第898話「危険な帝都……暴走娘が勢揃い?」


「……ウ……ウィンディア男爵家?何を言っておる……伯爵家の間違いだろう?あの貴族は聖女様を屋敷へお迎え出来る貴族達の一人だ……」



「……ヒロさんの知り合いって……まさかウィンディア伯爵だったの?ならヒロさんも聖女様の知り合いって事よね?ちょっとその事実って……凄くない!?」



「え?聖女様の?そもそも聖女様って?……誰?」



「「「ミミ様に決まってるでしょう!?」」」



 三人の声が被るが、耳を疑う内容につい吹き出してしまう……



「ミ……ミミ様?あの暴走娘が聖女!?……」



 そう言った途端、アサヒとアユニの蹴りが脛に炸裂する。



『ゲシゲシゲシ!!』



「!?……イテェ!!ちょっと何するんですか!脛がめっちゃ痛い!!」



「脛が痛いじゃないです!!聖女ミミ様を暴走娘って!!何処の誰と勘違いしてるんですか!!幼馴染で巫女のカーデル様なら、まだそのセリフも分かりますが!ヒロさんは駄目です!!」



「そうですよ!!アサヒちゃんの言う通りです!!水の精霊様の友で有り、水魔法の使い手……あの今はダンジョンに沈み無くなってしまった、水鏡村の最後の巫女の一人にして最高位巫女である舞姫様ですよ!?」



 そう言ったアサヒとアユニは『ヒロさんでも流石に不謹慎です!!』と大激怒する。


 そして騎士団長とマナカも、僕の『暴走娘ミミ』の発言を聞いて怒っている。



 しかし僕とすれば暴走娘である事は変わらない……


 たった2年にも満たない期間に、ミミに何があったのだろう?と聞きたくすらなる。



「す……すいません!名前が知り合いと似てたので………それに……何故聖女様は帝国に来れるんですか?王国貴族は禁止ですし、そもそも通行止めですよね?」



「「「「「聖女様であり、水の巫女様だからでしょう!?」」」」」



「全く何言ってるんですか!」


「アサヒ、私達でもう一回蹴るしかないかもです!」



「ちょっと!!そんな蹴らないで下さいよ!誰だって知らない事くらいあるでしょうに!!」



「「「「「常識ですよ!?」」」」」



 騎士団長だけで無く、馬車の外で並走する騎兵長まで加わる始末で、皆の圧力が酷い……


 巫女だから封鎖を掻い潜れるとはどう言う事だろう………それを聞きたいが、今聞くには圧倒的に宜しくない。



 言葉選びに失敗した所為で、僕の心象は地面スレスレに落ちてしまった様だ。


 そして既に皆は『聖女が帝都にいる』と言う事実で浮き足立っていた。



「まさかウィンディア伯爵家が、聖女様を同行させて帝都に来ていようとは……あの馬車の山はそれを前もって調べていた貴族で間違いが無いな……」



「もしかしたら……精霊使い様も同行して来ているかもしれませんよ?一緒にいる事が多いって聞いた事が有りますから!」



 その言葉に僕はつい反応する……



「え?水の精霊を扱うんですよね?ならミミって聖女様も精霊使いでは?」



「水の精霊を友としてって私言いましたよね?蹴られたいんですか?精霊使い様は、火の精霊フランム様を友としている『カナミ様』に決まってるでしょう?」



「カナミ様?え?火の精霊フランムって火の双姫、精霊フランメの姉妹の事ですか?……フランムって確かミミが………」



 僕は何となく聞き覚えのある『カナミ』と言う名前に頭を悩ますも、フランムの事は記憶に新しい。


 暴走娘が引き取った筈だ……と更に混乱する。



「そのヒロさんの知り合いの方のミミって人がフランム様と契約を?そんな筈ないでしょう!!現にカナミ様はフランム様を伴って何度も、凶悪な魔物を排除してるんですよ?」


 すごい剣幕で怒り始めるマナカを、今度はアサヒとアユニが宥める。



「ヒロさん!言葉に気をつけて!マナカさんはカナミ様を慕って『ウォーダンサー』を目指してるんです!」


「そうです!!あのカナミ様の踊る様な剣戟……通り抜けるだけで魔物が焼き払われるんです!あれを見たら誰だって憧れます!!」



 まるで恋する乙女の様な目をするマナカを目に前に『今質問したらヤバいことになる』と、僕の第六感が必死に訴えかけている。



「な……なら早く帝都に行った方がいいですね!もしかしたら皆さん、その憧れの人達に会えるかもしれませんからね!」



 僕はそう言った後『絶対に行動を共にはできない』と確信する。


 もしミミがあのミミのままならば、僕は危険な事になる。


 『帝国に勝手に入り込んだ王国貴族』という事になり、何らかの処分は間違いが無いだろう。



 ミミの聖女の地位を利用して、事なきを得る事はできる可能性があるが、それは絶対では無い。


 僕は絶対にミミ達へ近寄らないことを決める。



「帝都でミミ様に拝謁できても、ヒロ殿は今回我々と同行されない方が良いかもしれませんな?何故ならウィンディア伯爵家と知り合いと分かれば、帝都内で要らぬ調査に合いますから……」



 唐突に騎士団長からそう言い放たれる……僕は『それって……取り調べって事ですよね?何故ですか?』と聞いてみる。



「ミミ様やカナミ様は『現役の冒険者』なのですよ。だから国境の移動にも問題は無いのです。ですが移動に王国貴族が関わっている以上、問題は付き纏います」



 そう言った騎士団長は、僕がそこに加わりウィンディア家と懇意にしていると分かれば、王国との繋がりで騎士団や番兵の要らぬ取り調べに発展すると教えてくれた。



 蘇生薬を提供してくれた以上、騎士団長としては要らぬ感情を持って欲しく無いのだろう。


 下手すれば『蘇生薬』を手に入れられる数が減るかもしれないのだから、それも当然だろう。



「大丈夫です!僕は帝都でやる事があるんです。ディーナさんの呪いを解くための薬の素材を探し歩かないといけないので……」



「そうでしたか!要らぬ心配でしたね!一応帝都での詳細調査は2日間の予定です。2日で聞き取り全てを終わらせ、3日目の朝馬車を手配して、コールドレインの街には夜までには帰れる予定です」



 そう説明をしてくれた騎士団長は『聖女様達を探していたら猶予が2日しか無いので、素材を探し歩くのはなかなか困難だ……』と遠回しに言ってくれている様だ。



「有難う御座います!ヴァイスさん……もし良ければ素材を扱っている店を幾つか紹介して貰えませんか?買い歩く必要があるので……あと出来れば僕への調査は一番最初か一番最後にして頂きたいんです」



 そう言ってから、『探し歩くのを最優先にしたい、僕が話す内容は既に馬車の中で話したので、二度同じことを言う事になる』と付け加える。



 僕は帝都でやる事を優先したいので、他の話が始まる前にダンジョンで起きた事も全て包み隠さず説明した。


 突如として蘇生薬を手に入れた際の事全てを話したので、騎士団長は揺れる馬車内で羊皮紙に書き留めるのには、相当苦労していた。



「ええ……何となくそんな事になる気はしてました。取り調べでは無いので大丈夫です。他の人の情報を擦り合わせて、聞きたい事があればヒロ殿には聞く事になる筈です」



 そう言った騎士団長は『到着したら、手伝いとして騎士見習いを同行させます。店に案内はその者にさせましょう!』と言ってくれた。

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