第875話「太古の魔物……グレート・デイノスクス」


 迫り来るグレート・デイノスクスは、何を食ったらそこまでデカくなったのか、疑問に思えるほどデカい……


 しかしその巨躯を、どうにか出来る攻撃方法が僕にはある。


 騎士団員達は、グレート・デイノスクスの血飛沫を頭から被る事になるだろうが、ウォーターで頭から洗えば許してくれるだろう……温水が良ければ炎系の魔法でお湯を作っても良い……


 僕はそう思いつつ、突進してくるグレート・デイノスクスへ水槍撃を放つ……



『ドスン……ドスン』



「ギェェェェェ!!………グルルル………ギュアァァァァオォォォォォ!!」



「グルルル……ゴアァァァァ!!」



『ドスン……ドスン………』



「ゴルルル……ギュアァァァァオォォォォォ!!」



「ガルムさん、すいません!後退を既に待ってる余裕はありません!!……『水槍撃』……」



 僕は目の前に迫るグレート・デイノスクスの頭を水槍撃で吹き飛ばす……



「おお!?一瞬で?……あの巨軀がミンチに!?………」



 目の前で吹き飛んだグレート・ディノスクスを見て、一瞬歓声を上げた騎士団長だった。


 だが、直ぐに真横から迫る二頭が目に入った……



「ギョガァァァァ!!!」



「ああ……ヒロ殿……両脇から二頭の新手が……。くそぉ!騎士団員!命を捨てろぉぉぉ!!何としても彼を守り抜け!一人でも生き残り、財宝を我等が主人へ持ち帰るのだ!!突撃ぃぃぃ!!」



「グルルル……グギャオォォォォォ!!……ギョガァァァァ!!!」



 両脇から先行する一頭を避ける様に歩み来る後続二頭は、先行していた仲間が弾け飛ぶのを見て大口を開けて威嚇して来た。



「うぉぉぉぉぉ………口がデカくて怖いんだよぉぉ!!……ってか……騎士団の皆さん邪魔です!射線が潰れて……ああ!もう!!……『瞬歩!』………」



 僕はそう言ってから、騎士団が巻き添いにならない位置へ移動する。



 僕はその口目掛けて、ウォータースフィアをぶち込んだ。



「二匹で叫ぶな!!近過ぎて鼓膜が痛いんだ!!……消えちまえ!!……『ウォータースフィア!』………『瞬歩!!』………」



『ゾシュ………ババン……』



「ちょっと!騎士団全員邪魔です!!マジで邪魔です!!……射線が通らないんで、移動を辞めてください!!……ああもう!!……『ウォータースフィア!』……」



「ギェェェェェ!グルルル……ギュアァァァァオォォォ!!………ゴベ!?……ブバァァァ……『バボン!!』………ブビャァァオォォォ……ォォォォォ……ォォォォォ」



 三匹目のグレート・デイノスクスを倒した時点で、後退移動中のガルムが異変に気がついた……


 騎士団全員が戦闘に参加し始めたので、大急ぎで怒声を放つ……



「オンドリャ!!この騎士団のボケ!……儂が『邪魔じゃ!!!』と言っておるのが、お主等には分からんのか?……」



 怒声と言うより暴言に近いが、感情がこもり過ぎていて嫌でもその気持ちが伝わる……



「ぜ……全員!!後退移動!!……即座に転進!!………ガルム殿の方へ向かうぞ!!」



「見るからに邪魔にしかなって無いじゃろうが!?じゃから言ったじゃろうが!」



「ガルムの言う通り、ヒロって奴はそのグレート・デイノスクスより遥かに脅威な存在だよ!アンタ達……早く戻っておいで!」



「儂等には彼の移動さえ目で追えんのじゃ!!レイラの言う通り、邪魔になるから儂等より後ろにさがっちょれ!」



 グレート・デイノスクスの返り血で頭から真っ赤になった騎士団員は、グレートヘルムのお陰で視界こそ平気だった。


 そのおかげで逃げる場合も、視界を返り血で塞がれる事はなかった。



 彼等はガルムの怒声を受けてか……それともこれ以上血飛沫を浴びたく無いのか……急いでその場から後退をする。


 それを感知で確認しつつ、残る二匹を分断する様に、僕は魔法を放つ準備をする。



「なかなかあの魔獣は知能があるみたいだな……」



「片方が死んでも片方が噛み付ける様に移動するなんて……本当にワニなの?」



 クレムとレイラは皆を一纏めに集めて、そう話をする……



「じゃがヒロは何かする様じゃぞ?……纏めて攻撃しても、片方に噛まれるってわかっちょるんじゃろう……お?威嚇し始めたぞ……グレート・デイノスクスの辛抱負けじゃ!」




「ゴアァァァァ!!……グルルル……ギュアァァァァオォォォォォ!!」



「始まるよ!……アユニ達もよく見ておきな!」



「ヒロさんあんなのと一人で?アユニ……貴女もあんなのと一人でよく戦えたね?……私だったらもうお腹の中だったわ……絶対に!!」



「マナカ、魔物と戦うのが冒険者が一番上手い理由は『連携』だけじゃ無く『圧倒的な破壊力』と『瞬発的な行動力』がものを言うって事さ!」



「ああ、レイラの言う通りだな。……多分……二手……多くて三手で一匹は始末するはずだ!」



「ゴアァァァァ!!……ギュアァァァァオォォォォォ!!」



「グルルル……ゴギャァオォォ……」



 僕は威嚇で大声を上げる時を待っていた……何故ならば『声を発したら勘づかれる』からだ。



 詠唱呪文は無詠唱で短縮できても『魔法名称を言わねば』事象は発生しない……だから威嚇で叫ぶのを『待っていた』のだ……



「それは悪手だ!……『水槍撃!』………」



「……グギャオ……『ズシュ!!』……ベバ!?……『ドシュ!……バボン!!』……ババボ……ゴバ!!……『ズシュ!ゾス……ドス』……グギャオ!?……ゴバ『バババン!!』……プギャ!……『ボン!!!』………オォォォ……オォゲェ……」



 威嚇の叫び中に攻撃を受けた為に、威嚇の声が途中から断末魔に変わる……


 もう一匹も威嚇に合わせて叫ぼうとした様だったが、僕の魔法を見てすぐに『噛み付き攻撃』を仕掛けて来た……



「グルルル……グガァァ!!」



 僕は前脚を狙って………『ウォーターバレット』……と唱える……


 すると巨体を捻る様に、横へローリングしてウォーターバレットを見事に避けた……デカい図体の癖に、とんでも無い反射神経と動体視力だ。


 前にテレビで、水の中の獲物の肉を食いちぎる時に回転する映像を見たが、それを攻撃を避ける手段に咄嗟に使う知能はびっくりした……


 しかし横回転は手段とすれば最悪だろう……


 視界が目まぐるしく回転する事と、足場が不安定なので次の『水槍撃』は避けられない。



『水槍撃!!』



 僕はただ呪文を詠唱し、巨大な水槍の槍衾をお見舞いする……



「ギェェェェェ!?……ギュアァァァァオォォォォォ!!……ギエェェ!!」



 グレート・デイノスクスは回転している最中なので、避けることが出来ずに『ドス……ドス』と巨大な水槍が突き刺さっては絶叫をあげている……


 そして10本の槍衾が一斉に破裂すると、そこにはちょっと前までグレート・デイノスクスだった下半身と尻尾しか残っていなかった……


 尻尾は回転の力がまだ残っている様で『ビッタン!ビッタン!』と地面を打ち付けるが、やがてバタつく脚と同じ様に静かになった。



 ◆◇



「いまだに信じられません……あの高威力な魔法……。ヒロ殿は古の賢者様なのですか?……ああ!すいません傷薬まで戴いて……」



「た……隊長!!この色……修正付きですよね?コレは買うとなったらかなりの値打ちです!」



「こ……この大馬鹿者が!!……黙って好意を受け取らんか!……」



「しかし……騎士団にコレを6個分持ち帰れば………戦争時に役に立ちますぞ?」



「ヒロ殿の戦力があれば、我々などゴミ同然です!今回復しても無駄になりましょう!」



 珍しい品物に欲が出た団員は、持ち帰る宣言を進言する……


 しかしガルム達は別の考えがある。



 騎士団は自分が死んでもアイテムが仲間の為に役立つ方を選んだが、ガルム達は『生き残るための手段』を選んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る