第891話「帝都への道」
コーチと呼ばれる種類の馬車の天井には、豪華な宝箱がくくりつけられている……
「おお!流石ヒロだな!気がついたか?財宝は持ち帰れたが、入れる箱が無いのでは流石に見栄えが悪かろう?だから我が屋敷にあった一番豪華な箱に入れて献上する予定だ……問題は宝が収まらないんだがどうしたものか……」
「それなら開けたまま、山盛りに盛って献上したらどうでしょう?沢山の財宝だと一目でわかりますし……」
「ほう……開けたままか………うむ……それは良いな!他の貴族がやらない手法だ!くっくっく……流石、私が見込んだ坊主だ。待ってた甲斐があったぞ!」
「そ……それは良かった……でもどうやら僕のせいで予定が押しているらしいんです。急ぎますので……では!」
僕はマガワーマ伯爵の話をバッサリと終わらせると、馬車の御者補助席に飛び乗る。
「ヒ……ヒロ殿?何故そこに?そこは……補助席ですぞ?本来そこは控え騎士が乗ります………。中に乗って頂けると助かるんですが……」
「えっと……移動中に敵も出るんですよね?魔法を撃つのに此処だと視界が開けてていいので……」
見送りに来ていたガルムは『ガハハハハハ』と大笑いをしているが、騎士団は笑い事では無い様だ……
見るに見かねたアサヒは僕に……『え?……ヒロさん……戦う気満々なんですか?』と言うので、『全力疾走するなら、早めに敵を撃退する方が良いでしょう?帝都にそれだけ早く着きますし……』と言う。
すると、呆れて笑っていたガルムが、見かねて口を開く……
「阿呆はどこまで行っても発想が阿呆だな……。良いかヒロ?帝都までは渓谷を通るんじゃ!全力疾走なんぞ出来るわけあるまいし、そもそも後続が全力疾走できるわけなかろう?」
「そうだぜ?前を走る馬車に何かがあったら、後続の馬車は上に乗り上げちまう……想像できないのか?」
「レック……アンタくらいヒロは馬鹿だったって事だね?良かったね?馬鹿仲間だよ?」
レイラの言葉は非常に辛辣だ……
「まぁ言っても無駄じゃろう……おい!騎士団長戦力としては十二分じゃ!その坊主はやりたい様にやらせとけ!」
ガルムの一言をきっかけに、騎士団の団員達も理解した様で持ち場の変更を開始した。
そしてすぐに騎士団長の号令が始まる……
「いいか?何があっても、蘇生薬を提供した冒険者達を帝都へ連れて行くのが我々の役目だ。では行くぞ!騎兵長、後の指示はお前がしろ!」
騎士団長に促される様に、一際豪華な鎧に身を包んだ騎兵が前に進み出て、指示を飛ばす……
「騎兵整列!敵は騎兵にて各個殲滅。戦闘負傷者及び離脱者は残念だが、その場に捨てて行く!騎士団員はそのつもりでいろ!」
「「「「ハッ!」」」」
◆◇
「あ……あそこを通るんですか?……馬車が通れるギリギリの幅じゃ無いですか………」
街を出るとそこからは少し田園風景が続きもう少し馬車を走らせると平野が見えた。
しかしその風景もすぐに姿を変えて、断崖絶壁が見える渓谷になった……
なんの前触れも無く唐突にその装いを変える様に、流石は異世界だと感じる。
因みにアユニが叫ぶのも無理はない………
馬車が向かう先は、馬車がすれ違う事も出来ない細い道だ。
もし落石などがあったら、馬車なんかは簡単に押し潰されてしまうだろう……
しかし危険は落石だけではない様だ……突然騎士の一人が叫び声をあげる……
「騎兵隊敵に注意せよ!各方向から敵反応多数……上空からくるぞ!」
騎兵長の言葉に、騎兵隊が声を上げる……
「ロック・ハーピー3個体飛来を右上空から目視で確認!今日はやたらに多いぞ!」
「ウォーター・アロー!」
「え!?…………ま……魔法!?な!?誰が魔法を?………騎兵長!………ハーピーが……い……今……撃ち落とされました………」
「そんなのは見ればわかる!決して気を抜く……」
「ウォーター・アロー!」
「ウォーター・アロー!」
「ウォーター・アロー!」
「ウォーター・アロー!」
騎兵長は、馬車護衛のため真横に馬を寄せている。
的確な指示を出す為に、うまく手綱を操りつつも周囲を索敵するが、注意喚起の最中にまたもやアユニが呪文を行使する……
誰よりも早く行動に移す、アユニの正確無比な対応に、騎兵長は流石に言葉を失った……
「4車両目報告!………ハーピー……二匹とも魔法にて全滅です……」
「2車両目、被害報告です……怪我人居ません……ハーピーは逃げていきました!!……」
その報告を受けて、騎兵長は馬車の中のアユニを凝視する……
しかし当のアユニは、馬車の中で不満げな顔をしてた。
「ああ……鬱陶しい……ヒロさんが外にいる理由わかりました!馬車の中って、魔物を狙い撃つのに天井が非常に邪魔です!」
「アユニさんの魔法のお師匠は……ヒロ殿なのか……どうりで………」
僕の代わりに馬車の中で座っている騎士団長が、アユニを見てそう呟いた……
しかしアユニは、騎士団長の視線など気にも止めず、マナカとアサヒに向けて話を続ける……
「……私もヒロさんみたいに外に出ようかしら……天井の上に乗ったら撃ちやすそうね……行って来てもいい?アサヒちゃん?」
「はぁ!?……ダメに決まってるでしょう?アユニ……貴女ってば、だんだん発想がヒロさんに寄ってきてるわよ?マサカもそう思うわよね?」
「って言うか……アユニは馬車後ろの小窓から魔物を狙うの辞めなさいよ!貴女が魔法を撃つ度に、後ろの馬車の御者さんが手綱を落としそうになって……馬車があらぬ方向に行かないか……こっちは見てて怖いのよ!」
「マナカ!そんな事言っても、放っておけば被害が出るんでしょう?飛んでる敵は剣で対応するのが大変だって、さっき騎兵さん言ってたじゃ無い!」
「「そんなのは、外にいるヒロさんに任せておけばいい!!」」
マナカとアサヒの声は見事に被る……声が大きいので割と全て聞こえているのだが、敢えて僕は会話に混ざらない。
何故ならば、僕は防衛の全てを騎士団に任せて、飛来するハーピーを一匹も倒していないのだ……
しかし馬車内部に居る騎士団長は、その言葉に冷や汗を拭う……
そして……『君達はあの薬を手に入れるだけあるな……下手な騎士より肝が据わってる!男勝りの女性は、帝国騎士団とすれば是非抱えたいな!』とアユニに言う。
すると彼女はお淑やかに座り始め、何事もなかったかの様に窓の外を眺める……
「ア……アユニ?どうしたのよ突然?何借り物の猫みたいに……」
「え!?だって……このままじゃ……騎士団長さんに帝都で変な噂出されかねないじゃない!」
アユニはそう言った後、聞こえ辛い声でボソボソと『お嫁に行きそびれたら……それこそ悲惨な老後を迎えちゃう……そんなのは絶対嫌よ!!』と言った。
騎士団長はボソボソと話すその言葉を聞き取りながら、呆れ顔で騎士団に指示を出す。
「おい!騎兵隊……もう魔法は期待出来んからな!魔物が来たら魔法に任せようとするな!いいか?絶対に手を抜くなよ!!」
そんなやり取りがありつつ、馬車は細い渓谷の道を結構なスピードで走っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。