第935話「無断侵入?無銭飲食の間違いでした!」


「ラムセスさん……僕達明日は何時に出発ですかね?」



 僕は無神経にそう聞くと、アユニが『流石師匠……大問題を前に全く動じてないのが……ある意味怖いです……』と言って、倒れたマナカをアサヒと支えつつ部屋に戻っていった。



 僕はオークション問題を放置したまま、僕様に用意された部屋に戻る……そもそも僕がやった事では無いのだから当然だ。



 そして真実を暴露した今、帝国騎士団がキーテラに文句を言うのも確実だろう……『何故一報くれなかった?』と言う意味でのクレームだろうが……



 それに既に出品された以上は、出品者でもない僕にはどうする事もできない。



 部屋でそんな風に考えていると、僕の部屋の扉の前に誰かが来た気配がする……



『コンコン』



「入ってまーす!」



『ガチャ……』



「失礼します師匠……。入ってまーすって……相変わらず返事がバカですね……。明日の出発は、風の8刻になるって事を伝えておこうと思って……さっき気にしてましたよね?」



 僕はお茶目に冗談を言ったつもりだが、アユニは僕を冷たくあしらった。


 コールドレインの街で出会った頃の、素直だったアユニが懐かしい……



「ああ!そうそう……気になってたんだよね!アユニさん……有難う!」



「いえいえ……それより……何処で水龍ウィンターコスモス様と出会ったんですか?って言うか……サザンクロス様と出会った時に、一緒に教えておいてくださいよ!話を聞いて寿命がめっちゃ縮みましたよ!!」



 彼女は帝国の歴史が潰えるのでは?と内心ドキドキしていた事を説明した……



 僕はアユニに、ウィンターコスモスとは出会いたくて出会った訳ではない事を説明する。


 当然鑑定スキルの事は秘密だが……



「なんか……私と出会った時は、優しくて頼りになるなぁ……と思いましたけど、ヒロさんを知れば知るほど……『凄い速度で寿命が縮まりそう』と思うのは……私だけでしょうか?」



「まぁ……ウィンターコスモスさんの件はウッカリその存在を知ったからね……調理担当のサザンクロスさんが、ウィンターコスモスさんの双子のお姉さんなんだってさ……」



「……………は!?………調理担当?……水龍が双子!?……ぐはぁ………ありえん情報バイ……話に来るんじゃなかった………」



 そう言ったアユニはガックリと項垂れつつも……『誰も知らない、激ヤバ情報じゃないですか!!双子って事は……文字通りほぼ一緒にいるんですよね?デカディメント(滅び)クラスのウィンターコスモス様と、ディストラクション(破壊)クラスのサザンクロス様が………』と頭を抱え発狂し始める……



「大丈夫だよ!二人とも休眠してるから……。そもそもの話だけど、どっかの誰かを襲うために休眠してるわけじゃないしね!」



「はぁ!?休眠は……ウィンターコスモス様だけではないんですか?」



「え?そうだけど?調理担当兼、餌の配給係であるサザンクロスが寝ちゃったから………仕方なく僕のところにウィンターコスモスが来たんだよ?僕にご飯をたかりに……」



 そう言った瞬間、アユニは『ヴァ……ヴァイス騎士団長!大問題追加ですー!サザンクロス様も休眠にぃ!!』と走って行ってしまった……



 僕はこの後の危険に備えて、部屋の鍵をきっちり閉めて椅子でドアを固定した後、早めに寝ることにした……



 自慢ではないが、一度寝たら起きる事はまず無いだろう。


 何故なら、騒音対策としてスマホのミュージックプレーヤーをかけて、しっかりイヤホンで耳を塞ぐからだ!



 ◆◇





「ふあぁぁぁ………」



『あらおはよう?……随分早いお目覚めじゃない?今日もいい風が吹いてるわよ?』



「ああ……おはよう!風っ子……なんか睡眠の質不足だな………オークションが気掛かりででさ……」



 起床と共に、風っ子に声をかけられた事に違和感を感じさえせずに僕は答える……



『まぁ貴方の周りはある意味出鱈目な人ばかり集まるから、それは仕方ないんじゃない?』



「はむはむ………そうですよ……風精霊様の言う通りです!……コクゴウ喉にお肉が詰まりそです……至急お茶下さい!」



「はい、今日のお茶は帝都北部産のコールドフラワー茶と帝都南部のマジックフラワー茶がありますが……」



「んぐっくっく……じゃあ……私は北部産で、ヒロさんには南部産のマジック茶で良いんじゃないかしら?………ハムハム……もぐもぐ………」



 会話にすごく不自然がある………


 何故僕に用意された部屋に、エクサルファ姫とコクゴウがいて呑気にお茶を淹れているのか……



 そもそも『どうやってこの部屋に入ったのか……』そう思っていると謎が解けた……



 部屋の窓が開け放たれていて、何やら木製箪笥に括り付けられた縄梯子が外に飛び出ている……



「風っ子?あれは………何?」



『ナニって………縄梯子でしょう?』



「いや……そうじゃ無くて……寝る前に無かったよね?そもそも何で風っ子は、エクサルファ姫さんと話してるの?」



『チャキン!』



 コクゴウの素早い動きは見事で、僕の首元に剣の刃が押し当てられる………寝起きで油断していた事もあるが、躱す事もできなかった。


 そしてその剣を握るコクゴウを見ると、その表情はまさに怒り心頭である……



「無礼であろう!エクサルファ姫殿下を姫さん呼ばわりとは……万死に値す………」



「やめなさい!コクゴウ!!中級の風の精霊様のマスター様ですよ?彼の前であれば、私の立場など最早ゴミ同然です!!その上あのスライムのマスター様ですし!」



 そう言われてエクサルファの指す方を見ると、弁当を捕食するスラが居た……


 ぷるぷる身体を揺さぶり必死に可愛さを表現している様だが、弁当を勝手に食べている事を誤魔化しているのは隠しきれない……


 半透明の身体では、溶けていく肉が隠しきれていないからだ……



「あの……部屋にいる事も不思議ですけど何故弁当を?」



「え?………えっと………風精霊様の指示で……スライムに餌やりをと……」



 エクサルファがそう言ったあと、彼女は目を泳がせながら『クロークを探って出した所……お弁当が複数あったので、見ていたら風精霊様が食べて良いと………』と言い加える。



 だがスライムが捕捉したのは弁当一個で、エクサルファが食べたのは3個だ……


 最早彼女の一存で食べ尽くしたと言っても過言では無いだろう。



「で……では……あの縄梯子は?」


「今日の祈りを風精霊様に捧げていたら……風っ子様から神託を頂きまして……よくよく話を聞くと、ヒロ様に仕えていると………」



 そうエクサルファが言ったあと、コクゴウが会話を変わる。



「そこで風精霊様のお話を聞くと、この宮殿内に宿泊中と言うではありませんか……なので急いで挨拶をと思い、部屋に行くも……扉があの様でございまして……」



 椅子と机で、ガッチリロック中の扉を指さすコクゴウの言葉で、漸く意味が分かった……



 しかし扉も窓も施錠してあるのに……と思い窓に近づくと、意味がよく分かった。


 窓は部屋の内側から外側に向かって、凄い力で破壊されていた………



「か……風っ子!?こ……壊したの?何も窓を壊さなくても…………」



『違うわよ!そこのエクサルファがぶっ壊していいって言うから………壊しただけよ………』



「そうです!私がそう話させて頂きました!窓ならいくらでも直せますから!」



 問題はそうじゃねぇ……なぜ無断侵入が許可される!?……と言いたいが、ここは帝都の宮殿の内部である。


 それを自由に壊そうが、それは姫殿下の気分ひとつでまかり通ってしまう……



「部屋には私が先に入って縄梯子を設置させて頂いた。何度起こしても起きぬのだから……やもう得ずな……ところでその音が鳴る丸い物はなんだ?姫がたいそう気に入っておってな………」



 めざとく見つけたイヤホンを手に取り、既に耳に装着中のエクサルファは鼻歌を歌う始末だ……


 かけていた音楽はなかなかの音量なので、エクサルファには既に僕とコクゴウの会話は聞こえてないのだろう。

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