第884話「謎の遺体と残された伝言」


「あれ?………皆さん!此処の壁に何か書いてありますよ?」



 そう呟いたアサヒは、書いてある文字を読み上げる……



「偉大なる魔道士を父と祖父に持つ、ミクシー・フローゲル……此処に眠る」



「ミクシー・フローゲル?街じゃ知らん名前じゃな……親は魔導士なのか?何か知ってるか?ペム……」



「儂が知ってるフローゲルと言うのは、帝都に居る魔道士だけじゃ。じゃが……儂が知るフローゲルは、遥か昔の偉人じゃぞ?昔は気狂い呼ばわりされていたがな?」



 そう言ったペムは、フローゲルと言う人物について皆に説明した……


 どうやら魔導師であるペムは、フローゲルと言う帝都にいた魔道士について、聞き齧ったことがある様だ。



「おいおいおい!?ペム!ソイツは気狂いじゃねぇだろう?皆がその時に協力してたら、今頃マジックバッグは安価な商材として、帝都の特産品になってたはずだぞ?どれだけの収入に繋がってたか……」



「……って事は……もしかしたら、その没落魔道士の子孫の遺体かも知れない……って事なんだな?」



「アンガ、今はそんな事どうでもいいだろう?だってさ、ソイツは此処の場所を知ってたって事だろう?って言うか……子孫は魔道士じゃ無くて、冒険者なのかい?」



「レイラ……それは儂に聞かれても分からん。ギルドに伝わっているのは、フローゲル魔道士と息子であり唯一の弟子とされた、パウロと呼ばれた魔道士の話だけじゃ……」


 そう言ったペムは、あくまで知っているのはフローゲル親子だけだと付け加えた。



 遺体の様子を見た限り、既に数百年は経っている。


 このダンジョンという環境は、深部に吸収さえされなければ、それだけ長い期間状況を保てるのだろう……



 しかし僕は別の問題に驚愕するしかない……



 『フローゲル!?…………パウロにも子供が居たのか!?……あの手紙が最後ではない!?……って事は……まだその子孫はどこかで生き残っているのでは………』



 「ペムさん………そのパウロさんについて………」



 そう思った僕は、もっと細かい詳細をペムに質問をしようとした。


 しかしペムは、遺体の側に散乱する物の中から、膝を折りナニカを持ち上げた……



「これは……羊皮紙を束ねた手記!?うむむむ………羊皮紙の質から見ても……どう考えても年代が新しい。遺体の持ち物とは時代が異なるぞ?」


「ペム……その羊皮紙には、持ち主がわかる書き込みは無いのか?」



 そう言われてペムは、数枚の羊皮紙を広げて見る……



「秘薬の所在と万能薬の可能性?……隠し部屋……ダンジョンの謎と仕組みについて?………ダンジョンを相互に繋ぐ魔法陣?……何じゃコレは……とんでもない情報量だぞ!」



「ペム……それは魔法加工された物という事はないのか?遥かに年代が過ぎ去っていても、魔法が関わると大きく素材そのものに影響するだろう?」



 半ば興奮気味に、テカロン話しながらもペムが持つ羊皮紙を覗き込む……


 ペムは、数枚の羊皮紙をテカロンとガルムに渡し、手分けして持ち主の情報を探す。



 するとガルムが、羊皮紙を見た瞬間大声を上げる……



「……帝国史の情報との差異について!?……妻の呪いと解呪法!?……万能薬の製法と古代薬師の秘蔵レシピ!?……過去の王国騎士は別のダンジョンへ移動していた!?………こ……この手記はドドムの物じゃ!!アヤツ……やはり……この場所を知っておったのじゃ!」



「「「「何だって!?」」」」



 ガルムの台詞に、ダイバーズ全員の声が揃う……



「コレを見るんじゃ!……このダンジョンから他のダンジョンへの移動方法……あの馬鹿……コレを知っておいて何も儂らには言わなかったんじゃ!!」



「って言うかさ!コレを此処に落としていたって事は……アイツもう……」



 レックは言い辛そうに言葉を詰まらせた。


 だがレックを見た僕の目線の先にある壁には、どう見ても矢印が書いてる様に思える箇所がある……



「レックさん……どうやら……違うようです」



「ヒロ……ディーナとメルルの事で、希望を持ちたいのは分かるけどよう……。期待させ過ぎは残された家族の負担にしかならねぇぜ?」



 僕は今見えている物を説明しようとしたが、僕の言葉より先にテカロンが口を開いた……




「いや……あながちヒロの希望的観測は間違ってないぞ?……この羊皮紙を見ろ」



 テカロンに言われるままに、僕達はその羊皮紙に目を落とす……


 そこにはディーナの亭主ドドムの直筆の文字が書かれていた。



 ◆◇


 4階の階層主であるホブゴブリンは、もはや俺の敵では無い……


 この場所を知っているのが俺だけである現在、そのうち間違い無く『秘薬』が手に入るだろう。



 だが……遠い先の話では、呪いの進行が早くなった妻は到底間に合わない。


 いよいよ意を決して『連結しているダンジョン』へ行くしかなさそうだ。



 だが未開の地にあるダンジョンへ、単身で行くのは自殺行為だろう……仲間がいない以上強敵に出会い、死ぬ恐れもある。


 だから戻らなかった事を考えて、保険をかけておく事にした。



 もし俺を探しに来た冒険者が、この場所に辿り着いたのなら……我儘な俺から君に一つ願いがある。


 冒険者ギルドのテカロンに、俺の手記を渡して欲しい……



 彼ならばその内容を全て把握できるだろうし、君はギルドから情報料を受け取ることができる。



 僕がこの場所をギルドへ報告しない以上『発見者の栄誉は、君のものになる』だろう……


 その情報料は、それなりの金額を貰えるはずだ。



 報酬はそれだけでは無い……この遺体は、帝国の狂人『フローゲル』の家族だ。



 帝都にある『帝国魔導師協会』に、その存在を教えれば、間違いなく金貨袋を貰える。



 帝国魔導師協会の役員は、血眼になって彼等一族の行方を探しているからだ。


 『生死問わず情報を求める。所在を提供した者には<金貨200>を提供する……』


 そう協会内に張り出してあるので、それを君の報酬に充てて欲しい。



 因みに此処からは侵入した場所まで戻らなくても、この部屋から出られる。


 目の前の壁に矢印を付けてある。



 その矢印付近に回転扉がある……だが扉は一方通行だから、再度使っては戻れない。


 荷物を置いて行くような間抜けはしない様にな!それでは頼んだ……見知らぬ冒険者よ!



 ドドム・ジャスティン


 ◆◇



「皮肉なもんじゃな……此処へ来る者へ託した筈が……ギルマスが読むとは……」



「だけどさ……疑問も尽きないね?隠し部屋にはスカリーの遺体があった筈だよ?ドドムが消えたのはスカリーが死んだ後だろう?」



 ガルムの言葉にレイラがそう言う……


 しかしそう言った直後にモルダーを見て、レイラは『やっちまった』と言う顔をした。



「レイラさん、気にしないでいいっすよ……」



 そうレイラに言ったモルダーは『白骨化した遺体を届け出れば部屋の存在が知れ渡る。そして遺体がスカリーであるとは思っていなかった筈だ』と言った。



「そうじゃな……スカリーの遺体には触った形跡がなかったんじゃろう?触っていたなら………」


 ガルムがそう言いかけると、モルダーの真横に幽体化したスカリーが浮かびでる……



『彼は私に謝っていたわ。遺体が私だとは気が付いてなかったけど……通り過ぎる度に、彼は手を合わせて祈りをあげてくれていたの。そして『いつか必ず、地上へ連れ帰る……』と言い続けてくれてたわ……』



 スカリーは、念話を使い僕達へそう説明をしてくれた。

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