第899話「王国からの馬車」


「お帰りなさいませ、ヴァイス騎士団長様!詳細は伝書鳩にて全て把握済みです!どうぞお通り下さい」



 門兵は堅苦しい挨拶をした後、そう言って通行許可を出した。


 相手が騎士団長だと分かった途端、通用門から騎士団専用門へ案内されたが、その対応は統制が取れていて非常にスムーズだった。


 そのお陰で城門前で待つ時間は余り無かった。



「うむ!所で門兵よ……この馬車はもしや聖女様一行か?」



「ハイ!そうであります!!聖女ミミ様、火焔姫カナミ様、癒しの御使シャイン様、巫女カーデル様……そして護衛としてファイアフォックスの銀級冒険者数名が同行しております!」



「何!そんな面々が今この帝都に?通りで馬車が多い訳だ……それで?あの馬車は王国貴族ウィンディア伯爵家のエンブレムだが?ウィンディア伯爵は同行しておらんのか?」



「はい!この馬車の扱いは懇意にされている証との事で、聖女ミミ様の移動の為に用意された様です。通行証明がここに御座います!」



 門兵がそう言ったあと、帝国エンブレムの印が押された通行証明を騎士団長へ見せる。


 そして『馬車は帝都に入れられないので外起き中です。皆様は帝国馬車に乗り換えていただきました』と言った。


 間違いなく帝都民へのご機嫌取りだろう……。



「うむ……問題は無い様だな……それで聖女様は何用で帝国へ?」



「ハ!それが……ある冒険者を捜してとの事です」



「あ……ある冒険者?何と言う者だ?」



 そう言った団長は側にいた僕をチラリと見る……


 先程の件があるので僕を見ている様だ。



「そ……それが……例の件でございまして……聖女様のお師匠様と言う事です……」



「な……何!?あの大魔導師様が帝国に居るのか!?何と言う事だ………それで名前は?」



「それが……例の事件で……申し上げられないとの事です………」



「そうか……まぁそれも仕方ない……。既に数百人も『自称、聖女ミミの師』と言うものが帝国の牢に繋がれているからな……」



「そうなのであります……。ミミ様も噂の『ヒロなる者など知らない』と申されておりましたので……やはり王国貴族のガセネタだった様です」



「む!?そう言えば……ヒロだったな……聖女ミミ様のお師匠様は………」



 そう言って騎士団長は僕をまじまじとみる


 僕は何気無く外を見るふりをして、目を逸らす……



「噂では確か……範囲系水魔法を使い、風魔法も使うとか。その上反対属性の土魔法も使い?魔法使いではなく、サモナーなのだろう?そして伝説の龍と知り合いだとか…………本当にそんな馬鹿げた冒険者が居るわけもなかろうに……なぁ門兵!」



 しかしそれを聞いた門兵は、大笑いを始める……


「はっはっは!その通りであります!ですがサモナーではなく、テイマーでしたぞ?物凄く強いスライムを連れているとか……あと噂では、あの伝説の火龍ゼフィランサスと緑龍エーデルワイスの主で、王国爵位を持つそうですよ?」



 そう言った騎士団長と門兵の言葉で、アユニとアサヒは目を逸らしたまま僕の脛に回復魔法をかけ始める。



「門兵よ……聖女様はその噂を?」



「いえいえ!そんな馬鹿げた内容など、聖女様に聞けるはずもありません!……回復魔法を皇帝陛下にかけに行くそうですので、要らぬ問題は避けなければ……」



「そうか!皇帝陛下にあの方々が回復魔法を!!少しでも体力が回復できれば良いのだがな……。因みに聖女様といえども、状態回復系魔法は出来んのだろう?」



「はい……実は出しゃばりましたが、それを尋ねさせていただきました。ですが……残念ですが……無理とにの事です」




 そう言った門兵は『巫女カーデル様の話では、水鏡村の神殿があれば増幅魔法が出来たそうです。それがあれば皇帝陛下の呪いは解呪できたと……』と付け加えた……



「な!?何だと!!では……水鏡村のダンジョン攻略をすれば陛下は治るではないか!」



「問題は火龍ゼフィランサスと緑龍エーデルワイスの件ですね……未だに王国は認めませんから……」



「まぁ認めても、帝国にそれに反撃する戦力は無い……」



 そう憤慨した騎士団長は『だから帝国は、巨人族との交流をもっと増やすべきだったのだ!まぁここで話してても仕方ないな……すまんな門兵よ……』と言うと、門兵は苦笑いをする。



「いえ!私もそう思ってます。あの巨人族の勢力があれば、他の国も我等の帝国に攻め入ろうなどとは思いもしないでしょうし……非常に残念です……」



 門兵とそう話した騎士団長は、『魔物にウィンディア伯爵家の馬車が壊されない様、管理だけはする様に』と言いつけ、帝都の中に馬車を進める。



「すまんな……話が長引いてしまった」


「いえいえ!眺めるには時間が足らないくらいでしたし!」



 僕のその言葉に団長は『わっはっはっは』と声をあげて笑う。


 しかしアユニとアサヒはその間………『絶対その人に心当たりある………』『今までにあったヤバい、ダントツ一位の人……だよね?』と凄く小さい声で言っていた。


 そしてマナカは『目の前の人しか心当たりないけどね?』と言って、脛を蹴ったアユニとアサヒを追い込んでいた。



 そうこうしていると馬車は市街地を通り抜け、城の城門を越えた後に巨大な騎士像がある建物の前で止まった……



「ここが帝国騎士団の本拠地です!皆様には順番に質問をさせて頂きますが、まずは客人として迎え入れますので旅の疲れを癒してください」



 騎士団長がそう言うと、すぐに城内からメイド達が駆け付ける。


「長い馬車旅お疲れ様でした。貴重な品を帝国へ献上して頂いたとか……どうぞごゆるりとして下さいませ!食事の準備とお風呂の準備、そしてお着替えの準備をさせて頂きましたので此方へどうぞ!」



 どうやらメイドでも、それなりに役職が上の人なのだろう……そう言って僕達を誘導する。



「ヒロ殿!ひとまず1刻半後に部下を部屋に行かせますので、それまではゆっくりして下さい!では皆さん後程!私はこの財宝を宮廷魔導院へ届けます故、ここで一旦失礼致します」


「はい!わかりました。では後程……」



 ほぼ強制的にそうせざるを得ない状態になった僕達は、メイド達の後を着いていく。



 ◆◇



『コンコン』



「ヒロさん居ますか?アユニです!」


「あとアサヒです!」



 僕たちは風呂を済ませ食事を終えてから2日間泊まる部屋を案内された。


 贅沢を尽くした作りだが、居心地は非常に悪い。


 無駄に沈む布団に首が落ち着かない枕……もはやソファーで寝た方が良く寝られそうだ。



 そう思っていたらアサヒとアユニがなぜか部屋に来た……



「開いてるよ?どうぞ入ってー」



「間の抜けた声ですね………。それでお師匠様……ミミ様とはどういう仲なので?」


「ちょっと!アユニちゃん!………ダイレクト過ぎない?」



 唐突に質問されたが、変に遠回りじゃ無いのはアユニらしい。



「え?勘違いだったって話したじゃないか……脛を2回も蹴られたし……」



「だってまさか本当に噂のヒロさんだとは思わなかったですもん!あの人が存在するとも……」


「アユニの言う通りです!!あの門番さんがミミ様のお師匠様の特徴を言わなかったら、擦り合わせが出来ませんでしたよ!」



 そう説明した二人に『マナカは?部屋にいるの?』と聞くと、『サザンクロスの一件で相当消耗した様で死んだ様に寝ている』と言っていた。


 説明するにも何処から説明したら良いかもわからない。


 そして細かい事情は話すと面倒だ……と思うので、少しはぐらかす事にした。

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