第868話「新手?巨大なカタツムリの魔物」


 ガルムは突風に飛ばされアンガとクレムにぶち当たった。



「な?………ガルム……………『ゴス……』………どわぁぁぁぁあ…………」



「ガルム!?……アンガ!?………『ゴスン』………ぐわぁぁぁぁ…………」



 ガルムとアンガそしてクレムは、突然の強風に抗えずそのまま吹き飛ばされ地面を転げ回る。



 ガルムは転がりながらも、なんとかその勢いを利用して立ち上がる事に成功した。



「アンガ!クレム!……無様に転げ回るのは終いじゃ!!風の勢いを利用してすぐに立ち上がれ……」



 ガルムの声に合わせる様に僕の耳元で声がする……風っ子だ。



『まったく……貴方といい仲間の奴等といい……気を抜きすぎなんじゃ無いかしら?私が居なかったら潰されて死んでるわよ?』



 極小サイズで化現した風っ子は、風魔法でガルム達三人を吹き飛ばし彼等をナニカから助けた様だ。



 『ズドン………ドシャ!!』



「シュゥーシュゥゥゥ…………キチキチ……カチカチ……キュイィィィィ」



「!?……ま……魔物が天井から降って来た!?……風っ子!ありがとう……流石に重装備の三人といえども、あの大きさに潰されたら無事では無かったはず……」



 ガルム達も、風の突風が階層主の攻撃では無いとすぐに理解する……


 今までガルム達が居た場所に、上から何かが落ちてきたからだ……



「な?………なんじゃと!?………上から……魔物じゃと!?………儂等が居た場所に!?……それも特大級のデスカルゴじゃと!?」



「ガルムにアンガ……大丈夫かい!?……クレム!アンタの盾はデスカルゴの下敷きだ!アタイが代わりの盾を届けるまで、絶対無理すんじゃ無いよ……」



「レイラすまん!出来る限り急いでくれ!!……ガルム……困った事にデスカルゴだ。あれは10層にいる悪魔種の魔獣だぞ。俺は今全く役に立てねぇ……。ふっ飛ばされて盾を落としちまった……」



 轟音とともにそこに落ちて来たのは、先程のハイドホラーとは全く違う魔物だった。



 巨大なカタツムリの様であるが、本来殻がある場所に殻はない。


 本来殻がある場所には何故か巨大な人間の顔があり、口から舌の代わりにカタツムリの頭の様なものが飛び出している。


 そして魔物の全長は10メートルを超えている……見かけからして、非常に気色が悪い化け物だ。



 見たことの無い魔物を、僕はすぐに鑑定で確認する。



『デスカルゴ……悪魔種・昆虫系魔獣。捕食した人間の頭部を利用して殻を作る。殻となった人間頭部部位は、穢れを吸収し巨大に成長する。この魔獣は巨大になるにつれて脅威度が跳ね上がる。本体の大きさにより、溶解液、酸性ブレスを使い分ける。既に殻持ちの場合に限り、新たに捕食した人間の頭部を使い分裂個体を産み出す。尚、頭部部位には人間だった頃の記憶を併せ持ち、デスカルゴ本体が消滅する迄、死ぬことが出来ない」



 鑑定結果に出たのは、クレムが言った通り『デスカルゴ』と言う魔物だった。



 僕はデスカルゴが落ちて来た天井を見て召喚魔法陣が消えているのを確認してから、風魔法で吹き飛ばされたガルムを見る……


 ガルム達の位置を確認したのは、瞬歩で移動して盾を届けるためだ。



 しかしガルムは、何かを発見した様で目を見開いて天井をマジマジと見上げていた。



 僕もその視線の先を追って、ガルムと同じ様に見上げる……



「な!?新たな召喚魔法陣?………天井に?……階層主は影の中なのに!?」



 僕の言葉を聞いたレイラは、僕と同じ様に見上げて『チィ!』と舌打ちすると、文句をたれる……



「階層主め……さっきの召喚魔法陣は『囮』って事かい!!ペムにレックさっさと移動するよ!あの魔法陣が完成したら、上から落ちてくるデスカルゴに潰されちまう!!」



「な!?………天井に魔法陣!?……いつに間にっ……てかヤベェ!!あのサイズの魔獣があの高さから降って来たら此処は大惨事だ!」



 レイラの言葉にびっくりしたレックとペムは、バラバラに逃げようとする……


 僕はそれを見て、咄嗟に大声で注意を促す。



「レック、ペム!!駄目だ、バラバラに逃げたらいい的になる!!」



『人間ハ本当ニ馬鹿ダナ……天井ニ魔法陣ヲ作レベ勝手ニ自滅スル……』



 階層主の念話の声はするが、姿が見えない……


 しかし、レックの背後には階層主であるハイドホラーの巨大な熊のような手が伸びている。



 そして鉤爪が大きく開かれ、そのまま真下の影に突き出た腕が飲まれていく……



 階層主の攻撃は特性を最大限に活かしていた。


 わざわざ腕を振るう真似などしなかった……



 真っ直ぐ影から勢い良く腕を伸ばして鉤爪を開き、影から腕を引き抜くだけで攻撃が成立してしまう。



 レックは突然目の前に巨大な腕の影が出来た事で、自分に起きている異常に気がついた……



「ああ……くそ!!ついてねぇ……狙いは俺か………」



 そう言って動きを止めてしまったレックは、回避行動も忘れて真後ろへ振り返ってしまう……



「な?腕が!俺の影から!?………う………うわぁぁぁぁぁ!」



 レックの悲痛な叫びが大声で発せられる……



 しかし僕の耳元で水っ子の声がする。



『ヒロ!レックが動きを止めた今しかチャンスは無いわ!水の絶対防御……<水障壁>よ!あの水の障壁なら如何なる攻撃も全てを防ぐわ!!」



「!!……確かにその手が!!………『水障壁』………」



 僕はレックに水の障壁を発生させた後、すぐに『僕が指示するまで、絶対にそこを一歩も動かないで!!』と大声で指示をする。


 もし中から水障壁にうっかり触れれば、絶対防御の効果は無くなってしまう。



「何だこれは!?……ヒロ……これは……お前の魔法なのか?……頼む助けてくれ!俺はまだ死にたくねぇ……。優しい嫁さん見つけて結婚して、子供も沢山欲しいんだよ!!」



 切羽詰まった時に人間は本音が出ると言うが、レックは大層な結婚願望があるようだ……


 しかしレックを取り巻いているのは、特殊な効果がある絶対防御の水結界だ……外からの攻撃では破壊が出来ない。



 階層主が水結界内部の影を利用しているわけでは無い以上、外から触れれば痛いでは済まない……



 現にハイドホラーの腕と鉤爪が水結界に触れた瞬間『ベゴ!……バキベキ……バキ』と激しい音をたてて破壊され、突き出した腕から指先まで全てを巻き込んでいる。



「ぐぎぃ!?……ギィアァァァァァァ!!……」



 レックを引き裂こうと、階層主が勢いよく腕を影から引き抜いたのが災いした……


 凄い勢いで回る水の障壁に、見事に鉤爪だけでなく腕まで触れてしまったハイドホラーは、片方の肘関節辺りから先を見事に持っていかれ、鋭く硬そうな鉤爪までも粉砕される……



 能力を使い影から腕を出しているせいで、被害は甚大だ。


 水球に飲み込まれ粉砕した部分からは、絶え間なく血飛沫があがっている。



 痛みで悲鳴を上げたお陰で、僕にはハイドホラーの居場所がわかった……奴は天井に張り付いていたのだ。



 でこぼこした天井の影を利用して、足を影の中に固定してぶら下がっていた……


 それは一見するととんでもなくデカい蝙蝠のようでもある。



 そして僕には収穫もある……


 どうやら身体の一部が影移動をしていると、感知には表示されない裏技の様なものがあるようだ。


 感知スキルの穴と言うべきだろう……



 全てをスキルに頼り切れば、イレギュラーには対応出来ないという良い例だ。



『ウォーター・バレット!!』



 僕は即座に天井に張り付いたハイドホラーに向けて攻撃魔法を放つ……



 勢いよく放たれた水の弾丸は『ズシュ!バシュ!』と音を立てて、ハイドホラーの身体に突き刺さった。

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