第889話「探索報告とディーナの気持ち」


「じゃあ……ヒロの旦那……本当に俺の預かりで良いんすね?……って……マナカ嬢もアサヒ嬢もアユニ嬢もですかい?マジっすか?」



 僕はモルダーの仕事へ投資する為に、得た財宝を全て渡す。



 当然得た売上はいずれ僕の元へ帰ってくるが、魔法契約も結んでないので世間知らずと言われかねない行動だ。


 その理由はハリスコの事もあるが、ぶっちゃけてしまうと、得た宝はゴミばかりだ。



 そして三人娘も同じで、得た宝は自分が使わないものしかなかった。


 渡した財宝目録は全部モルダーの方で管理して、複写した物を渡すと言ってくれたので、それは彼を信用して全て任せることにした。



「すんません……スカリーの事だけで無く……何から何まで……」



 そう言ったモルダーは男泣きを見せる……



「三人のことは今日から姉さんと呼ばせて頂きます!!このモルダー汗水垂らして、しっかり働かせて頂きますので!今後とも可愛がってください。おねげぇします!!姉さん方!!」



「あ……圧が凄いんですけど……えっと……アサヒちゃん……にパス……」



「姉さん言われても……歳下です………って事で………マナカちゃんにパス……」



「パスは断じてお断りいたします!扱い慣れてる大親分のヒロさんへお願いします!!」



「「そうだったーーー!!」」


 若干眠さで変なスイッチが入っている三人に僕は『もう帝都へ出る準備したほうがいいですよ?今寝たら三人は夜まで寝そうですから……僕はディーナさんへ報告してから、ここへまた戻ってきますので……』と言っておく。



 スマホをチラ見すると、既に時間は5時を回っている……


 悲しい事にあまり身入りのない徹夜だ。



 僕は「じゃあ行ってきます!」と言うと、ギルドを後にする……



 ◆◇



「おはようございます………」



「ヒロさん?今何時だと思っているんですか?朝帰りなんて………ちょ……その装備の傷……如何したんですか?ま……まさか階層主と?」



「ああ……えっと……まぁそんな所です……実はかなり問題がありまして……」



 僕はディーナの家に向かうと既に彼女は朝食の用意をしていた。


 奥の机には、僕が食べていない夕食が置かれている。


 そして机の目の前に布団が敷かれていて、その布団でメルルがくるまって寝ている。



 どうやら二人とも心配していた様だ。



「ディーナさん……ドドムさんの行方ですが……」



「あ……あの人……死んでましたか?……う……うぅ……」



「いえ……そうじゃなくて……他所のダンジョンに遠征に行った様です……」



「他所のダンジョン?……え?どういう事ですか?そんな……他所のダンジョンだなんて……誰とですか?」



 矢継ぎ早に質問を重ねるディーナに、僕は悩みつつ全てを話す。


 今ならメルルも寝ているから、危険な場所に向かった話をするにはもってこいだからだ……



「…………20日分の?……それが羊皮紙ですか?………確かにあの人の筆跡です。万能薬で良いのに……何故秘薬に固執して……」



「多分ですが……もう試したのでは無いでしょうか?」



 僕は帰る間にそれをずっと考えていた……


 彼はレシピを大事に持っていて、そのレシピをギルドかディーナさんへ届けようとした……



 ならば何故か……一つ目の理由に『知り合いに頼んだができなかった』、二つ目の理由に『裏切られた』そのくらいが思い当たったのだ。


 裏切られたのであれば、レシピが彼の手にあるのはおかしい……


 ならば、『頼んだ結果作れなかった』この解答が一番しっくりくるのだ……



 薬師はレシピを知っていても確実に作れる保証はない。


 薬草を何度もすり潰した結果『薬師』というスキルを得たのだ……


 ならば間違いなく反復して製薬する必要がある。



「薬師のスキルは反復練習が必要です。それでやっと傷薬です……ですから万能薬を作るには凄い時間が必要なのでは無いでしょうか?」



「でも!!ギルドに頼れば、誰かが作れるかも知れないじゃないですか!」



「う……ん……お母さん?……もう朝なの?」



「あ……メルルまだ日が昇ってないわ………。お母さんは、ご飯作らないといけないから起きたのよ。もうちょっと寝てなさい……」



「う……ん……『すぴー』……」



 ディーナはつい気が昂り、大きな声を出してしまった様だ。


 その声に反応してメルルが起きたが、寝つきがいい様ですぐに寝静まる……



「すいません声を荒げて……つい……」



「いえ……良いんです……気持ちは分かります。ですが秘薬に拘る理由があるからこそ向かった筈です。自分の為にでは無いのは確かですから……」



「でも……娘が……私が死んだら……あの子は一人に………」



「大丈夫ですよ!ディーナさんは死なないし、旦那さんもまだ探す場所ができただけでしょう?食材は持ってるんです!20日分も……」



「でも……」


「それに僕……『薬師スキル』持ってますし……材料集めてゴリ押しで作る予定ですから!まぁ何とかなりますよ……」



「!?……ヒロさんそんな嘘つかなくても……」



 僕はディーナに一本の傷薬を渡す。



「ディーナさん元銀級冒険者ですよね?これが何かわかりますか?」



「え?傷ぐ………え?……修正付き……1………いや2でも無いし………3!?………+3傷薬!?………」



「答えは4です……これで……信じて貰えました?」



 僕は傷薬を使って回復しつつ、奇妙な魔物を退治したことを話す……そしてその先にフローゲルの遺体があった事も……。


 ディーナはそれを聞いて、泣くのを辞めた……



「私も負けずに生きないと駄目ですね!……呪いだの病気だの……負けてられない……。あの人は今でも一人で戦ってるんだから……」



「そうですよ!まだやれる事は沢山あるんです。諦めなければ希望はありますから」



 そう言ってから、僕は朝日が登った後に数日帝都に行く事を話す………


 少しでも不安を拭い去ってから伝えたかったからだ。



 ◆◇



「早朝に申し訳ない……ヒロ殿は御在宅かな?」



 話を大方終えて、帝都行きの話をしてから食事をしていたら、扉の外からノックの後に声がした……


 騎士団団長の様だ……ガルムの笑い声も聞こえるので、どうやら一緒にいる様だ。



「どうぞどうぞ……汚く狭い家ですが……」



 ディーナが木戸を開けて、帝国騎士団長を僕の前へ通す……


 僕は急いで口の中にある物を飲み込むが、急に来たので朝食を勧めるべきか悩んでしまう。



 しかし食費払っていても、朝食の量を作っていないかも知れないので、勧めずに内容を聞く事にした。



「ああ……すいません。今ご飯中でして……すぐにギルドに行きます。それか……先に帝都に行って貰ってても平気です。馬でも借りて、すぐ追いかけますから!」



「いえいえ……その要件では無いのです。実はモルダーの牛鬼組に卸した武器の件です。ガルムさんに事情を聞いて、拝見したのですが、どれも素晴らしくて……全部買い取りたくてご連絡を……」



「ああ!昨日の武具ですか?全然構いませんよ?僕は使わないので、モルダーさんさえ良ければ」



「一応購買は全て任されてると、モルダー自身が言っていたので問題は無いと思うのですが……。実は騎士団用に持って帰りたいのですよ……ですが武器は少しでも冒険者の為に……と言う感じであれば持って帰れないと思った次第でして……」



「ああ!なるほど!また集めてきますから問題ないですよ?ただ、値段についても全てお任せ中なので……話はモルダーさんへして貰えると助かります」



 僕がそう言うと騎士団長は『じゃあ早速行ってきます!』と言って、ディーナの家を後にした……



 どうやら本当に、武器の詳細を聞きに来たようだ。

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