第911話「前途多難?認識の違いが生む技術の差」
薬師ギルドの資格は階級が金級から銅級まで3種類あり、それぞれに1位から4位まである。
4位はその階級に上がれた場合に使われる位だと言う。
そして薬師の等級は作れる物で表している。
実際の等級で言うと1級から12級まであり、4つ毎に金級・銀級・銅級資格が当てはまるそうだ。
なので薬師で銅級資格1位の場合、薬師等級は9等級になるらしい。
冒険者ギルドに沿って資格は用意されているが、薬師の場合作れる薬に依存する。
アマナもアルカンナも声を揃え『そこが重要』だと言う。
その説明を聞いている間に僕は試験会場である、製剤室へ到着する……
「今までの事で何か質問は?まぁ質問ができたらその都度ギルドにくれば良いだけだから、今無ければ無理に質問しなくての良いわよ?」
「あの……質問ですけど……中級薬師は全員金級扱いって事になるんですか?」
僕は長机に荷物を置きながらそう質問をする……すると全員が大爆笑する。
「えっと……ヒロさんが薬学知識ゼロなのはよく分かったわ。今は薬液を作る事に専念して頂戴?『モーリスお婆ちゃん』それで良いわね?」
アルカンナを『モーリスお婆ちゃん』とワザとらしく言っているアマナは、指で何やら僕を指しているのが見える。
そして口をパクパクさせているので、アルカンナに文句を言っているのだろう……
「すいません……もう一ついいですか?製剤の方法ですけど……自分らしくやっていいんですか?」
「自分らしく?って……どう言うことかしら?」
「僕の作り方は乳鉢や乳棒は使わないんです……だからこれを使うと上手く作れそうもないので……」
「くは………そ……そうなのね………。まぁ……初めてなら……そう言う人も居るかもしれないわね!まぁ作り方は個人的に乳鉢や乳棒を勧めますけど、自分専用の方法があるなら問題ないわ!」
そう言ったアマナは『他の受験者さんも、自分専用の方法があるならそうしてね!』と言う。
そして変な事を言った事が原因なのか、アマナが僕を見ることは無くなった。
◆◇
「はい!では定刻になりましたので、薬師ギルドの薬師免許試験を始めます!」
そう言ったアマナは壇上に上がると、試験内容を説明する。
「まず皆さんには基本となる『傷薬』を製薬して頂きます。薬液が出来るだけでも『薬師の可能性あり』と見做して、12等級を交付します。ですので『乳鉢や乳棒が使えない人でも』最低限は薬液作りを目指して下さい!良いですね?」
アマナの話す内容は特定の誰かを意味する言葉が多く、それが元で周りは僕を見て笑う。
この反応を見る限り、周囲の受験生は全員傷薬が作れるのだろう……
笑うからにはそれなりの実力があると踏んだ方がいい。
合格者が居るからには不合格者もいる筈だ。
今はディーナの解呪薬の素材を優先させねばならない。
余計な事に気を使わず、最低限薬師免許を取得しなければならない……と考えて僕は『ハッ!?』とする。
余計な事に気がついてしまったからだ。
僕はアルカンナに『薬素材はどの等級から買えるのか……』それを聞いていないのだ……
「先生!質問があります。各種素材はどの等級から買えるんでしょうか……」
「はい!良い質問ですが、ヒロさんは薬液を作る事に集中しましょう!それが出来ないと、そもそも素材は買えませんよ?」
「プッ!……プーー」
「ぶははは」
「お前は……何も聞いてないのか?ギルマスに今薬液作れって言われたばかりだろう?」
僕に話しかけた冒険者の格好をした男性は『仕方ねぇな……俺が教えてやるよ!素材は10等級からどの取扱い店でも買えるぜ!全くそんなことも知らない素人なのかよ!……俺に感謝しろよ?』と言って鼻で笑う。
若干言い方にカチンとくるが、この職種では常識なのかもしれないので僕が笑われても仕方がない。
しかし考え方を変えてみれば、思わぬところで情報が得られた事になる。
「成程!そうなんですか10等級か………。有難う御座います!知りませんでした」
僕は教えてくれた男へお礼を言う。
薬師の常識であれば、10等級だと知らない時点で大問題だ。
彼の言う通り僕は『素人』でしかない。
頭を下げてでも、その情報を貰えるなら御の字だ。
聞ける情報はどんどん今のうちに聞くべきだろう……テストが始まってからでは遅すぎるからだ。
しかし彼は、予想外の反応が返ってきたせいで余計に変な顔をした……
「く………なんだよ……冒険者風の格好をしてる癖に……普通に礼を言うなよ!突っかかってこねぇと調子狂うぜ」
「失礼ついでに……質問良いですか?10等級ってどうしたら貰えますか?」
「ヒロさん!その説明は今から私がしますので早まらないで下さいね?貴方は色々と焦りすぎですよー?」
アマナが僕の質問に割って入るが、声とは裏腹に目が笑っていない……僕は彼女を怒らせたようだ。
「今ヒロさんが質問していた等級ですが、薬液が作れて12等級と言いました。それから上の等級についてですが、傷薬製薬1本毎に等級が1上がります。しかし『薬師階級4位』即ち銀級資格4位と金級資格4位は、同時に2本分の薬液が作り出せる技術が必要です!」
それを聞いた僕は、試験内容の薄さに愕然とする……
周りを見るて全員が同じ感じだ……と思ったが、どうやら僕とは真逆の反応をしている様にも思える。
当然その答えは、アマナの口からすぐに語られた……
「皆さんの考え通り、同時製薬2本はハードルが高いです。ですが皆さん……より上級を目指して頑張りましょう!それが作れないと解毒薬や麻痺治しなど、高度な薬剤を作る時に多くの失敗で心が折れてしまいます!」
その言葉に僕は『タバサ達は全員金級扱いなのかなぁ……』と彼女達の事を思い出していた……
皆で作る時、彼女達は手作業なのため1本の製薬が関の山だったのは理解している。
しかし彼女達は修正値付きの傷薬を山の様に作り、周りに配布して大喜びされていた。
僕はその感謝のされ方にかなり異常だと感じていたが、どうやら間違えていたのは僕かもしれない……
周囲を見渡す限り全員が『銀級は流石に無理だ……』『どれだけの日数がかかるんだ!』とぼやいているからだ。
そのぼやきや表情を見て『今だ!』と思ったのか、アマナはニヤリと笑って条件を付け加え言い始めた……
「ちなみに、銀級を諦めかけている皆さんに朗報ですよ!実は修正値+1付きの傷薬を連続して2本作れる様になれば、目指している銀級確定です!そして+2で5等級が確定です!ですが……それができたからと言って慢心してはいけません。更に上の金級になるには、もっと難しい難関がありますからね!」
それを聞いた僕は、アルカンナにガッツポーズをしてしまう……
彼女が花弁を散らしていた時、言っていた言葉が今理解できたからだ。
するとそれを見たアマナは、イラッとした表情で僕を睨む……
「ヒロさん?何をふざけているんですか?ちゃんと私の話を聞いてます?……いいですか?私の説明をちゃんと聞かないなら、即刻退出して貰いますよ?」
「すいません……。つい朗報を聞いて……喜んでしまいました……」
そう言った瞬間、またもや大爆笑される。
ほぼ全員が『もう取った気で居るとか、彼は本当に呑気だ……』と、その様な事を言っている。
しかしアマナは『パンパン』と手を鳴らし、全員の緩んだ気を引き締める。
「はぁ……まぁ良いでしょう……やる気十分と見ておきます。では皆さん、製薬室後部にある薬草と薬瓶を見てください。試験開始と同時に、必要な物を自分の机に準備して下さい」
アマナはそう言った後に『試験定刻完了まで薬液を作れるだけ作ってください。尚、完成した薬液の瓶詰め作業は、試験終了後でも問題ありません。ちなみに!!完成した本数と薬液精度が、そのまま薬師免許に反映されますからね!』と説明をした。
そうアマナが説明をし終えると、またもや手を打ち鳴らす。
すると今度は、続々と薬師ギルドの職員が部屋に入ってきた。
「製薬した薬剤はちゃんとギルド職員が確かめます!不正防止も兼ねているので、製薬済みの薬剤を混ぜてもすぐ分かりますからね?」
そう注意を促したアマナは『それではテストを開始します!製剤猶予は3刻です。皆さん腕が動かなくなるまで、出来る限り多く薬液作りましょう!』と言って試験が開始した……
その言葉に僕は……『3刻?長すぎんだろう……MP回復薬の消費が……ヤベェ……』と吹き出してしまった。
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