第948話「緊急事態!?10階層で起きた異変」
『急がないとな……1フロアに数時間かかってたら、最下層まで数日はかかる。ドドムさんの形跡探しをしていたらもっと時間が必要だぞ……参ったな……』
僕はそう呟き、不明者の足取りを掴むスキルを持っていない事に後悔をする。
レンジャーやシーフはその類が得意だ。
シーフの上級職ローグは戦闘特化だが、探索スキルは一次職のシーフより上だ。
ベルフがいれば、ドドムの探索はスムーズに進んだ可能性もある……
そう考えつつも、僕は形跡を探して歩く……
ドドムの残された手記には、ディーナの薬探しの為に細かく情報を収集していた形跡があったのだ。
だからこそ隠し扉の類をドドムは熟知している。
その形跡をしっかり追わなければ、彼が向かった場所に行き着く事はないだろう……
僕は注意深くダンジョンを進む……1ブロックが終わりに差しかかるくらい歩いたあたりで、魔物の反応が感知に映った。
『魔物?……大型反応が3つ同時……って事はデスカルゴか。でも冒険者の反応もある……って事は戦闘中か!?それにしたって十字路での戦闘は悪手だな……』
僕は感知と魔法の地図を組み合わせて、その状況を離れた場所から確認する。
『おーい!!』
僕が感知を併用して魔法の地図で確認していると、背後の方から声をかけられる……
相手はまだ遠くにいるが、通路の作りのせいか酷く声が反響しておおきくきこえる。
相手が誰かは容易に想像がつくが、今はこの状況は宜しくない。
進行方向には十字路があり戦闘中。
その戦闘音で周囲にいる魔物は引き寄せられている筈だ。
そこに『声が反響するダンジョン通路で大声』となれば、戦闘中の冒険者の危険値はグッと増す。
何故なら、通路の接合点である十字路に魔物が集まるからだ。
「マーオの馬鹿!此処の先は十字路だっての!!」
「平気平気!!あの魔導師坊主が居ればノール程度は楽チンだろう?」
「あのね……レスティお姉ちゃんが言ってるのは『そこで戦闘中』だったらマナー違反って事よ!!」
そう言いつつ僕の元に駆け寄ってくる彼等だったが、マーオは懲りずに大きな声で話をした……
「先に行くなら一声かけてくれよ!ってか素材も剥がずに行くなんて……。さてはお前マジックバッグ持ってないな?」
大きな声で笑いながらそう言うマーオは『お前銀級なら、せめて金貯めてマジックバッグくらい買えよ?』と言う。
「マーオさん声のボリュームを落として!この先で戦闘中です。大凡ですが相手はデスカルゴで、三匹同時でなんですよ!十字路での戦闘は危険ですし、遭遇戦の比率が上がるんです」
そう言うと、ベルフは青ざめつつ僕を見る。
「お前感知持ちか?だから此処で様子を伺ってたのか……」
そう言ったベルフは『くそ……チィ』と小さい声で舌打ちをする。
その理由は簡単だ……新手の魔物がリポップしたのだ。
多分十字路には固定の魔物が存在して、既にその魔物は討伐していた。
しかしそこにデスカルゴが襲撃したのだろう。
そしてマーオが不用意に発した反響する声が原因で、他の魔物が通路からも迫っている。
魔物の進行スピードは通常歩行では無く、臨戦態勢であるのは言うまでもない。
「ベルフさんも感知持ちですか?」
「ああ……そうだ。だが不味いな……リポップは仕方ないにせよ、寄って来ている追加グループは、マーオが間違いなく原因だ……」
「ええ!?俺が……原因!?」
「ああ……そうだ!!お前がデカい声で叫んだせいで、この先の十字路の魔物率は退避数を遥かに上回ってるんだよ!」
「って事は……ベルフ……不味いじゃ無いか!?アタイ達の所為で怪我人が死人になっちまう!」
僕はその言葉を聞いて『もはや悩んでいる余裕は無い……』と踏ん切りをつける。
『瞬歩!』
「しゅん?なんだって坊主?……あれ?あの坊主何処へ行った……」
「マーオ!!あ……あ……アイツ……この一瞬で……あんな位置へ移動してる!!」
マーオは突然いなくなった僕を探し回るが、通路の先を見ていたレスティは通路を走り十字路へ向かう僕を発見できた。
フロップはレスティの言葉で我に返り、武器を担ぐと『マーオ俺たちも行くぞ!!俺たちの責任もないとは言い切れん!だったら助けてチャラにするまでだ!!』と言って走り出した。
「く……呆けてる場合じゃないな。フロップ俺も行くぜ!!ここで馬鹿やらかしたらタンクの名折れだ!!」
マーオもフロップの言葉に影響され、十字路を目指して走り出す。
余計に入り組んだ通路でないのが幸いした。
僕は更に瞬歩を重ねて使い、一気に加速する。
そして加速しつつ十字路を感知で確認する……魔物の数が分からなければ流石に対策が立てられない。
更に生き残っている冒険者の総数も重要だ。
感知によると、魔物の総数はデスカルゴ3匹にリポップ個体が6匹。
正面通路奥から来る新手は巨大な魔物の反応なので、おそらくデスカルゴが2匹だ。
右通路からはノールが4匹、そして左通路からはノール3三匹だ。
なかなかの混戦になりそうだ。
リポップしたのが、ノールと思われる個体だったのは幸いだった。
万が一挟み撃ちに遭ったのがデスカルゴだとすれば、迎撃しているパーティーは絶望的な戦闘を強いられた。
しかしノール程度なら体躯も然程大きくないので、集中攻撃をかけるか首を刎ねてしまえばいい。
それに気がつけば、僕達が到着するまで時間が稼げる筈だ……『僕はそう思った』
だが4回目の瞬歩で、身体に違和感を覚えた。
唐突耳鳴りがして、心拍数が爆発的に上がる……
理由は分からないが、足に力が入らず踏み出す事が出来なくなる……
『あ………み……耳が聴こえない……この音は……耳鳴り!?………更に目が霞む………はぁはぁ……それに心拍数にも異常が……息が………出来ない!!』
言葉にならず、その場で立ち止まり心臓を押さえる……
そして上体をくの字に曲げて、何とか倒れない様に踏みとどまる。
心拍数が戻るまで……そう考えたが数秒で治るとは思えない。
敵の攻撃か?それともウィンター・コスモスが言ってた『覚醒』絡みか……
『ヤバイ立ちくらみが……貧血?何で……瞬歩の多用が原因?……』
「げほ………はぁはぁ……ゴホゴホ………」
『キーン』と耳鳴りがして、鼻の奥に鉄臭い感じが広がる……
鼻の奥が『ツーン』とした感じで、鼻血が出る時の感覚だ。
しかしおかしい事が僕の脳内で起きる……
目が回る感覚がした後、耳鳴りの中に声を感じた。
今にも倒れそうな状態だが、僕はその声が何を言っているのか、聞き取る為に集中する。
『フ……フランム姉さん………あ……危ない!』
「フ……フランム姉さん………だって!?………この状態はまさかフランメ……君が!?」
僕がそう言葉を発した瞬間……物凄い熱波が通路から伝わってくる。
「くそ!?この通路の先で……一体何が起きてやがるんだ!?」
「マーオ!フロップ!……それ以上進むな!!桁違いの破壊力だ……この先にはとんでもない化け物が居るぞ!!」
そう言ったのは、ベルフだった……
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