第908話「三人目の箱系スキル・契約の箱」


 ドネガン公爵家の執事に案内されいざ帰ろうと部屋を出ると、そこにはコック達が勢揃いしていた。


 店の中から『食事はまだか!!』と言うお叱りの声がそこら中から聞こえる。


 どうやら彼等は少し前から全員が整列していたと思われる。


 僕は先頭にいた帝国店の総料理長に『今度ゆっくり話しましょう!事情を話すまでは、僕がここに居る事は内密に!』とだけボソボソ伝えて店を出た。



 何故そんな事をしたかと言うと、僕の詳細を帝国貴族の面々に知られるわけにはいかないからだ。



「それではヒロ殿、予定が大きく変わりましたが……例の素材を買いに魔導師ギルドへ行きましょう!」



「いやいやラムセスさん。もうかなり遅いんですよ?明日の事もありますし……。それに今買っても明日買っても、全部揃わないのでは同じでしょうから……」



 僕はラムセスに騎士団へ帰る意思表示をする……


 色々疲れたし、そもそも時間も遅い。


 そして残してきたアユニ達も気になるからだ。



 ◆◇



 僕はラムセスと話しながら騎士団宿舎の方から、連結通路を通り宮殿内に移動する。



 時間が遅い事もあり誰もいないと思ったが、割と騎士達は深夜でも活動中だ………もしかしたら夜勤組だろうか?



「あっ!!……アユニちゃんにマナカちゃん!帰って来ました……あの人ってば飛び出たら帰ってこないんだから!!」



「遅くなりました。あれ?……アサヒさん何かありました?」



「『アサヒさん何かありました?』じゃ無いですよ!もう虚無の23刻ですよ?探してる時にはいないし!!こんな遅くまで、何処で何してたんですか?」



「ギルドに行ったらマガワーマさんに捕まって……食事に強制連行されてましたけど……。何があったんですか?」



 その声の主はアサヒだった。


 言葉の感じからして、何か問題でもあったとしか取れない言い方だ。



 僕は事情を聞こうとアサヒを見るが、マナカが代わりにあった事を話し出す……



「実は……騎士団の聞き取り調査に、とある騎士団の団長様が乱入されまして……」



 そう言ってマナカの向く方へ視線をやると、騎士団長のヴァイスと共に話をしている騎士がいた。



 対等に話をしている事を見る限り、役職は同じ騎士団長なのだろうか?


 しかしマナカの話に耳を貸さずに、その騎士団長はあれやこれやとヴァイスに噛み付いている。



 二人は決して仲が悪いわけでは無いだろうが、意見の相違が見え隠れしている。



「だから何度も言っておるだろう?その為の聞き取り調査だ!」



「ヴァイス、お前は騙されておる!ここに居る誰も異空間で戦う様を見ておらんのだぞ?そもそも一人一箱の財宝箱だと?ダンジョンでだぞ?おかしい事この上ないでは無いか!!」



「だからこそ審議をする為に、彼ら全員を帝都まで呼んだのではないか!わざわざ6名乗りコーチ5台であの危険な渓谷を超えて来たのだぞ?グラップお前は何事にも焦り過ぎなのだ!」



「そもそも儂は我が騎士団から歩兵隊を幾つも貸し出したのに、団長たるお前が秘薬探索の任務放棄をして戻って来た事が気に食わん!」



 グラップと呼ばれた騎士団長は『お前のたっての願いだからこそ、我が精鋭部隊である歩兵団を貸し出したのだぞ?その上ダンジョンにお前が行かずに、総指揮の指示を第二師団騎兵長に任せただと?』と憤慨している。



 ヴァイス騎士団長はダンジョンでの秘薬探索を諦めたわけでは無いし、そもそもその話も聞き齧っている。


 僕らが帝都に来る間、その総指揮を誰かに渡しているのは明白だ。


 グラップはその事も含めて文句を言っているのだろう。



 しかしヴァイスとグラップの両騎士団長は、その言い合いを辞めた……


 何故なら、ヴァイス騎士団長が僕の姿に気が付いたからだ。



「おお!ヒロよ。帰っておったか……申し訳ない。情け無い様を見せた……」



 そう言いかけた矢先、グラップが前に躍り出る。



「お前か!!冒険者共が話をしていた助けに入った冒険者って奴は!!一人で巨躯の魔物を葬ったなどの眉唾話など、騎士団の隊長たる我は信じはせん!」



 そう言ったグラップ騎士団長は『そもそもお前は、あの摩訶不思議な薬剤を何処で手に入れた?まさかエルフとの繋がりがあるものか?不思議な宝箱とて、お前の特殊技能なのは分かっておるぞ!すぐに白状しろ!!』などと言い出した。



「す……すいません……。内容が突飛過ぎて……意味が……」



 僕はそう言って、財宝箱云々の話をグラップに問いかける。



「なに?そんな事も知らんのか……契約の箱のスキルに決まっておるだろう!!」



「だから……グラップお前は落ち着いて話をしろ!!この帝国に騎士団員多しと言えども、そもそもそのスキルはお前しか持ってないんだ!他に類を見ない特殊スキルだと、何度説明すれば分かるんだ!」



「ヴァイス!俺だって何度も言っているだろう?こんな俺が『契約の箱』のスキルを持っている以上、他の奴が持っていてもおかしくは無いんだ!」



 そうグラップは言うと『もし同系統スキルが有るならば、我が騎士団たっての願いである事は言うまでも無い……。だが今回の件は全く別物だ!!』ヴァイスが話に割って入った。



 僕はその言葉を聞いて、グラップ騎士団長を鑑定する。


 当然スキルの情報を得る為だ。



『契約の箱……<契約の箱>は、あらかじめ選択したアイテムを特定人数へ配布する技能。渡せる効果範囲は視認できる領域のみ。その際、配布人数に合わせたアイテム総数(次元収納内部は不可)が必要となる。尚、給付された財宝箱は対象者の前で自動開封される』


 その鑑定結果を見て僕は『成程……』と思ってしまう。


 確かにこのスキルを持つグラップ騎士団長であれば、一連の仕業は僕の一人芝居であると勘違いしてもおかしくは無い。



 ちなみにそれに似たスキルも、グラップ以外の他に誰が持っているか僕には心当たりがある。



 それは王国の国王陛下が持っている、例の特殊スキルだ。



 同じ箱系ではあるが向こうは視認が関係なく保持期間も無い、その上特定人物しか開けられない性質の違う特殊箱だ。



「ヴァイスいいか?もしこのスキルが儂以外にも持つ者がいれば後方支援が容易なのだ!」



「グラップ分かっておる!だからこそ陛下も、お前にその役目を任せて後方待機を命じていたのだ!」



「知っておるわ!!だからこそ我は……これまでも煮湯を飲まされていたんだ!騎士団長という座にいながら、陛下や仲間と共に前線で戦えない……このスキルのせいで!!」



 その言葉に、僕の若干理解が追いついて来た。


 グラップは名に合う働きがしたいが、スキル優先の働きを命じられているのだろう。



 前線で必要なアイテムを、後方からスキルを使い配給する役目だ。


 その効果は、騎士団の行う大規模戦闘であれば計り知れないだろう。



 グラップ曰く『スキルを行使して蘇生薬を皆に配る事で、ダンジョンの産物としてそれを誤魔化した』と言いたいのだろう。



 しかしその想像は大外れだ……


 蘇生薬の入手場所などの詳細は知る由もない、そして僕には蘇生薬を配るメリットがそもそも何もないのだ。



 だがグラップの言葉が全て間違えているかと言うと……そうでもない……



 僕は箱系スキルを確かに持っている。


 しかし僕の箱系スキルは異質で、異世界の物が何故か届く変なスキルだ。

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