第909話「負けを認めない厄介者」
「何にせよヒロよ。お前が冒険者達の言う逸材か……騎士団闘技場にてその実力を確かめる!ついて参れ!!」
グラップのその言葉に『何故!?』と皆頭をかしげる。
発言が脳筋者たる者の考えでしかないからだ。
「グラップ騎士団長様……発言を許可願います!」
「うん?ラッシュか?なんだ!?……発言を許可する!」
「ありがとう御座います!グラップ団長殿!もう本日は夜もふけ既に遅く………帝国の客人には失礼かと……」
ラッシュと呼ばれた騎士は斬り込み隊の隊長だったようだ。
グラップの方を向き、敬礼後にそう話を切り出した。
「……ラッシュ……今何刻だ?」
「既にもう虚無の23刻半に御座います……」
そう告げられたグラップは僕を睨み……『こんな遅くまで外で何をしておった!?帝都観光には日が暮れて既に遅い……お前……何か怪しいぞ?』などと言い始めた。
周囲の騎士が僕を犯人扱いの眼差しでみるので、慌ててギルド前で出会った公爵の名前を出す。
「ドネガン公爵様とコセ伯爵様に誘われて食事を……元々マガワーマ様を経由して、公爵様と話をする予定でしたので……確認はドネガン公爵様の執事さんに聞いて貰えれば分かるかと……」
「ド……ドネガン公と食事を?……うむむむ………」
急に様子がおかしくなるグラップ騎士団長は、部下にその事実を確かめに行かせようとする。
「グラップ!!辞めろ。相手はあのドネガン公爵であられるぞ?お前の直属の上役では無いか!!」
「だが……ヴァイスよ……確かめねば!もし何処かの間者でであれば……この者は帝国からは出せぬ」
グラップは何故僕が間者だと判断したのか、非常に謎だ。
しかしそれを聞いたアユニとマナカが、大爆笑をしてしまう……
「ヒロさんが患者?ぶはははははは……確かに!頭の方の患者です!!考え方が圧倒的に変ですもん……ぶははははは!、ひぃーお腹がよじれるー」
「かんじゃはかんじゃでも……患者の間違いでしょう?特に頭の!!ぶははははは」
アサヒはそれを聞いて、必死に笑いを堪えている。
しかしアユニが止めの一言をいう……
「グラップさん……ヒロさんが間者でない事は断言できます!だって街の人を救う為にダンジョン潜る人が、間者って言えますか?」
「ああ……確かにそうね!アユニの言う通りだわ。ディーナさんの呪いを解く為の素材買い揃えに、夕暮れの市街地に行ったんだったものね?」
それを聞いたヴァイスは『ああ……そう言えばそうだ……』と言い出す始末だ。
僕はヴァイスを見て『まさか言ってなかったの?』と言う顔をする。
すると、彼は手で『すまない』の意思表示をする。
「む?どう言う事だ?」
「グラップよ、詳細は後で説明する。だが彼は無実だ。宮殿の外に出た理由は、薬品作成の為の素材を買いに行ったんだ」
そう言った後『そもそも私は馬車の中で許可していた……伝え漏れていたすまんな!』と付け加えていた。
しかしグラップは『ニヤリ』とした顔をする……嫌な予感しかない……
「ヴァイスよ……薬剤の作成と言ったな?ならば先程の話に合致するではないか!あの蘇生薬はやはりダンジョンの産物ではなく、その者による物だ。そしてスキル保持も間違いないと自白した様なものだろう?」
何故か会話が360度回って戻ってきた………
流石に堂々巡りにはうんざりで、僕は『もう明日に朝早いから寝たいんだけど……』と言う表情になる。
そしてつい面倒になった僕は、言ってはいけない台詞を口にしてしまう……
「グラップさん……作る薬品は蘇生薬には関係ないし、スキルも持ってません」
そう言った後、『明日ギルドに行く前だったら、力比べでもお手合わせでも何でもしますから……今日はもう寝てもいいですかね?明日の朝早く帝都ギルドに移動する予定なので……もう寝たいんですけど……」
「ヒロ……!?グラップにその言葉は…………」
ヴァイス騎士団長がそう言いかけた言葉は、グラップのバカでかい声でかき消される……
「おお!では明日闘技場にて手合わせ願おう!じゃあ……我が勝ったら騎士団員になると言う事で!」
「え?手合わせは理解できますけど……何で騎士団員に?」
「何でもするんだろう?今言ったではないか!第一師団より早く伸び代が多い新人をゲットできるとは!明日が楽しみだ!!負け惜しみしないように、よく寝ておくと良いぞ」
「いやいや……何でもしますの意味が違いますよ!……ってグラップ騎士団長さん?……おーい………おーーーい」」
「おいグラップ……それは流石に……聞いてるのか?蘇生薬の案件があるのだ……おい待て!グラップ……話を聞け!!」
グラップはそう言って、僕やヴァイスの言葉聞かずにその場を勝手に立ち去る。
もはや言葉が通じない変な人と話をしている気分だ。
しかし今になって漸く理解できた……
グラップは聞き取り調査で話を聞いて、僕に興味を持った……だから帰ってくるまで何が何でも待っていたのだろう。
そして力比べを切り出す予定だった。
しかし僕が先にそのフレーズを切り出してしまったせいで、グラップの手間を省いてしまったのだ。
グラップとしたら、勝手の負けても僕を取り込むキッカケを得た訳だ。
とんだ騎士団長が居たものだ……と感心する他ない……
◆◇
「グハ!?今度は……後ろだと?ま……負けてはおらん……『ぐびぐび』ぶはー!ぐはははは……これでHPはまだまだ大丈夫だ!」
「もう辞めましょうよ!本来ならもう5回も負けてますよ?ってか……力比べで何故、傷薬の服用が有りなんですか!」
「負けと認めなければ負けではない!騎士団長たるもの負けを認めてはならん戦いもあるのだ!」
「もう!本当に……意味わかりませんって!幾つ特殊ルールがあるんですか!!」
付き合いきれなくなった僕は『もうギルドに行かないといけない時間なんで……じゃあ……ちょっと強めに行きますから死なないでくださいよ?』と言ってから高速移動を始める……
『瞬歩!』
「え?死なないで?何を言ってるんだ!それに強めにだと?今まで充分………強めに……おい話している最中に何処にいった……親から話は相手の目を見て話せと……ゴハァァァァ!」
『ベシャ』
……翌朝はそんな感じで『半強制的な手合わせ』から始まった。
僕が朝起きる前から、騎士団長のグラップは僕の部屋の前で待機していた。
『逃さないようにしていた』と言ったので、どう見ても『客人もてなし』の対応では無い。
僕の部屋だけ、何故か騎士2名が部屋のドア両脇に控えていたのだから、騎士団長グラップのその考えは見え見えだ。
取り敢えず強めにのしたので暫くは目を覚まさないはずだ……
僕はひとまずヴァイス騎士団長をそばに呼ぶ。
「じゃあ……ヴァイス騎士団長さん……後はよろしく!」
「あ………ああ……分かった。それにしても……プレートメイルをここまで打ち凹ますとは……本当にそれ木刀か?……って言うか……これ本当に死んで無いんだろうな?」
「さぁ?えっと……強めに打ったんで………。あ!ラムセスさん?そんなドン引きしないで、昨日に引き続き街にある薬草屋の案内もお願いします」
「ああ……はい……。ですが……私が護衛として一緒にいる必要はあるんでしょうか?ヴァイス騎士団長?」
ラムセスはヴァイスにそう切り出したが、ヴァイスからの返答はない。
客人扱いを放置などは出来ないし、力比べの結果を見てしまえば尚更野放しには出来ないのだ。
返事が貰えないラムセスは、そばにたまたまいたアユニと目があった。
「ラムセスさん……これだけ言っておきます。見逃し厳禁!!ヒロさんが関わる時はそれが最重要ですから……。アポカリプス級の魔物扱いで見張ってくださいね!」
「アユニさん……それ程までですか?アポ級となると……邪竜や各龍種並みと言う事になりますよ?」
そう笑うラムセスに、うっかりアユニが渓谷の話を口走る。
「あ……水龍サザンクロスさんの件で色々あったので……本当にアポ級かもです……。ヒロさんが水龍サザンクロスに手を振って『また今度!』って言ってたので……」
それを聞いたラムセスは、僕を見事に二度見する……
しかし今の僕には時間的に余裕がない……待ち合わせ予定の時間だけでなく、グラップの意識回復も含んでだ。
「じゃあ……帝都ギルドのアルカンナさんの所に行きましょう!薬師ギルドの件もありますから」
僕はグラップが起きる前に、未だ驚きの眼差しを続けているラムセスの手をとってギルドへ向かう……
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