第936話「絶句!!変質による悪影響」


 当然僕は、ダンジョンで手に入れた貴重なマジックアイテムであると嘘をつく……


「姫殿下!それは貴重なマジックアイテムの様で………姫殿下?……姫殿下ー?エクサルファ姫殿下ーー!聞こえてますか?姫殿下ーー?」



「あ……コクゴウさん……多分音量が大きいので、そもそも聞こえてないはずです……。それにイヤホンには高性能なノイズキャンセラーも付いているので……外の音は拾えないかと……」



「な!?あの耳のものは、音を遮断できるマジックアイテムだと?魔物の放つ咆哮系のスキルにうってつけでは無いか!!何処で手に入れたのだ?是非教えてくれ!!」



 食いつき気味にそう言ってきたコクゴウは、アンデット達が放つ絶叫の効果を説明してくる……


 皇帝が行った遠征では、アンデッドの群れが放つ絶叫系スキルで凄い被害が出たそうで、対応装備が急務だという……



 僕はその話を聞いて……『成程……耳栓があるだけで、その遠征にはかなり有用性があるんだな……』と感じたが、今はそれどころでは無い。


 まさに僕の思い出が詰まったスマホが、危機一髪なのだ……



 僕はクロークから壊れたスマホを取り出す……


 バッテリーだけは使い回しが効くだろうと、充電しつつ取っておいたものだ。



 しかしおかしな事に気がついた……真っ黒だった画面は、何故か煌々と明かりを放っている。



 不思議なことに起動しているのだ………


 そして画面には『welcome!モノリスプレート・ショッピング』とアプリ画面が出ている………



「うげ………まじか……壊れていたのに……まさかの変質しとる………」



「な!?お主……そのマジックアイテムを複数所持しておるのか?是非姫殿下に献上されよ!そうする事が帝国臣民の、この上なき誉なるぞ!!」



 そう言ったコクゴウは半ば強制的に僕からむしり取る……その行動が自分の首を絞める事になるとは思わずに……



「姫殿下!ご覧下さい!この者は同じ物を複数所持しております!!」



 エクサルファは耳につけたイヤホンを取り外し、すぐにコクゴウが持つもう一台のスマホに飛びついた。



 その理由は簡単で、スマホの本体が鮮やかなピンク色だったのだ……


 貴族のお洒落女子たる彼女は、その色をたいそう気に入った様だ……



「そ……そのスマホにはまだ音楽は入ってないはず………です……えっと……今まで使えなかったので………」



 僕は言い訳の様に事情を説明するが、エクサルファは『キャーキャー』言いながら抱え込み、もう僕と話す気はない様だ……


 しかし問題はそれだけでは収まらない……


 既に時間は風の8刻半で僕は絶賛寝坊中だったのだ。



「ヒロさん?いつまで寝てるんですか……皆さん大激怒ですよ?ヴァイスさんもグラップさんも、オークションの件で徹夜で対応してるのに!って怒ってます。いい加減起きて来ないと置いていかれますよ!!」



「え!?もう出発時刻?」



「出発は風の8刻と昨日伝えた筈ですよね?……あれ?開かない……ちょっと!!部屋で何してるんですか?……今すぐあけなさい……師匠!!」



 僕は慌てて机と椅子を退かすと、そこにはアユニだけでなく、ヴァイスとグラップそしてシュートの三団長がいた……



「相変わらず呑気に寝ているのか?このうつけめ!……この儂がその性根を入れ替えてくれる!歩兵騎士団に今すぐ入団せよ!!」



「おい!グラップそれは狡いぞ?彼は遠距離攻撃も十分こなせる……と言うか、魔法剣士と言う話だろう?歩兵騎士団向きではなく、我が第三騎士団向きだろう!」



「何を言うかシュート!馬鹿な事を言うでない………そう思いますよね!?姫殿下も?………」



「は?姫殿下?ここにいるはずがなかろう……とうとう頭だけじゃなく目までおかしくなったか?グラップ……」



「そうだぞ?グラップ……突然何を言う。姫殿下などと………」



 そう言った三人にエクサルファは『私だったら……彼を宮廷調理人の料理長の一人に推薦しますわ!だって凄い腕前ですもの……』と言った……



 当然三人は目を見開いて驚くが、グラップは自分で言っておいて一体なぜ驚いているのか不明だ……



「「「ひ………ひ…………姫殿下!?………大変失礼を!!」」」



 三人はすぐさまその場に跪く……全くもってやばい光景だ……



 エクサルファ姫が入り口付近で僕と横並びでそれを見ているが、騎士団長達からは僕の横にいるコクゴウの位置は見えない。


 当然風っ子も姿を見せる訳がなく、しっかり認識阻害で視界をずらしている。



「ご………ごごご………御無礼の程……な……何卒……ご容赦を!姫殿下!」



「我々であれば、いくらでも待ちます故………どうぞごゆるりと……姫殿下!」



「それに……この件は多言無用させます故、どうぞご安心下さい!姫殿下!!」



 何をどう勘違いしたのか、三人は僕達を全く見ようとしない………


 しかしエクサルファは何がどうして跪いているかも分からない様でだ。


 しかしコクゴウは額に青筋を立てている……けしからんと言う表情なのは言うまでも無い。



「この大うつけ者共が!!エクサルファ姫殿下はドアが開かないので、庭園側から先程挨拶に来られたのだ!!下手な想像をするならば、その素っ首斬り落とすぞ!!」



「「「こ………コココ……コクゴウ!?」」」



「何を呑気に……馬鹿者共め!」



「騎士団長の皆様見てください!実は私、ヒロ殿にいい物頂きましたの!マジックアイテム『スマホ』と言うそうです!素晴らしい音楽が鳴るんですよ!」


 そう言ったエクサルファは、操作もわからないのにスマホを勝手にポチポチ適当に押す………


 適当に操作すれば、問題が起きるのは当たり前だ……突然スマホから音声が流れ出す。



『いらっしゃいませ!モノリスプレートショッピングへようこそ!このアプリでは、お客様の必要な物を音声認識で受注出来ます。最短納期1日、通常納期1週間にてお届けいたします』



「ほら凄いでしょう?お話もできるんです!!」



 僕は『これはお話ではない!!絶対にやばい物だから取り返さねば!』と焦りが顔に出る……


 しかしモノリスショッピングは呑気に説明を続けている……しかしアプリだから当然だ。



『尚1日の単位は24時間という異世界の単位を使います。ちなみに1時間はこの異世界の1刻を指し、1週間とは7日をひとつの単位として纏めた、異世界における時の概念で御座います』



「まぁ!凄いこのマジックアイテムは、異世界へ通じる物なのですね!わたくし流石にビックリですわ!」



 そう言って、エクサルファは僕を見る。



 当然コクゴウは僕を驚きの眼差しで見る……


 その様は『なんて物を姫に出しやがるんだ!この大うつけのクソ馬鹿野郎!!』と言う感情で間違いはないだろう。



 しかし困ったことにモノリスショッピングは、その発言を辞めてはくれない……



『取り扱い商品は、この世界では手に入らない一品で、購入は金貨1枚から可能です!送料は通常配送のほか、特殊配送や指定日配送も受け付け中!配送業者は定評のある、ポチ団長のニクキュウ商団が責任を持って配達。安全且つ親切、真心配送をモットウに働く自慢の配送業者で御座います!』



 『おい……ポチ……お前も一枚絡んでやがるのか!』と、若干殺意が湧くが現状はそれどころでは無い。



 あの二足歩行猫だけは、このメンツの前に出すのは絶対阻止せねば……


 特に世間知らずのエクサルファにだけは、絶対に合わせてはいけない。



 帝国国庫が枯渇するのが目に見えてしまう……



 そもそも自由気儘にしゃべくり歩く珍獣だけは、異世界の倉庫に閉じ込めておかないと、後々自分の首が絞まってしまう。



 罪状は『猥褻珍獣陳列罪』とか『破廉恥不愉快な二足歩行の猫を解き放った罪』と言ったところだろう……


 帝国にそんな罪状があるか分からないが、ポチが係ると作られてしまいそうだ。



 しかしエクサルファは、僕のその考えなど何のそので問題発言をぶちかました……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る