第910話「お婆ちゃんは元宮廷製薬師!?4華仙アルカンナ」


「お……遅くなりました……ぜぇぜぇ……」



「おお!やっときおったか……ヤキモキしたぞ!なかなか来んから」



 アルカンナの言葉に、売店の売子の娘が『まだ朝早いですよ?お婆ちゃんと同じ早起きにしたら可哀想です!』と言う。


 するとアルカンナは『まぁ確かにな!この坊主を逃す手はないもんで、ついついこの婆やも焦ってしもうたわぃ…』と言って笑い合っていた。



「すいません。朝から一寸絡まれてしまって……アルカンナさん店舗の方は大丈夫なんですか?」



「絡まれたとな?お前さん……それは難儀じゃの?怪我とかせんかったか?まぁ横に駆け出しの騎士がおるから何かの足しにはなるじゃろうが……帝都にも悪いのが居る……気をつけたほうがええぞ?」



「ああ……ゴロツキではなく、騎士団で手合わせをしてからって事になったんです。その所為で遅れてしまったんですよ……」



「何じゃ!?坊主かと思ってたらラムセスと同じ騎士か!?」



 説明が面倒だな……と思っていたら、ラムセスがその全てを説明してくれた。



「成程のぉ……人は見かけによらんと言うが……。とんでも無い坊主じゃったのか……薬師5等級に武器も卓越……となぁ……」



「それはそうと……薬師ギルドへ行くんですよね?」



 僕がそう言うと、アルカンナは店の売子に『じゃあ行ってくるでのぉ……日干しした薬草類は2刻後に裏返せ!忘れたら、ありゃゴミにしかならんからな?』と言う。



「薬師ギルドは、ここから3ブロック先にあるから少し離れておる……。おいラムセス婆やを背負ってくれんかの?」



 アルカンナはそう言うとラムセスの尻を杖でボコボコ叩き始める。



「アルカンナさんもし良ければ僕がおぶりますよ?騎士団の鎧じゃ背負われても痛いでしょう?」



「聞いたか?ラムセス……お前はこの坊主みたいに、もっと出来る様にならんとな!!」



 そう言ってアルカンナは僕の背後に回る。


 僕がアルカンナを背負ってから、ラムセスを先頭に薬師ギルドまで向かう……



「ヒロさん、見えてきました。あれが帝国イチ大きい。帝都薬師ギルドです!」



「で………か………ええ!?冒険者ギルドより遥かに大きいですよね?薬師ギルドが何故?」



「まぁその話は、後でおいおい分かるじゃろう……さぁ行こうじゃないか!」



 そこにあったのは『冒険者ギルドより遥かに大きい』薬師ギルドだった。



 ◆◇



「薬草1番棚完売です!次の乾燥終了は夕方になります!繰り返します。薬草1番棚完売です!次の乾燥終了は夕方になります!」



「マジかよ………おいねぇちゃん!俺は小国郡国家からわざわざ買付に来たんだ!今すぐ置いてくれよ!!」



「ははは……やったぜ!朝暗いうちから待った甲斐があった。光草100束に華水苔100包。何処も品薄だから、これで大儲け確実だ!」



「現在戦争中につき、ポーション価格は高騰しています!お売りの方は右手特設ブースにて買い取り中です!」



「くそ!ここも買取強化中か……売ってねぇじゃねぇか!!」



「馬鹿かオメェ?帝都でポーションが買えるわけねぇだろう!買うなら北のダンジョン都市か、南の黒穴までいかねぇと買えねぇよ!」



「朝の部、傷薬はお一人様3個までです!」



「退けよ!邪魔だよ!!」



「俺の傷薬だって言ってんだろう?殴られてぇのか?」



 薬師ギルドの中に入ると、そこはもはや戦場だった。


 必要な素材を買い漁る行商人や冒険者でごった返し、中には喧嘩をしている輩までいる。



「凄まじい混みっぷりですね……アルカンナさん……大きい理由ってこれですか?」



「帝都の品揃えは素晴らしい上に、扱う品は一級品だからね……混んで当然なのさ!」



 アルカンナがそう言った瞬間、横にいた薬草を大量に抱えた女性が騒ぎ出した……



「え?アルカンナ?………様!?ええええ?4華仙アルカンナ様!?…………」



「ああ……しまった……ここのギルドではモーリスって名前だったね……。久々に来たからウッカリしちまってた……」



「わ……私はこのギルドでサブマスターをしているアセビと言います!今ギルマスを呼びますね!」


 アセビはそう言うと、返事も聞かずに走っていく。


 アルカンナはそれを見て、アセビに『今日来ることはもう伝えてあるから、呼ばなくて大丈夫だよ!それより会議室に例の物は用意してあるか聞いておくれ!』と言う。



「なんか聞こえているのか無いのか……わからない感じの人でしたね?」


「ここのギルドマスターは実は私の娘でのぉ……だからここは家の様なもんさ。ちなみに娘達は双子なんだが、片割れとは物凄く仲が悪いんだ……」


 そう言ったアルカンナは『普通双子って言うと仲が良いと言うもんなんだけどねぇ……片方は薬師ギルドに、片方は魔導師ギルドに居るんだよ』と言う。



 そこで思い出したのは、魔導師ギルドに行けなかった事だ。


 前日マガワーマの件で遅くなって行けなかったことを、アルカンナに報告する。


 折角教えて貰ったのに行けなかったので悪いことをしたと思ったからだ。



「まぁ仕方が無いよ!貴族ってのは、その時折で対処せんと後々面倒になるからねぇ……。まぁ今日にでも時間を見繕って行けば良いじゃろう」



 そうアルカンナが言い終わると、薬師ギルドのギルマスが二階から降りて来た。



「お母さん!突然昨日連絡してきて薬草を揃えろって……もう本当に大変だったんだからね!それで?今日は何しに来たのよ?今は隠居してお茶飲みに来るだけなのに!」



「実はのぉ……アマナお前に頼があるんじゃ……」



「母さんが私に頼み事!?……ちょっと珍しい事にも程があるわ!雪でも降らなきゃ良いけど……それで?頼み事って何?」



 僕達が連れてきたアルカンナと、薬師ギルドのギルマスであるアマナは本当に親子だった。


 アマナは母であるアルカンナにその頼み事は何かと尋ねた……


 するとアルカンナは『今日の薬師免許試験に一人参加させろ』と言い始めた。



 当然びっくりしたアマナは何故かと理由を尋ねるが、アルカンナは含み笑いをするだけで答えようとはしなかった。



「母さんがその笑いをする時は大概碌でもない事が始まるのよ……はぁ……まぁ良いわ薬師が増えるなら、娘としては万々歳よ!それでその受ける人ってのは真横の子ね?」



 勘が鋭いのかアマナは僕を見てそう言うと、ギルド証を預かると言って来た。



「すいません薬師ギルドのギルド証はまだ持ってないんです……」



「それは分かってるわ!って言うか……此処だけの話ギルド証は共通よ?だから……冒険者である貴方の冒険者証を渡してくれると、私は凄く助かるの!」



 僕は全くそのことを知らなかったので、赤面しつつ急いでアマナにギルド証を渡す。



「えっとヒロさんね?ちゃんと覚えておいて。じゃないとまた恥をかくからね?」



 そう言ったアマナは『ギルド証も大元は何処も同じ、そこに魔法刻印で各ギルドの紋章を刻むの。ちなみにそれは魔法文字でよ!』と言ってから、サブマスターのアセビに僕のギルド証をポイ投げする。



「アセビ、今日の参加者に1名追加ね!ギルド職員にもそう伝えて。今日は久々の10名よ!!受験者数の最高新記録だわ」



 そう言ったアマナは、僕をすぐに試験会場に連れて行く……



「えっとじゃあヒロさん……試験課題は簡単薬液が作れれば銅級資格4位よ……薬師階級で言うと12級になるわ」



 薬師ギルドのギルマス、アマナは矢継ぎ早に説明をした……

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