第885話「一方通行の隠し扉とドドムの行方」


 ガルムはゴーストとなったスカリーに恐る恐る質問をする……



「って事は……スカリーお前はドドムの事を知っておったんだな?何故今までそれを言わなかったんだ?」



『理由は簡単よ……彼は『また戻る』と言ってたもの……彼の目的の邪魔はできないわ。それに私は既にモルダーの元へ帰れた。他に望むものは何もないし、そもそも興味がないわ……』



 スカリーの言葉に、ギルマスもガルムも困った顔をする……



『貴方達そんな顔しないでよ……。そもそも私は既に人じゃないのよ?アンデッドという種族のゴースト系種の魔物なの……。目的意識も考え方も、人の頃とは大きく異なるわ』



 淡々と話すスカリーに若干戸惑いつつも、ドドムの取った行動の理由はよく分かった。



 遺体の場所を知らせる事は、隠し部屋の所在をギルドへ教えて、結果的に冒険者達へ知れ渡る。


 そうなれば、ドドムの目的達成が困難になる……だからこそ、彼は秘密にしたのだろう。



 取った行動からすれば、誉められる事ではない。



 だが彼には明確な目的があり、この場所を先に発見したのは彼なのだ。


 ギルドへ報告する選択は、彼の考え方に左右されてしまうのは仕方がない。



 『未踏域のギルド報告は冒険者の義務』と幾ら言ったところで、報告しても冒険者の生活保障は無い。



 ならば、未踏域での収穫を優先する冒険者は、ドドム以外にも少なからず居るだろう。



 しかし話を聞いていたペムは、スカリーの遺体問題だけが今起きている問題事では無い……とクギを刺す。


 するとレイラも、同調して話を始めた……



「ガルムにテカロンよ……問題はそこだけでは無いぞ?儂等の知らぬ『連結ダンジョン』なる場所がここには存在する!」



「そうだよ!ガルム……そこの行き方も、向かった階層も全く謎の場所さ!」



 たしかにペムとレイラの言う通り、問題は大きい。


 だが、何も情報が無いはより遥かにましだ。



「……それに……ディーナさんのご主人の足取りが掴めただけでも収穫です……各階層を虱潰しに捜せば、いずれその場所も見つかる筈ですから」



「ヒロの言う通りだ。食い物が尽きて死んでるような感じでは無い事は理解出来た。食糧含めて充分な用意をしてドドムはそこへ向かった……と言う事だろう……」



「そうじゃのぉ……問題は帰って来れるか……その部分だな!」



 僕がそう言うと、ガルムとテカロンは理解を示す。



 そしてテカロンは『ギルドで緊急会議をせねばならん案件だ……ひとまず地上へ戻り、羊皮紙の情報を精査しよう!』と言って、全員の同意を取る。



「そうじゃな!今日は色々あった……既に儂き持ってきた回復関係も品切れじゃ!」



「ガルムそれだけじゃ無いぞ?アユニの魔法もあてに出来ん。MP云々の話では無いぞ?」



「むむ?……言われてみればペムが使う魔法より、危険なのを連発しておったな?そんなに危険なのか?儂は魔法を使わんからなどうもしっくり来ないんじゃ……」



「いいかガルム……魔導師が高威力魔法を連発しすぎれば、バックファイアの危険性も増す。ここらで少し休息を入れんと、仲間が危険じゃ!」



「アタシも流石にペムの意見に賛成だな。ボスクラスを二連戦……。それも二戦目明強制戦闘で、正体不明ってんだから始末が悪い……。ここで三匹目は流石に全滅するよ?」



 ダイバーズの三人がそう言うと、マガワーマ騎士団も同意を示す……



「我々は何も役には立っていないが……言わせて欲しい。残念ながら既に盾の耐久値が底をついていている。あと数発喰らえば破壊され修理さえ出来ん。そうなれば満足に防御も出来ない……」



「団長の言う通りです。出来れば地上に出て盾を補充させて欲しい。そうすれば、我々はまだ戦える……何処へなりとも同行しましょう!」



「辞めておけ!マガワーマ騎士団。一度地上に出たら集中力はそこで途切れる。連戦で挑めば間違いなく誰か死ぬぞ!」



「ク……クレム殿……ダンジョンとはそう言う場所なのですな……勉強不足で申し訳ない!!……」



 騎士団の話がきっかけで、クレムの注意が入り、完全に帰るムードだ。



 だが、階層主の財宝を分配する作業もある。


 それに冒険知識が少ないアユニ達がいれば、この先で無駄な血が流れる事も考えられる……



 一度街へ帰り、後日単独で調査した方が効率は間違いなくいいだろう……此処は僕としても賛成をしておくべきだ。



「そうですね……街へ一度帰りましょう!財宝配分も有りますし。僕はディーナさんへ、ご主人の向かった先の報告をしないと……あと、ドドムさんが書き記した羊皮紙にも興味がありますし!」



 僕はそう言って、ペムの手の中にある『薬師のレシピ』を指さす……



「そう言えば……薬師絡みのナニカを見つけたんじゃったな?儂も気になる。ひとまずギルドの会議室で皆で見るとするか?財宝もあそこであれば、問題なかろう。ギルマス管理の元、安全に分配が出来るからな?」



 ガルムはそう言うと、麻袋を『よいしょ……』と言って持ち上げる。



「まさか……これ程とんでもない量の財宝を手に入れるとはな……当分ギルドは財宝話で持ちきり決定じゃ!」



 僕達は壁に書いてある、歪な矢印に近づく……



「……ご丁寧な事に、書いてくれたのは感謝じゃ……」



「よく目を凝らして斜めに見れば……矢印だな……」



「ガルムにクレム……マジで言ってるのか?俺にはどう見ても壁の傷にしか見えん……」



「全くもってアンガの言う通りだな。これを見たら初見で矢印とは言わんぞ?ギルド職員には、前もって周知させねばならんな……」



「それにしたって……絵心がねぇ奴が描くとヒデェもんだな……俺に任せてくれればもっとまともにするぜ?」



 ガルム達に続きレックが最後にそう締めくくる。



 そしてレックが矢印先の壁を小突くと、勢い良く壁が回転した。



「確かにこの壁は『回転扉』だな……。珍しくも無い仕掛けだが……多分コッチから押さないと回らない仕組みだぜ?」



 そう言った後レックは回転扉を潜り抜け、反対側に抜ける……



「幅が狭い上に、一方通行か……なかなか面倒臭い仕掛けだなぁ……」



 僕はそうボヤきつつ、回転する石壁を潜る……


 そして出た先は、見覚えのある通路だった。



「この通路って……転移陣に向かう通路じゃのぉ………まぁ地上に近いのは今は助かるからいいが……。転移陣間近にボス部屋か……灯台下暗しとは………まさにこの事じゃな……」



「帝都付近には海が無いのに……その言葉は使うんですね?」



「儂は元々海の近い村で育ったんじゃ!……じゃがヒロ……お主……そんな言葉まで知っておるのか?儂の村くらいでしか使わんぞ?」



「そんな事よりヒロ!ガルムの育った村は漁村の割に栄えてるんだ。お前もいつか行ってみるといいぜ?だよな?レイラ」



「ああ、帝都じゃ貴族御用達のお高い魚の干物も、向こうじゃ捨てる位あるんだ。値段なんかも帝都とは段違いだしね。魚料理だけでも是非食べに行くべきだ!」



「それに……あそこは水生生物のダンジョンがあるしな!特殊なダンジョンじゃが、リザードマンやケルピーなどの魔物との戦闘経験を積むには良い場所じゃ」



 そんな雑談を挟みつつ僕達は、地上への転移陣を目指す……



 ◆◇



「帰ってきました!マガワーマ様!」



 第一層の出入り口は、多くの冒険者でごった返しているが、一際大きな声が周囲の注目を集める……



「どうだ!?箱は!?箱はあるか?」



「そ……それが……全員手ぶらで………」



「な!?何だと!?…………話が違うでは無いか!!宝があると……」



「しかし……激闘の様が見てとれるくらいの有様です……。盾などもう耐久値は無いと思われ……」



「盾が!?盾などまた買い与えれば済むだろう!!儂は『財宝はどこだ!』と言っておるんだ!!……」



 そのマガワーマ伯爵の言葉に、周囲の冒険者は興味をそそられた様だ。


 一瞬にしてその歩みを止めて、伯爵の状況を見守っていた……

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