第945話「探索・地下10階層で出会った冒険者」


「ロナ・ウルグスの役目は、そもそも北の魔物達への対応で造られた物だからな……。役目を果たす日が来たって事だな!」



「俺は身の丈に合わない戦いには、参戦したくねぇけどな!ガハハハハハ!」



「一度は戦争も落ち着いたんだけどな。今度は巨大なアリゲーターか……」



 そんな話を聞いていると、耳を疑う言葉が出てきた……



「そう言えば……帝国貴族の一部の奴は、政敵をロナ・ウルグスに送って主権を乗っ取ろうとしているって話だけど……」



「チラホラ聞く話だな……でも最近俺が聞いたのは、帝国魔導師協会の黒い噂だな……」



「黒い噂?なんだよそれ?」



「鬼蜘蛛のゴッパと同じ事だよ!貴族の特権を使って目の上のタンコブを、全部あのロナ・ウルグス送りにしてるって聞いたぜ?」



「そう言えば……帝国魔導師協会で思い出した!帝都に行ったら、太鼓持ちのルッティ特務魔導博士とクロース主任魔導博士には気をつけて……特に彼等の上司はヤバいわ」



 問題児二人の名が出たが、もっと早くその名前を聞いておきたかった。


 だがその問題は間違い無く排除される筈だ……『その心配はもう無い』と伝えようとしたその時だった……


 話をしていた女性冒険者が、想定外の黒幕の話をし始めた……



「彼等は太鼓持ちで嫌な奴だけど……本当にヤバいのは彼等の親分よ!」



「何だよ親分って……ゴッパみたいな奴が魔導師協会にまでいるのか?」



「ええ!……ゴッパなんか目じゃ無いわ……。やたら鼻が効く上にマジックアイテムを駆使して、巧みに罪をでっちあげるから最悪よ!」



 その情報を聞いた僕は身を乗り出して名前を聞き出す。


 何故なら、既に僕はその問題児に面識を持ってしまっている。



 濡れ衣を被せるなら、一介の冒険者である僕で間違いない筈だ。



「あまり名前は出したく無いんだけど。ヒロさんにはスワンプ・タートルの甲羅片でお世話になったから……特別よ?私が言ったって絶対に言わないでよ?」



 そう言った彼女はその名前を教えてくれた……その名前は『シリカ』といい女性の宮廷魔導師だと言う。


 権力渦巻く宮廷関連の魔導師様だ。



 魔導師協会と因縁を持つドネガン公爵と繋がりを持つ僕としては、問題しか見えてこない……



「それで……ヒロさんは何層まで降りるんだ?」



「ひとまずは13層に……その後は15層まで行こうかと………」



「「「「ひとまず13層!?」」」」



「無理だ……そんなの……俺達はこの階層でいっぱいいっぱいだぞ?」



「ゴズ!お前何ついて行く気になってんだよ!?そもそもお前此処の奴等に寄生してパワレベしてんじゃねぇか!!下行ったら瀕死じゃねぇ……即死だぞ?」



「メズ!お前に言われたくねぇよ……。ヒロさんの真後ろで経験値吸ってたくせによ………」



 僕は彼等の名前を聞いて……『そのうち獄卒にでもなりそうだなぁ』と思いニヤっとしてしまう……



「何ニヤついてるんですか?」



「いや……お二人なら良いパートナーになれるんじゃ無いかなぁと……名前からして……」



「名前?」



「牛頭馬頭っていう魔物がいるんです。二匹セットで名前が語られる有名な奴です……牛頭鬼や馬頭鬼とも言うんですよ……」



「「牛頭鬼………馬頭鬼………」」



 僕の言葉を聞いた途端、二人は何故か男同士で見つめ合う……


 危ない世界の扉が開いてない事を祈るしか無いだろう。



「まぁ獄卒にならない様に気を付けてください……獄卒には問題児しかいませんから……」



 僕はそう言いながら、食べた食器をウォーターの魔法で洗う……



 周囲の冒険者は『獄卒に問題児が多い』の発言に若干引き気味だ。


 しかし僕は意志を伝えなければならない……彼等は絶対に僕のスピードにはついて来られない……



「じゃあ……僕はこの先の階段で下に降りますから……」



 僕は下層に、そのように降りる意思表示をする……


 その言葉には『下層に行くのに、貴方達のお供は要らない』と言う意味があるが、その言葉は必要なかった様だ……



「「「「お世話になりました!!」」」」



 お礼の言葉はハッキリとした口調で、彼等の口から放たれた……


 後ろをただついて来たと思われた冒険者達は、巧みに立ち位置を交代して経験値がもらえる範囲で寄生していた様だ。



 僕には冒険者としての常識が足らない……


 甲羅片がタダで得られるという事だけでも得なのに、経験値を寄生摂取出来て文句も言われないのであれば、確かに感謝もされるだろう……



 ◆◇



 地下10層への階段へ歩を進める……


 石畳の部屋の中央に下層階へ降りる階段があるが、遠目からでも周囲の枠が木製だと分かる。


 嫌な予感がする……降りる階段は『木製』で間違いはないだろう……



「く……やっぱり的中か………木製それも……所々が腐ってる……」



 僕は独り言を呟く……周囲を見回すと、壁にはこれ見よがしに首の突き出た牛の形をした石像が生えていた……



「アレは……石像か………それとも『魔物』だろうか……」



 そう呟き鑑定をする……



『石像………牛の形をしている石像で首にはロープをかけた傷が非常に多い。耐久度<重量200kgまでは不壊>』



 『成程……思った通りのギミックだ……』僕はそう思いながらも『腐った階段をそのまま降りずに良かった』と胸を撫で下ろす……



 そしてロープを牛の石像に括り付ける……


 しかしこのロープは回収出来ないのは間違いは無いだろう。


 10層に降りたら転送陣かスキルを使い、一度地上へ出る必要がある。



 同じようなギミックが無いとも限らないからだ。



『ギシ……ギシィ』



 ひどく不安定な階段をゆっくりと降りる……時には『ベキッ!』と割れる音がして階段が抜ける……



 下を見ると、そこはポッカリと暗闇が口を開けているのが見える。


 どんな作りか全くわからないが、階段の下は暗闇が広がる『何処か』であるのは間違いがない。



 その何処かは、地下何階まで吹き抜けの作りなのか……想像もしたくはない。



 命綱を身体に巻き付けているからこそ、この階段は降りれていると痛感する……


 その理由は地下10層へ着くまでの間に、何度も階段が抜け落ち死にかけたからだ。



「ふぅ……やっと地下10層か……とんでもない仕掛けだ……宝箱よりずっとタチが悪い……」



「アタイもそう思うよ!お兄さん……全くもって最悪なダンジョンだよ……此処は……」



 僕は独り言を言ったつもりだが、柱の影に隠れていた冒険者の声で我に返る……


 階層を繋ぐ階段なのだ……真下に誰かが居てもおかしくはない。



「アンタ早くそのロープを解きな!じゃないと次の奴が降りれないよ?」



「え?どう言う事ですか?」



「ああ……この坊主しらねぇのか。この系統の階段は『お一人様専用』だぜ?」



 そう声を聞いた途端、僕の背後に人の気配を感じた……


 『ハイド』のスキルより上の『ハイディング』のスキルを使っていたようだ。


 階段を降り切った安心感もあり、感知をするのを忘れていた結果が背後を取られることに繋がった。



「うぉ!?……う……背後に?まさか……悪漢の類ですか?僕に絡んでも得は無いですよ?」



 僕は両手を上げて『降参』のポーズを取る。


 相手が油断した瞬間を狙い、瞬歩で移動して迎撃する予定だ。


 だが、それを悟らせない為には細かい仕込みも必要だ……



「ちょっと!ベルフ……辞めなさいってば。アンタはそれをやるから何時も他のグループと私が揉めるんでしょう!」



「おっと……すまねぇな坊主……悪気はないんだ。誰かが降りて来た気配があったもんだから……つい隠れちまった」



 そう謝罪して来たベルフと呼ばれた男は、自分達のパーティーを詫びとばかりに僕へ説明をした。

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