭を抱えながら愚痴を言う。



 そしてレスティは『ギルマスにどう連絡したもんだか。冒険者として未熟で、中層パーティーに誘うのはまだ早いから辞めろって言われてたんだけど……』と泣き言を言い始めた……



 仲間を助けに行かないのか心配して聞いてみると、『お前達が落ちても俺は助けに行かない!労力の無駄だ』と階下へ落ちた仮のリーダーは言い切ったそうだ……完全にフラグにしか思えない……


 そんな奴がリーダーであった前パーティーは、魔物に襲われ崩壊していたらしい。


 彼はそこから一人だけ逃げ帰った事になる……


 その件には色々後ろ暗い事がありそうだが、当人が居ないのではそもそも話にもならない。



「階段真下の暗闇って……何処へ続いてるんですかね?」



「魔物や財宝が関わらないこの手の罠は、行き先は間違いなく最下層だ」



「ベルフの言う通りだね……大概ダンジョン最下層で見かける単独遺体の多くは、そういった馬鹿な死に方が原因さ……」



「なら早く遺体の回収しないと!あまり間を置くと、穢れが原因でアンデットになってしまうんじゃないですか?」



 僕がそう言うとベルフは……『残念だが無理だな。最下層に現時点で誰かがいれば回収は出来る。だがこのダンジョンを踏破出来る冒険者が、ここの街には居ないんだよ』と言った。


 5階層から10層程度のダンジョンであれば数日かけて最下層へ行く事ができても、20層を越えるダンジョンは銀級冒険者でもそう簡単に踏破できないと言う。



「アンガさん達でも……ですか?」



「アンガ?」



「ああ……すいません。ダイバーズって言えば分かりますか?」



「ああ!ダイバーズか!!……流石のダイバーズでも15層が深度記録だからな。昨日までの深度記録は帝国騎士団の17層だった筈だ」



「騎士団のアレは例外だろう!?アタイはぜーったいに認めないよ?だってさ……ポーションも回復薬も傷薬も使い放題で、戦うメンバーだって総取っ替え出来んのはズルだろう!?」



 騎士団の物量作戦に異を唱えたのはレスティだ。


 しかしその言葉がきっかけになったのか、レスティは僕へある提案を持ちかけた……



「なぁアンタ……どうせならこの先の休息が出来る部屋まで一緒しないか?アタイ達はこの階層が2回目でさ……ちょっと人手が欲しいって思ってたんだけど……」



 レスティはそう言うと、『これから来るアンタ達のパーティーが居れば、この階層は楽勝だと思うんだよね!』と言い加える……



 しかし残念ながら僕は『パーティー』は組んでいない……だからその要望には答えられそうに無い。



「すいません……僕はちょっとした用事で地上に行ってただけなんで、此処で幾ら待ってても誰も来ません。皆先に行ってますから」



 僕は彼等にそう嘘をつく……


 そして言葉をそれ以上交わさずに、部屋を後にしようと試みた。



 しかし初対面にも関わらず、彼等は親身に僕の心配をしているようだ……


 現にレスティは、階段があるこの部屋を出る事を猛烈に反対する。



「ちょ………ちょっと!!待ちな。どこ行く気だい?あんた……この階層には、あの大型魔物のデスカルゴが棲息してんだ」



「レスティの言う通りだぞ?最低でも奴等は1メートルサイズの大物で、稀に2メートルにもなるらしいんだ。単独なら迂闊に歩き回るんじゃ無ねぇよ」



「そうだぞ坊主!それに敵はデスカルゴだけじゃねぇ……ノール・ウォーリアーに特殊装備のノール・ハルバーディアとノール・アクスラーまで居るんだ!」



 レスティの続き、マーオと名乗ったタンクの上位ジョブ持ちと、ベルフがそう忠告する……


 その言葉を聞くも、僕には引き返す選択肢はない。



 それに、他のパーティーがこの階層に来るまで此処で待つ気もさらさら無い。



「そのくらいならソロでも勝てますから………前後囲まれなければ何とかなります」



 この部屋が始点であり、出口は細めの通路へ通じている……挟み撃ちの心配がない事を言葉で伝える。



 メスティとベルフの判断を仰ぐ前に、そそくさと僕は部屋を出る。



「ああ!くそ……コイツもあの分からずやブーチと同じ『聞かない奴』かよ!!……」



「レスティ……悩んでる暇はねぇ……デスカルゴのお出ましだ!!放っておくには寝覚が悪いぜ」



 部屋から出ようとしていた僕の目にも、ベルフの言う魔物が映る。



 階層階段部屋から続く直線通路の先に、1メートル級のデスカルゴを発見した。



「ああもう!!行くよ。アンタ達……マーオとフロップは前衛、厄介者ブーチが居ない以上フロップは壁役もね。メスティは回復準備、ベルフは弓で応戦!」



 部屋から出る直前の僕の耳にもその指示が聞こえる。


 エクシアの様な的確な指示が飛ぶ……戦闘センスがある様で、指示に迷いが無い。


 レスティという女性冒険者は、根っこがエクシアと同じなのだろう。



「おい坊主!俺の後ろに隠れろ……敵を見ればあの魔物のヤバさがよく分かる筈だ!」



「マーオ盾は頼んだぞ!俺は初撃で奴の触覚を斬り落とす。坊主!助けてやるんだ……生きて帰れたら酒を奢れよ?」



 そう言って彼等は、武器を構えて部屋から飛び出していく……



 直線上の通路は上の階層と違い木製の壁で、水分を多く含み所々に水苔が生えている。


 不思議な事に、此処の階層の壁面は降りて来た階段とは異なり、何処も朽ちている様子は見られない。



 直線通路は長さにして、約75メートル程度といったところだろう……


 途中に部屋へ繋がる入り口が無い為、デスカルゴに直線状の攻撃をされると逃げ込む先は無い。



 しかしダンジョン通路がこの作りである以上、デスカルゴの攻撃は直線型の攻撃である可能性と、スワンプ・タートルの様な進路妨害を目的とした配置なのかもしれない……



 『地下10階層のデスカルゴから攻撃を喰らわずに倒すには、高威力の魔法しかない』


 僕はそう思いつつ、魔法を放つ準備をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る