第890話「異世界の技術とメルルの好奇心」
ガルムは去り際に注意を促してくれた……
僕が面倒に巻き込まれない様に、彼なりに色々と気を回してくれている様だ。
「ヒロ……お前は飯食ったらギルドに来るんじゃろう?あのマガワーマには気をつけろよ?まだ暗い内から、お前の姿を捜しておったからな?」
「ガルムさん、有難う御座います!さっさと馬車に乗って隠れときます……」
「ああ!そうする方がいいぞ?また何か頼まれても困るじゃろう?新しい宝箱とかな?ガハハハハハ……」
豪快にガルムは笑うと、騎士団長の後を追ってモルダーの居る牛鬼組へ走っていった。
「なんか……いつの間にか知り合いが沢山ですね?この間まで寝床を探していた人とは思えませんよ?」
「この間と言っても数日前ですよ?……まだ一月も経ってませんから!」
「え!?あらやだ……考えてみると……まだ5日!?……なんかずっと居る気分だわ……」
「お母さん!メルルもそう思うよ?お兄ちゃんとはずっと話してる感じがする……ハムハムハム……」
メルルも必死に朝ごはんを口に詰め込む。
そして喉に詰まらせつつ食べながら、僕の皿の上のおかずも奪って行く……
「こら!もう……ヒロさんのを食べちゃ駄目でしょう?私のにしなさい!」
「ああ……いいんですよ?まだ育ち盛りですから!メルルちゃんは………ちゃんと食べておかないと!それに僕が帝都に行っていなくなった途端、ディーナさんご飯の回数減らしそうだし……」
「と……当然です!一日3食なんて食事回数は貴族様ですよ?本来スラムに住む私達は、1日1回でも食事は多いんですから!毎日食べれて野菜スープが関の山です!」
「ちゃんと食べてくださいね?じゃないと栄養失調で倒れますよ?薬ができる前に……」
「!!……お兄ちゃん!薬作れるの!?いつ?いつ作るの?……お薬作りに帝都に行くの?材料買いに?」
僕はメルルの言葉に『ハッ!!』とする……
『そうか……帝都なら……材料全部買えるんじゃ……』僕はそう思うとディーナさんへ興奮気味で話す……
「ディーナさん!」
「は……はい!?」
「帝都!!帝都ですよ!!」
「え?帝都?行くんですよね?今日から数日……」
「いやいやいや……材料が売ってるんじゃないかって事ですよ!帝都なら大きいでしょう?この街より!!」
「え……あ!!あああ!!……いえいえ……そんなお金が何処に?……あ!……ラビットの皮代金!!……」
「いやいや……金貨なら1000枚以上ありますから!……そんな事より!必要な材料が買える可能性が大きいんですよ!この街では買えなかった材料が、向こうでは普通に売ってるかも知れません!」
僕はそう言うと、必要な物が書いてある羊皮紙をディーナに持って来させる……
『パシャ!パシャ!』
「お……お兄ちゃん……何してるの?」
「うん?これ?これは写真に撮っておくんだよ……。羊皮紙を持って歩いて、万が一無くしたら困るでしょう?パパの手書きのお手紙だから!だから、大元はメルルちゃんのママに渡しておいて、僕はコピーを持っておくんだ……」
「シャシン?……コピー?…………メルル……分かんないその言葉……お母さん何かな?」
その発言にまたもやハッとする……
そして恐る恐るディーナを見ると、彼女は目玉をひん剥いてスマホを凝視していた……
「ねぇ、お兄ちゃん。いつお薬を作るの?今日?ねぇ今日?……今日作りなよ!メルルお手伝いなんでもするよ?」
僕はメルルの言葉に、目の前ですぐにでも作ってあげたい衝動に駆られる。
だが、そもそも万能薬を作るには材料とそれなりの経験値が必要だ。
それに目の前で失敗し続ければ、流石にディーナの気持ちも沈むだろう。
「メルルちゃん。今話してたんだけど、帝都に行けばその材料が売ってる可能性が大きいんだ」
「そうよメルル!だからヒロのお兄ちゃんは、今日から帝都に出かけて見つけたら買って帰るって話をしてたのよ?だからメルルは大人しくなってましょうね?」
母親ディーナの言葉を聞いたメルルは急に立ち上がると、僕の手を取り引っ張る……
「じゃあお兄ちゃん、早く行って!!それで早く買って帰ってきてよ!」
「こら!メルル……追い出す様な事をしないの!!」
早く薬を作ってほしいメルルは、話を理解した途端、僕を追い出しにかかる。
しかしその話をしていると、タイミングを図っていたかの様に、モルダーが飛び込んでくる……
「ヒロの旦那!まだ家にいるんすか?騎士団一行はもう出るって言ってますぜ?」
その言葉に僕は、『先程騎士団の団長が、モルダーの所に向かった筈では?』と質問をする。
「ああ!ヒロの旦那には修正値付きの武器の束を、騎士団へ売ってくれるかの確認だけだった様ですぜ?」
「え!?って事はモルダーさんの所に帰ったわけでは無いんですか?」
僕がそうモルダーに話すと、木戸の前に人の気配を感じる……
相当急いで走ってきたのだろう……息を整えている様だ。
『コンコン……コンコン……』
「失礼しますディーナさん!!アユニです。家に……ヒロさん居ますか?ああ居た!!何してるんですか?皆待ってますよ!」
「え?昨日のドドムさんの報告をして、ディーナさんが食事を用意してくれたので……それを食べてました。」
「相変わらず呑気に………。実はですね……もう街を出るから、ヒロさんを今すぐ呼んで来てって王国騎士団の団長さんが……」
「ああ!ほら……言ったこっちゃない!旦那……俺の言った通りでしょう?」
モルダーさえも呆れた顔で僕を見る……
僕は少し残ったスープを飲み干そうと手をお椀に伸ばすも、メルルに奪われる……
「これは私が飲んでおくから、お兄ちゃんは早くお城の方に行って!!」
そう言ってメルルは、美味しそうに残ったスープを飲み干してしまう。
早く素材を買いに帝都に行ってほしいのか、それともただ単に残ったスープを狙っていただけなのか……
それともその両方を強かに狙っていたのか若干疑問が残るが、今はそんな話で笑っている場合ではなさそうだ。
「ほら、早く行きますよ!メルルちゃんが食べてくれたんだから、早く行きましょう?私……馬に乗れないんですから!馬車がいいです!!」
僕とアユニは急いでギルド前まで走って行く……食べたばかりなので横っ腹が非常に痛い。
ステータス補助など異世界特有なものがあるにもかかわらず、突然身体に起きる普通の現象に戸惑いも起きる。
ギルド前まで来て、一番避ける相手に出会してしまう……マガワーマとその騎士団だ。
あれだけ『注意しておくべきだ』と、忠告を受けたにもかかわらずだ。
だが朝が早いせいか、それとも居残りを食らったのか……それは分からないが、あの出来の悪い息子は居ない様だ。
「やっと来たか……。伯爵の私より遅く来るとは……大物なのかそれとも大馬鹿なのか……。何はともあれメンツは揃ったんだろう?王国騎士団達よ。早く帝都へ!いや……国王陛下の元へ行くぞ!」
マガワーマが首を出す馬車は、王国騎士団が用意した馬車に横付けされている……
何が何でも一緒に行く気なのだろう。
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