第883話「不思議な力と隠された部屋」
地下墓所系ダンジョンは元々、死体が安置されていた元の世界のカタコンベと同じ扱いだった。
そこには権力が高い人様に誂えられた場所が存在し、内部の造りはピラミッドや古墳の様な玄室の作りになっていた。
そして墓地が丸々ダンジョン化した場合、当然その場所もダンジョンに飲まれるので、玄室は『特殊な部屋』になるそうだ。
何の力も持たない位の高い者が安置されるならまだ良いが、稀に元宮廷魔導師や騎士が安置される場合がある。
そんな場合は最悪だと言う……
何故なら、スケルトン・メイジやスケルトン・ナイトは確実に誕生するからだ。
運が悪いと、スケルトン・ジェネラルやデス・メイジそして、デス・ウィッチになるそうだ。
「……と言う訳じゃ……ところでヒロ、さっきから気になっていたんじゃが……。お前……手のひらが光っとるぞ?……それは………何の魔法じゃ?」
僕はペムの話を聞くのに集中していたので、全く異変に気が付かなかった。
恐る恐る手のひらを翻し上を向ける……すると光の珠が浮かび出て、その珠が壁へ向けて飛んでいった。
「な!?……壁に……と……扉じゃと!?」
「ペム!!今まで無かったよな?……だって俺あの壁は何回も調べたぜ?……さっきまで普通の壁だった筈だって!!」
ペムの言葉に過剰反応したレックは、扉にすっ飛んでいく……
そして、レックの後ろを追いかける様にガルムも走っていった。
「見た限り罠はねぇ!……扉に鍵もかかってねぇし………。ガルム……開けるぜ?準備はいいか?」
ガルムは、僕らを下がらせた状態で……『うむ……いいぞ!』と言う……
『ギギギギッギ……………』
軋む音をあげて扉が開く……
扉の内部は、見るからに各階層と地上を繋げる転移陣の作りにそっくりだ。
「ま……魔法陣!?………これは……転移陣じゃ!!元の場所へ帰る為の物か?」
「ガルム俺が思うに……どう見ても、ヒロの手から出たアノ光の珠が影響している……としか思えんのだがな!?」
テカロンがそう言うと、今まで無かった扉をガシガシと触って確認をする……
「完全に扉だ………どういう事だ?……今日は分からない事が山盛りだ!……」
「ああ!テカロン……儂も同意じゃ!今日はもう早くギルドに戻って、エールを呑んでゆっくりしたいのぉ……」
そんな事を話す二人を放置して、僕は部屋に入る。
部屋へ行く理由は、魔法陣をチェックしつつも起動できそうにない表情をしているレックが居たからだ。
「レックさん……どうですか?帰り方は分かります?」
「うーん……今のところ起動の方法がなぁ……魔法陣の上に乗れば良い訳でもない様だ……」
そう言ったレックは、僕を見ると突然光に包まれた………
「お!?お……おい!ヒロ……お前そこで止まれ!……お……お前が鍵か!……お前が此処に入って来た途端……起動………『フォン……』………」
「レ……レックさん!?……レックさん!!」
「な!?……どうした?……何があったんじゃ?おいヒロ!レックは何処にいったんじゃ?」
僕がレックに起きた事を説明をしようとしたその途端……『おおー!!焦ったぜー!ヒロが鍵か……どうりで起動できねぇ訳だ!』と言いながら、転移陣を使ってレックが帰ってきた。
「この転移陣だが、もう使えるぜ!……ってか……多分此処の階層主はもう復活しねぇ……と俺は思うぜ!」
レックがそう言うので、僕はその理由を聞こうとした。
だがテカロンの『今はここから移動して、安全部屋に着いてから聞こう』の一言で、先に移動する事になった。
階層主の部屋という危険な場所で、何時迄も呑気に話をしている場合では無い……それがテカロンの出した答えだ。
◆◇
魔法陣はガーディアン居た部屋に通じていた……
その転移陣は部屋の中央にあり、全員が移動した後も魔法陣の光が消える気配さえない。
魔法陣見ていたレックは、おもむろに言葉を発した……
「なぁペム……これは『消えねぇタイプ』じゃねぇか?」
「レックお主の言う通りじゃな。これは『永続タイプ』だな……。この階層と言うか……役目が終わるまで、この状況は変わる事はないだろう……」
僕はペムの言葉に驚きが隠せない……
何故なら今居る場所は、間違いなくガーディアンが存在していた部屋なのだ。
「って事は……もしかして、この場所にはガーディアンが出る事は、もう無いって事ですか?」
「うむ……他のダンジョンでも見られる光景じゃ!」
ペムはそう言った後に『じゃが……この場所に湧かない可能性が全く無い訳では無いぞ?何せ発見したのは今日なのじゃ。何もかもが不明だとしか今は言えん』と付け加えて言った。
たしかにどんな冒険者だとしても、ダンジョンの仕組み全てを知っている筈もない。
だからこそ、ペムの答えも当然だろう。
「それより今は、この先の部屋に行くべきじゃろう?そもそもお主の目的は、あそこに見える部屋じゃろう?」
ガルムの言葉に、僕達は急かされる様に部屋へ向かう……
しかし、隣の部屋に続く門を前にしてレックが立ち止まる。
「俺が部屋の中を確認する迄は、お前たちは離れた場所にいてくれ」
レックは更に『そこが安全地帯である確証はない上に、罠の巻き添いはゴメンだろう?』と言うと、部屋の中に単身入っていく。
部屋の中で壁や柱など、あれこれ調べ物をするレックだった。
暫く時間が経った後、安全と判断したレックはひょっこり顔を出す。
「ガルム……この場所は安全部屋で間違いない。でも言い辛いんだが……部屋の奥には、既に白骨化した遺体があるぜ……」
非常に歯切れの悪い言葉を発するレックに、ガルムが門の中を覗き込む……
「その遺体がダンジョンに吸収されてない事を考えると、此処が安全地帯である事は間違い無いじゃろう……問題は『その遺体が誰か』じゃな……」
ガルムの台詞が指す意味は、ディーナの亭主である可能性が捨てきれないと言う事だ。
しかし僕とすれば、短期間で『白骨化』するものか……という謎が残る……
そう考えていると、テカロンが遺体収容用のマジックバッグを取り出す……
「レック。その遺体は白骨化しているんだな?ギルドとすれば……それが誰にせよダンジョンに残された遺体は、残さず必ず収容する必要がある……。永遠に浮かばれぬ魂など……決してあってはならんからな!」
「確かに……素性は分からんが、そのままにはしておけん。同じ冒険者としてな……」
「クレム……そうだな!同じ冒険者だ。誰だろうと連れ帰ってやらんとな……」
僕達はテカロンを先頭に、安全地帯である部屋の中に入る……
その部屋の中央には大きな噴水が有り、清潔な水が湧き出ている。
魔物が寄り付けない部屋だけあり、ダンジョンの中にあるにも関わらず不浄感がない……しかし部屋の端には、レックが言った通り一人分の白骨化した遺体があった。
「お!?おい……アサヒ!どうした?急に走り出して……」
「レック……アンタ本当に馬鹿だね?彼女は回復師になりたくてなった娘じゃ無いって事だよ!」
誰よりも早く遺体に駆け寄ったのは、アサヒだった。
アサヒはどうやら『祝福』を使い、魂が無事旅立てる手助けをしたい様だ。
「大きな翼で、病める者全てを包み込むポッポの神よ!この暗闇で命を落とし、傷付いた魂をその翼で天界へ導き給え!『祝福』………」
祝福を使ったアサヒは、壁に目をやるとなにかを発見した……
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