第937話「異世界通販!?モノリスショッピング」


「まぁ……金貨で何かが買えるそうですよ?面白いマジックアイテムですね!……どおりでヒロ様は色々お持ちなんですね!あれは異世界の物だったとは……」



 そう言われて僕はハッとする……


 エクサルファ姫がクロークを弄ったのであれば、間違いなく中身を見られているのだ……


 その言葉を聞くまで、僕の想像はその事態に追いついていなかった……



 しかし追い討ちをかける様に、モノリスショッピングが追撃をかましてくる……



『今なら金貨100枚で、異世界のお菓子が詰まったギフトセットをプレゼント!イベント協賛は、猫屋ニクキュウ商団のポチ社長様です。週替わりの特産品コーナーや季節限定コーナーも充実!注文するなら今すぐモノリスショッピングへ!チャラリラリラリラーン!』



 食材プレゼントとか……マジでやめてくれ……



 異世界の食材はこの世界の生物を変質させるから、特に人間に与えてはダメだと水龍サザンクロスに言われたばかりだ。


 その謎を詳しく解き明かすまでは、ある意味誰にも食わせたらいけない物だ……



 それなのにポチの協賛とは……


 『奴に会ったら最後、絶対に三味線にしてやろう』そう思っていたのも束の間……今度はエクサルファがやらかした……



「まぁ!このマークは何かしら?………」



『ポチ』



『ピポパポン!!モノリスミュージック!!ヘイ!トレンドベスト10の発表は、本日正午からスタートするぜ!音楽好きの諸君、今ならお試し期間1ヶ月無料で聴き放題だ!悩んでいる君にもってこいのサービスだろう?いっぱい聴いてくれよな!』



「まぁ!?聴き放題ですって!聴きましたか?コクゴウ!」



「ちょっ……姫殿下お待ちを……おいヒロ!これは……一ヶ月とは何だ?これは何なのだ?何がどうなる!?……」



 コクゴウの悲痛な質問を他所に、エクサルファはコッソリ画面をタッチする……



『モノリスミュージックの提案へようこそ!今ならお試し期間で一月無料、その後は何曲聴いても毎月金貨1枚で聴き放題!異世界版サブスクの幕開けです!既に歴史から消えた音楽のプレイバック機能や流行りの歌に加え、ダウンロードフリーのオフラインプレイも充実!毎月アーティストのサイン付き色紙もプレゼント中!聴くならモノリスミュージック!』



 僕はその言葉を聞いて……『モノリスミュージックじゃねぇし!……色紙とか……わかんねぇよ!!よく考えろ……此処は異世界だぞ?』と運営に文句を言いたくなるが、問題児の行動はやけに早かった……



 油断したわけでは無い……決断の速さと、コクゴウの放置っぷりが想定外だったのだ。



「えい!コクゴウ、試しに登録というものをしてみましょう!」


「ひ!姫殿下……なりません!」



『ピンポンパンポン!!……指紋から遺伝情報認識中……認証開始……所在地……帝国・帝都エボリューション………遺伝解析……帝国皇帝ディスターブド・ドレイマンの第二子、第二皇女エクサルファ・ドレイマン……本人確定……登録中……登録中……完了!』



「まぁ凄い!押しただけで私の事が全部解ってしまうんですね?……マジックアイテムなのにお利口さんですねー!そう思いませんか?コクゴウ……あら?何故皆さん頭を抱えているので?」



「姫殿下!自分がなさった事をご理解してますか?このマジックアイテムは謎が多く、ヒロに詳しく聞いてから行動なさねば……」



「そうです姫殿下、コクゴウの言う通りです……。触っただけで個人の情報が包み隠さず解ってしまう時点で、このマジックアイテムはかなり危険な物ですぞ!?鑑定スクロール要らずでは無いですか!!」



 コクゴウの悲痛な叫びに同調する様に、シュートが追随する。


 しかし陽気な声がスマホから帰ってきて、そのムードをぶち壊す……



『ヘイ!エクサルファ!登録ありがとう。今日から来月までは聴き放題だぜ!是非モノリスミュージックを堪能してくれ。申込者限定イベントを実施中だ!今回モノリスミュージック・ベスト10に選ばれた歌手のサイン色紙と、アーティスト別サイン入りチェキをそれぞれ10名にプレゼントだ!是非応募を待ってるぞ!』



「まぁ……サイン色紙が何かはわかりませんが……楽しそうですわー!コクゴウ……お母様とお姉様にも、これを今すぐ見せてあげましょう!!」



 そう言ったエクサルファは、画面をコクゴウに見せつける。


 たしかに画面には有名アーティストの写真が乗っているが、どういうコネなのだろうか……



 そしてコクゴウやシュートの心配を他所に、エクサルファは意気揚々とスマホを片手に部屋から出ようとする。



 ちなみに僕はあげるとは言ってない……だが、もはや返しては貰えないだろう。


 しかし姫を変質させる訳にはいかないので、最低限の注意だけはした方がよさそうだ……



「姫殿下!ひとつ注意点だけ!!水龍サザンクロスの言った事ですが、異世界の食材は食べてはなりません!いずれ変質して、この世界の生物とは異なるモノになるそうです!ですから………食べ物の取り寄せは絶対に禁止です!」



「な!?なんですとぉ?……ちょっと師匠!なんば言うと?わたしもアサヒもダンジョンで食べたじゃろう?差し出されるままに……甘い物が、疲れた身体に良い言ってたのは師匠じゃ!!」



「ちょっと……アユニ………姫殿下の御前です……それにビックリしすぎて……方言が……」



「アサヒィ……そんな言う場合違うとぉ!私等そのうち変質するっとよ?師匠みたいになったらどうするっと?………師匠みたいじゃぁに……ハ!!それって人族メスとして……最強説なんじゃ……師匠!チョコレートくだちぃ!!」



 アユニの余計な情報が、エクサルファにインプットされた……


 彼女は小さく『甘い……チョコレート?』と呟いたが、アユニの大騒ぎで誰の耳にも入らなかった……



 僕はエクサルファの持つスマホを操作する。


 返して貰えないなら、せめて機能制限をかけとこうと思ったからだ。



 モノリスショッピングアプリの使い方を知っているわけでは無いが、機能設定くらいは出来ると踏んだのだ。



「これで設定完了です!毎月課金出来るのは金貨10枚までです。良いですか?このスマホ画面は変質してて、お金を直接吸い込む仕様です。今回は僕が立て替えて、金貨を10枚入れてますから……来月からはご自分で入金してください……」



「まぁありがとう!!では30日後に、音楽アプリと言う物で金貨一枚がかかるんですね?まぁ大好きな音楽が聴き放題……なんて素晴らしいんでしょう……ハープでもなく、リュートでも無い音の深い響き……素晴らしい音でした……毎日聴けるとは嬉しい限りです!」



 僕はそう言われて……『あ!?充電』と気がついたが、こればかりはどうする事もできない。


 僕の充電器に余分など無いのだから、それこそ通販で異世界から買うしか無い。


 乾電池式の充電器か、ソーラーパネル型を買うしか無いだろう……



 しかし画面を見る限り、バッテリーの表記は無かった。



 『あれ?バッテリー表示自体が……無くなってる?……充電要らないとか………まさかぁ……』僕はそう焦りつつも、自分の携帯と見比べる。



 しかしながら、そもそも僕のスマホには『モノリスショッピング』が無い。



 急いでクロークから、壊れたスマホをもう一台取り出す……当然周りの見る目はエクサルファ以外はかなりシビアだ。

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