第876話「解錠条件と強制戦闘」


 ガルムは騎士団に向けて空の瓶を見せて大声で言う……



「おい!お主等飲まんなら、持っている物は儂がもらうぞ?この後は『階層主戦』じゃと言っておっただろう?アンガ、お前もそう思うじゃろう?」



「ああ、確かに今飲まないなら俺も欲しいぜ?オーバーヒール気味にしておけばHPゲージも少し伸びるからな!」



「ああ、そうじゃな!回復魔法と違って、オーバーヒールペナルティのデメリットが無いからのぉ!」



「ガルム!さっきのあの階層主の部屋は……実は『ガーディアン』の部屋だったって話じゃねぇか。この先ぜってぇヤベェぞ?だからその薬は、タンクの俺が貰うべきだって!」



「待て待て!階層主戦はかなりシビアな筈だからな!どうせ死ぬなら俺にくれよ?倒した後に箱が出たら……俺が必要だろう?」



 僕は騎士団と彼等をおちょくるダイバーズの間に入り、話をする……



『すぐに飲んで回復してください。HP減ってるんですから!死なれて文句を言われるのは僕ですよ?あと!それを飲まずに誰かが死んだ場合、此処の部屋での報酬は差し上げませんので!』と言っておく。



 あげた物をどうするかは個人の自由意志だが、予想して無かった階層主戦が控えているのだ……


 そもそもの話だが、助かる可能性を自ら捨てるのであれば、この後の階層主の部屋には入らないで貰いたい。


 目の前で死なれても寝覚が悪いだけだ……



「お前たち、ちゃんと飲み干せ!我々は『同伴し彼を守るのが役目』だ……もう忘れたのか?大馬鹿者め!伯爵様の命が優先だ!他国との戦争の話は今は関係ない!そもそも一人でも多く残らねば、その役目さえ果たせん!!」



 そう言って団長はグビグビと飲み干していく。



「おお!?……コレは……本当に傷薬ですか?ポーションの間違いでは?……」



 僕はどきどきしながら『ポーション?傷薬ですよぉ〜』と嘘を言う……『ポーションの修正値付き』を無料配布などと知られた場合、それこそ大問題だ。



「さぁ、あの巨大な門……見るからに階層主ですね!隠し部屋に転送部屋……本当に手が混んでいるダンジョンだ……」



「全くだよ!なぁヒロ……箱が出たら今度は俺に開けさせろよ?……階層主の箱なんか、そうそう開けられねぇからさ!」



「儂もかなり長い間潜って来たが……このダンジョンで初めて見るぞ?こんな巨大な門は……」



「レック!アタシ達の分の箱はお前に任せる!だから必ず生き残るんだよ?アンタに死なれて取りっぱぐれは困るんだ!」



「やめてくれよレイラ!そんな風に言われる奴は死ぬんだ。なぁ……ガルム8階層の階層主の部屋……あれって実は『ガーディアンの部屋』って事は……ないよなぁ?」



「儂はそれをわざわざ言わないでいたんだぞ?ボス前だっちゅうのに……お前は儂の士気を上げたいのか下げたいのか?どっちなんじゃ!?」



「はははは!ガルム!間違いねぇな!」



「じゃあアタシ達で此処のボスをぶっ倒してから、日を改めて8階層へ確認しに行こうじゃないか!そうすりゃあ済むこった!アンタ達……どうだい?」



「「「「「賛成(じゃ!)!!」」」」」



 僕はやる気満々で騒いでいる、ダイバーズ全員のステータスを確認する……『状態・オーバーヒール HP上限+15%』


 ガルム達が言った通り、ゲージを振り切った回復をした為に、特殊効果がかかっている状況になった様だ。



 思いがけない情報だったが、ステータスの底上げが出来るなら進んでやるべきだろう!


 無事に生き残る為にも……



 ◆◇


 僕はポーションを1瓶煽ってから、準備が完了したか皆に尋ねた……



「準備はもう平気ですね?あの門を潜った人が、この中には誰一人居ないのは確実です!何が出るか分からない以上、細心の注意をしましょう!」



「そうじゃな!……ひとまず入る前に、門の外から敵を目視しようと思うんじゃが……どうじゃ?」



「そうだな。ガルムの言う通り、多分それが一番良いだろう……。問題は階層主と呼べる魔物なのかだな……既に我々は何処に居るかさえ分からん……」



 僕は既に何度か『感知』と『魔法の地図』を使って位置確認をした。


 だが、周囲は壁である表示しか出ない。



 別の階層もしくは狭間的な場所に転送されたか、通路では行けない壁の奥にこの場所があるか……其れ等のどれかだろう。



 その事を踏まえて、ギルマスのテカロンがそう話したのだ……



「レック、扉に何か仕掛けが無いか調べてくれるか?」


「ガルム安心しろよ!もう調べてるぜ……。罠系の仕掛けはなぇが……問題は山盛りだ。古代語でこう書いてあるぜ……」



 そう言ったレックは、古代文字と言うものを読みあげる……



『黄泉路へ続く門を潜る者は全ての希望を捨てよ。全ての試練を撃破し、化現せし死の象徴を倒せし者には、不死の王へ続く道が示されるであろう』



「どう言う意味かわからねぇけど……完全にヤベェ道に足を踏み入れてるのは間違いねぇぞ?どうする?ガルム……引き返すなら………」



『ガチン!!』



 レックが読み上げた後に、自分の考えを言おうとした時だった……『何かが外れる音』がしたかと思うと、扉が勝手に開き始めたのだ……



「くそ……マジかよ!!読み上げることが『解錠条件』って!!そんなのアリかよ!!」



「レック!最早引き返せんと言うことだ……。仕方ない階層主を叩き殺してお宝を頂くぞ!!」



『ゴゴゴゴゴゴ…………ギギギ……………ゴゴゴゴゴゴ………』



 開いた扉の奥には、巨大な祭壇があり、中央には既に巨大な宝箱が鎮座している……



「ガルム……何だあれ?既に宝があるぜ?だが階層主がいねぇ……」



「ミミックの特別種かもしれんな………近づいた瞬間『ガブリ』って奴じゃろう」



「ガルム……アンタの言う通りだろうけど……分かって尚、あの大きさのミミックは脅威だよ?開けた瞬間、ソイツは丸呑みされるだろうからね?」



「じゃから言っとるんじゃ!そんな手に引っかかる奴が、階層主に挑むと考えておるんかのぉ……。遠距離ってもんがあるって知らんのか?……マッタク……舐められたもんじゃ……」



「レイラ……ミミックだったら外から感知すりゃあ分かるだろう?……でもアイツおかしく無いか?敵性反応がねぇんだよ……。俺の感知がおかしいのか?」



 レックの言葉に僕も鑑定を使って探ってみる……



 すると思わぬ情報が返された……『ダンジョン…ペルペテュエル・カタコンベ階層主の報酬』……



『ペルペテュエル・カタコンベ……?これってダンジョン名か……!?……階層主の報酬が既に出ている!?……既にボスは倒された!?……どういう事だ?』



 僕は言葉に出さずに頭の中でそう考える……そのあと僕はガルムに確認をする……



「ガルムさん。ちょっと質問が……このダンジョンの名前って………なんて名前ですか?正式名称を教えて欲し……『ドガン!!』」



「ぐあぁぁぁ!?」



「な!?何事じゃ!?………今の声は………アンガの声か!?」



「え!?……アンガさん?一体何処へ……!?」



「何がどうなっちょる!?クレム!報告をせい!!」



「………ガ……ガルムさん!………アンガさんが遥か先まで飛ばされて………一体何が!?……」




「な!?……アンガ!?ガルムにヒロ!!周囲に気をつけろ!アンガが何かに吹っ飛ばされた……既に部屋にナニカが居るぞ!!」



 僕が質問しようとした丁度その時、アンガの絶叫が部屋に響いた……



 僕とガルムそしてレックは、扉の前に立ち中を伺っていた。


 だが、アンガはクレムと一緒に僕達から数メートル背後で皆を率いていた。



 しかしアンガは、突如空間が避けて飛び出して来た魔物にの攻撃を受けたようで、離れた場所の柱付近まで吹き飛ばされた。



「クソ痛ぇ………盾が滅茶苦茶に歪んでやがる!階層主戦に備えて装備してて正解だったぜ……盾にぶつかって無ければ、下手すりゃあ死んでたぜ……」



「アンガ!?大丈夫か?……くそ……一瞬姿が見えたが……もういねぇ……」



 クレムはアンガが攻撃を受ける一瞬を見ていた……しかしその全貌を見るまでには至らない。


 何故ならば盾を持つクレムはアンガより少し前にいたからだ。


 だが意外にもそのクレムの言葉に反応したのはアユニだった………

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